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パシフィックニュース

特別支援学校における介助リフト活用

リフト・移乗用具

特別支援学校における介助リフト活用

安全・安心な移乗支援

大阪府立支援学校
橋本万以子

2024-05-01

学校の概要

私が勤める学校は、肢体不自由の子ども達が通う特別支援学校です。小学部1年生から高等部3年生まで、幅広い年齢層の子ども達が、毎日元気に学習しています。動作や文字盤などでコミュニケーションをとる子、車椅子や多脚杖を使って移動する子、短下肢装具をつけて歩く子、医療的ケアが必要な子など、様々な実態の子ども達が通学する特別支援学校です。子ども達は、各学部の教育課程に基づき、学習目標に向かって、同年代の子ども達と一緒に学習をしています。学習内容は、学級活動、歩行器を用いた歩行練習や軽作業を行う自立活動、算数や体育などの教科学習などです。給食の時間もあり、体育祭や校外学習などの行事もあります。「子ども達の主体的な学び」を大切に、教員は子ども達に合った支援方法を日々模索しながら教育活動に励んでいます。

歩行器での歩行

アプリを使用したコミュニケーション

中でもプール学習は、子どもも教員も楽しみにしている教育活動の一つです。麻痺などで自由に体を動かすことが難しくても、水の浮力があれば普段よりも体を動かしやすくなり、軽快に歩いたり、好きな浮具を使って遊んだり、力を抜いて水に浮いたりするなど、子ども達が主体的に学習に参加でき、笑顔が多く見られます。しかし、プール学習は夏季限定の教育活動であることから、普段の様子からは想定しにくいことが起こる場合もあり、教員は様々なことに備えなければなりません。そのため、事前準備や介助の工夫が必要です。

モーリフトとの出会い

プールサイドへは、ほとんどの子ども達が車椅子を使って移動します。車椅子からプールへの入水は、もちろん教員が抱きかかえて行います。子どもも教員も水着を着ているため、水着同士の介助は滑りやすく感じます。また、足元も濡れているため、滑らないように細心の注意を払います。教員は子どもを抱きかかえたままシャワーを浴び、ゆっくりとプールに入ります。プールから出るときも、複数の教員が協力し合い、呼吸を合わせて抱き上げます。私はこういった状況を、「肢体不自由校の当たり前」と思って何年もプール学習に取り組んできました。
しかし、ある子どもの入水場面に立ち合い、当たり前とは思えなくなりました。それは、1人の子どもに4人の男性教員が声をかけ合いながら抱き上げ、介助を受けている子どもは「すみません・・・」と申し訳なさそうに言っていたことでした。プール学習は、笑顔あふれる場所だと思っていたのに、この様子を見てとても悲しい気持ちになりました。どうにかならないものかと思っていた時、他の特別支援学校の取り組みにて介助リフト『モーリフト』に出会いました。

働き方を変えた介助リフト



「教員が子どもを抱き上げる介助」が当たり前だった私にとって、介助リフトとの出会いは衝撃的でした。抱き上げる動作がないため、介助者は体への負担を感じることなくベッドや車椅子に子どもを移乗させることができます。私が試乗した際、座面から体が浮いた時の浮遊感は、初めこそ緊張したもののすぐに慣れ、ハンモックに包みこまれているような安心感を得ることができました。これがあれば、子ども達を毎日笑顔にできるのではないか、また腰痛を抱える教員への身体的負担軽減にもつながるのではないかと思い、パシフィックサプライ社の協力を得て、本校への導入へと進めました。
 
学校へ導入するには、まず教員の理解を得なければなりません。パシフィックサプライ社が3台の『モーリフト』を持って来てくださり、教員へ操作方法や、なぜ移乗機器や介助リフトが必要なのかということを丁寧に説明してくださいました。私のように、移乗機器などを知らなかった教員は多く、このようなものがあるのかと非常に興味・関心の高まる内容でした。また、この研修をとおしてわかったことは、腰痛を持つ教員の多さです。日頃から産業医への相談や腰痛チェックなどで健康管理をしていますが、受診が必要な重度の腰痛を持っている教員から、まだ我慢できるが腰痛あり、という教員まで合わせると、4人に1人は腰痛を持っている印象を受けました。「子どものために」と自分の体の痛みを我慢してでも教育活動に取り組んでしまうのは教員としての性分かもしれません。しかし、そのことによって、元気で健康な教員として働く時間を削ってしまっているかもしれません。
 
教員向けの研修の後、保護者対象の体験会も実施しました。保護者の方々の関心も高く、想定よりもたくさんの方に『モーリフト』に触れていただきました。体験会中、たくさんの質問があがりましたが、パシフィックサプライ社の社員の方に同席していただいていたため、すぐに返答でき、保護者の不安も軽減できました。寝ころんだ姿勢をとることが苦手な子どもへは、座位姿勢からのスリングの着脱のコツも教示・実演いただきました。また、ベッドではなくフロア上に敷いている布団やマットレスへ子どもを降ろす方法と併せて、様々な子どもの実態や家庭の状況にも応じられることを実演していただき、保護者の疑問解決は然り、私も学校現場の活用方法をたくさんイメージできる機会となりました。
教員向けの研修会、保護者向けの体験会を経て、パシフィックサプライ社から無償で『モーリフト』と専用スリングを貸し出していただきました。そして、導入後すぐに嬉しい効果が次々にあらわれてきました。教員の腰痛軽減の効果はもちろんのこと、妊娠中の教員でも移乗対応ができたのです。妊娠中は子どもを抱え上げることができないため、この教員はいつも同じクラスの担任に移乗を依頼していました。依頼する側の「いつも依頼して迷惑をかけてしまっている」という想いや、依頼を受ける側の「体への負担が大きい」と感じる気持ちも、リフトが解決してくれたのではないかと思います。
 
働きやすい環境は、教員同士の連携を強化してくれます。教室内でリフト移乗をする際、子どもにスリングをセットする人、『モーリフト』を操作する人、周囲にいる子ども達を観察する人、これらの動きを教員同士が連携をとって行うことで、よりスムーズに移乗を行うことができます。『モーリフト』導入当初は「自分達が抱え上げる方が早い」など、リフトの操作に手間を感じるという声もありましたが、連携する力が強まったこのクラスでは、阿吽の呼吸で教員同士が協力して操作していたため「全く手間ではない」という感想を述べていました。まさにこの事例は、教員同士のチーム力が上がった好事例だったと思います。
 
さらに、子どもへの効果も素晴らしいものがあります。移乗時に手足を大きく振ってしまい抱え上げ辛かった子どもが落ち着いていること、移乗が苦手で泣き出してしまう子どもが心地よさそうに眠ったまま移乗ができること、その様子をうらやましそうに見て楽しみながらリフトを使う子どもがいること、何より教員へ移乗を依頼することをためらっていた子どもが遠慮なく頼めるようになったことなど、リフトは子ども達の心理面にも良い影響を及ぼすということがわかりました。

多岐にわたる介助リフト活用

『モーリフト』導入当初は車椅子からベッド、ベッドから車椅子への移乗に限定して使用していました。操作に慣れてくると、「もしかして、こんなところで使えるのでは・・・」と新たにひらめき、教員の中から自然にアイディアが出てきました。
 
まず歩行器への移乗です。歩行器の構造上、上体を持ち上げた後に座面に向かって足を入れ、子どもを座面に座らせます。子どもの上体を高く持ち上げなければならないので、小柄な教員が介助をする際には、自分の身長よりも高く子どもを上げなければなりません。この動作が難しかったのですが、リフトは昇降時の高さをリモコン操作で変えられます。また、上体を抱え上げる教員は、子どもの脚元が見えない状態で、もう一人の教員に下肢の介助をしてもらっていました。しかし、リフトであれば、子どもの様子をしっかりと把握しながら安全に移乗させることができました。

 


次は、下肢の操作性に課題のある子どもへの自立活動支援器具として、『モーリフト』を活用しました。リフトで上げられている状態で足元にボールプールをセットし、その中に足を入れて、ボールをかきまぜる感触を楽しみながら自発的に足を動かすことができました。トランポリンの学習時にも役立ちました。本校では揺れを感じる取り組みとして多くの授業で使用しますが、子どもを抱っこしたまま、床から1メートル程の高さにあるトランポリン上に乗せる時は、細心の注意を払わなければなりません。トランポリン上で立つと必ず足元が沈むため、バランスを崩さないようにゆっくりと子どもを降ろさなければならず、教員にとって介助に不安の大きい場面です。この不安もリフトを活用すれば、安心して子どもの様子を見ながら移乗させることによって解消できます。
 
最後にプール学習です。プール入水前はシャワーを浴びます。本校はプールサイドでハンドシャワーによって汚れなどを洗い落とすのですが、子どもの上肢と下肢をそれぞれ教員一人ずつで抱え、もう一人の教員がシャワーをかけるという手順で行っています。シャワーの水の勢いや温度に驚いたり、興奮したりする子どももいるため、丁寧に慎重にシャワーをかけます。教員自身も、濡れた床で滑らないように、子どもを安全にプールサイドへ抱きかかえたまま移動して腰をかけます。この一連の動作を『モーリフト』を用いてチャレンジしました。『モーリフト』は防水機能を備えているため今まで複数名で対応していたシャワーも、教員一人で行うことができますし、なにより濡れた体で子どもを安全に抱くことが難しいのですが、スリングで包まれた状態は介助する側の安心感も大きいです。シャワーを浴びている子どもの様子も見ることができ、ゆっくりとコミュニケーションを楽しみながらシャワーをかけてあげることができていました。

「お互いにとって安全・安心な介助」という考え方

このような、幅広い本校でのリフト活用を、保護者の方々にも知っていただくために、『モーリフト』の活用場面を度々PTAに動画を交えて報告しました。保護者からは「子ども達が落ち着いてリフトを使って(リフトに乗って)いるね」「先生方の健康が損なわれると子ども達が学校に行けなくなるから、先生達の健康が守られるのは良いことだと思う」といった意見をいただきました。こうして、リフト活用への賛同を得て、PTA会費から『モーリフト』を購入していただき、今では常にリフトが設置されている状態へと変わりました。
しかし、教員の「抱え上げる介助」が無くなったわけではありません。前述したとおり「抱え上げる介助」が当たり前になっていると、「わざわざリフトを使うのはなぜなのか?」と疑問を持っている教員が多く、リフト活用の意義や意味を浸透させることは難しいものです。
 
そこで、通所施設でリフトでの介助を受けている当事者の方々を本校に招いて、教員向けにお話しいただきました。リフトを使用した介助に対して、子ども達はどのように感じているのか、この研修では子ども達の気持ちを代弁するような当事者の言葉がたくさんあり、強く教員の心に残ったようです。研修後のアンケートには、「お互いにとって安心」という言葉が特に印象に残った、という感想が多くありました。子ども達の安全のためならば、自分は我慢してでもやり通さなければならないと思っている教員が多いと思います。しかし、介助を受ける側の「私達の生活を支えてくれている介護職の方々が、腰痛などで離職されてしまった経験がある。その後、生活を送ることが難しかった。」という話から、「自分の体を守ること=子どもの生活を保障すること」につながるという、今までになかった意識がこの研修で多くの教員に芽生えました。当事者の方々は「腰痛等で離職される方がいなくなるようにリフト活用が広がってほしい」と言っておられました。これは、介助を必要とするすべての方々の言葉であり、私達教員へ向けられているメッセージではないかと思います。

リフト試用後アンケート1

リフト試用後アンケート2

本校内のリフトの活用率はまだまだ高いとは言えません。教員の考え方が抜本的に変わらない限り、広がっていかないと感じています。しかし、リフトを使用した教員からは「こんなに自分の体に優しいものがあったなんて・・・」「移乗時の子どもの様子がとても落ち着いている」など、絶賛の声があがり、今回、本校の様子をみなさまに知っていただいたことを機に、すべての特別支援学校へ介助リフトの活用が広がることを祈っています。

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