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パシフィックニュース

コネクトTFの事例紹介

義肢

コネクトTFの事例紹介

川村義肢株式会社 大阪南営業所
義肢装具士 町井 利春

2023-10-02

はじめに

下肢切断における切断原因は近年大きな変化を示している。1968年~1997年までの30年間では年間の切断者数に大きな変化が見られない。労働および交通災害を中心とする外傷による切断が34%、動脈硬化、糖尿病、バージャー病などの循環障害が37%を占めているとの報告がある。しかし、1970年~2004年のデータでの原因疾患における変遷に目を向ければ70%以上を占めていた切断原因の外傷が1/2に減少している。これに代わって2000年~2004年の5年間では循環障害による切断が全体の80%に増加している。中でも閉塞性動脈硬化症および糖尿病が著しい増加を示している1)
このような切断原因の変遷によって、循環障害を呈した切断者は健足を含めた全身状態のコントロールに難渋するケースが多く、義足を製作しても実用性に乏しい場合がある。特に大腿切断者や透析を受けている患者の心身状態そのものが良くないこともあり、義足を製作するか否かを多方面より評価・検討する適切な方法が必要である。

そこで我々は新規大腿切断者に対して義足適応の評価を目的としてギプスソケットの代わりにプラスチックキャストを使用したソケット(以下 簡易ソケット)を製作していた。しかし簡易ソケットを製作するには①2時間程度の作業時間と②義肢装具士の経験値という2点の問題点があり社内においても普及には至らずにいた。
しかし、今回オズール社製既製品大腿ソケットコネクトTF(以下 コネクトTF)を使用することにより2点の問題点に改善が見られ、臨床での有効性が見えたので紹介を行いたい。

コネクトTFの使用方法

コネクトTFは【ソケットの深さ】【ソケットのテンション】【断端末の形状】の3点を調節可能とする既製品大腿ソケットである。使用方法もシンプルであり、何度でも調節可能というメリットも大きい。

手順① 【準備】
適正サイズのライナーを装着頂きテンションボビンを緩めておく。
ライナーのピンを穴に挿入し装着。必要に応じてロック解除ボタンを回転させて完全に引き込む。
手順② 【ソケットの深さ設定】
内側近位シェルを会陰部から2cmに設定し仮止めをする。
外側近位シェルは内側近位シェルよりわずか上に設定し仮止めをする。
これでソケットの深さが確定する。
手順③ 【ソケットのテンション設定】
全てのレースが大きく緩んだ状態を確認しハンドルを下げて閉じる。
たるみを取る程度に各ボビンを押しながら回転させる。
メーカー推奨の初期設定値である1Nmに設定したトルクレンチにて複数回に分けてボビンを少しずつ締めていく。この際、遠位後面→遠位前面→近位前面→近位後面の順番で調節を行う。
全体を締めた後に一度ハンドルを上げて開放し、再度ハンドルを下げて閉じた状態でもう一度1Nmのトルクレンチにて締めていく。
1Nmはあくまで目安のため、必要に応じて適宜調整を行う。
手順④ 【断端末の形状設定】
椅子に浅く腰かけて頂き支柱の設定を行う。
断端の長軸に対して垂直になるように断端末を移動させる。
こうするとピンをロックに挿入しやすくなる。
手順⑤ 【最終確認】
スタティックアライメント、ダイナミックアライメントを確認の後、各部のネジに緩みが無いか確認をしてコスメチックカバーを取り付けて完成。

症例報告

症例1:74歳女性、右下肢壊死性筋膜炎
突然の熱発、右下肢壊死により救急搬送。搬送先にて当日大腿切断に至る。その後、化膿性脊椎炎を呈し100日目より端座位が可能となる。両下肢に著名な浮腫を認めるも術後173日目に平行棒内での健側歩行獲得。この時点で義足を検討するに至った。
股関節伸展‐15度と長期間での臥位生活による全身的な廃用の2点から義足の実用性に疑問を呈し、理学療法士(以下PT)より簡易ソケットの製作依頼を頂いた。
キャストライトでの採型は時間を要するため、体力的に不可能と判断しコネクトTFを使用して評価を行った。膝継手は安全性を重視し切り替え式マニュアルロック多軸膝継手OFM1を採用。足部は不整地への追随性を考慮しSACH足部バランスフットSを採用した。採型が不要なためコネクトTFを設定し以遠のパーツ取り付け、1時間程度で立位評価が可能となった。PTの介助にて微調整の後、ピックアップウォーカーでの歩行も可能となった。2週間の訓練によりPTはコネクトTFを使用することで課題発見断端周径変化量の確認が取れ、対象者は義足への意欲と自信を獲得したため、正式に製作へと移行した。
チェックソケット移行時には坐骨部への圧痛を伴ったため、クッションを貼り除圧を行った。原因として、コネクトTFは坐骨受けが無いデザインのため、適合評価時の差異が多きかったからだと考える。しかし、調整後は順調に訓練が進み完成に至った。課題であった股関節伸展制限と代償動作で出ていた腰椎の前弯は減少しピックアップウォーカーを用いて見守りにて歩行が可能となり退院に繋がった。

症例2:68歳男性、糖尿病、心不全、透析
右足趾壊死の状態にて入院。5日後に大腿切断に至る。心不全のため、負荷の少ない訓練を余儀なくされ持久力も無く起き上がりも介助が必要であった。手術直後は悲観的であったが医療スタッフの声掛けにて少しずつ受容し、術後22日目よりシリコンライナーによるドレッシングを開始した。しかし義足への意欲が低いこととスタッフからの義足適応の評価依頼があったが担当義肢装具士(以下PO)が1年目であり簡易ソケット製作が困難と判断したため、担当POによるコネクトTFを使用しての評価となった。
股関節伸展‐5度ではあったが本人希望によりロック機能が無い膝継手とのことで多軸膝TK1900を採用。足部は全面設置による安定感を考慮しSACH足部バランスフットSを採用した。臥位にて計測をし、コネクトTF義足を1時間30分で組み上げ平行棒内立位を獲得出来た。2週間の訓練によりPTは立位訓練による筋力向上の評価、対象者も現状を受容でき前向きな訓練に取り組め自信がつき、正式に製作へと移行した。
しかし、症例2においてもチェックソケット移行時には坐骨部への圧痛を伴った。症例1同様にクッションを貼り除圧を行い、調整後に完成となった。

まとめ

日本の糖尿病患者は約1000万人に達し、糖尿病が原因で透析を受けている方は32万人で年間1万人のペースで増加している。日本透析医学会は年間100人中3.2人が切断したとの報告をした。
大腿切断者の累積生存率は1年44.2%、3年27.8%、5年15.4%との発表もあり必ずしも良い状態とは言えない
2)
これらのことを踏まえると、大腿切断者の機能予後を義足で行うか否かを判断することは重要であるが、難渋するケースが多くなると推測される。
今回は両症例ともに廃用が著しく、股関節の可動域制限や限られたリハビリ時間等のハードルがあった。しかし、コネクトTFを使用したことにより簡易ソケットに比べて作業時間の短縮と義肢装具士の経験値に依存しない大腿義足の提案が可能となった。両症例ともに坐骨周辺のトラブルはあったものの調整を加えることで適合し、完成に繋げることができ、病院スタッフや患者の『義足を試してみたい』という要望に応じることが出来たことは大きいと考える。
 
装具は病院備品や各製作所が所有している見本品、メーカー見本品で試着や評価を行えるケースは多いが、義足は簡易的に試着や評価をすることは困難なケースがほどんどである。特に大腿義足ではギプスソケットや簡易ソケットの製作には多大な労力や経験を必要とし義足に挑戦する機会を得ることが難しいのではないか。しかし、コネクトTFを使用すれば何度でも調整ができ、気軽に義足に挑戦できる環境を提供出来るのではないかと考える。医師・理学療法士のみならず多くの医療従事者との義足評価は必ず必要となる。その際、医療費の削減も視野に入れた提案をするためにも大腿義足においてはコネクトTFでの評価が有効と考えられる。今後は患者の身体的負担の軽減や手法・使用材料の見直し、金額面においてもより良い方法を模索し、切断患者のQOL向上の一助となるよう努めていく。

参考文献

1) 澤村誠志:切断と義肢 2007年
2) 寺師浩人:第14回日本フットケア学会年次学術集会講演集 2016年

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