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パシフィックニュース

脳卒中患者の戦略的装具療法のすすめ 5

装具

リハビリテーション

脳卒中患者の戦略的装具療法のすすめ 5

II 脳画像から見た戦略的なリハビリテーションとは?その(4 )
   症例と脳のシステムの解釈

千里リハビリテーション病院 副院長 吉尾雅春

2012-04-01

1.皮質脊髄路

脳卒中によって大脳皮質だけではなく、脊髄に向かう神経線維が障害されて運動麻痺が生じる。DUMら(1991)によれば、皮質脊髄路は一次運動野からの線維が48.5%、帯状回運動野から21.3%、補足運動野から18.5%、運動前野からの線維が11%で構成されている。その線維路の下降ルートを知ることで、機能的な予後や可能性を検討するができる。

図1は内頸動脈の閉塞と中大脳動脈の閉塞のCT画像である。矢印部分が皮質脊髄路の主なルートであるが、両者には明らかな違いがある。aの矢印部分は低吸収域になっており、下肢は重度の運動麻痺(ブルンストロームステージⅡ)、bの下肢は中等度の麻痺(ステージⅣ)を呈している。上肢はいずれも重度の運動麻痺がある。内包後脚は内頸動脈が前大脳動脈と中大脳動脈とに分かれる直前に分岐する前脈絡叢動脈によって血液供給される。

大脳は左右半球間で相互に抑制しながら協調的に働くが、障害側半球は反対側の脳によって過度に抑制される。その結果、本来の障害以上に機能低下を引き起こす可能性がある。

図1

図2

2.大脳小脳神経回路

図2の運動前野、補足運動野、運動野→内包前脚→中脳の大脳脚内側→橋核→反対側小脳半球→再び反対側に戻って視床VL核→運動野をつなぐ運動ループが障害されると、フィードフォワード機構の機能低下によって運動失調がみられる。脳卒中では中大脳動脈の梗塞や被殻および視床出血が多く、このループの障害を受けやすい。運動麻痺が軽度であっても運動ループの障害があるときは股関節の支持性不良によって内反膝や内反尖足を生じやすい。足関節の動きを伴った股関節の支持性を獲得するために長下肢装具を活用する(図3,4)。歩行練習ではリズミカルかつダイナミックに行うことが大切であるが、長下肢装具装着時にはそれが困難である。大腿カフ部に取り付けたバンドを操作することによって振り出しが容易になり、図5のような歩行を行うことができる。

認知ループは前頭連合野から運動ループとほぼ同じルートを通り、小脳から視床内側核を介して前頭連合野に戻る。認知ループの障害があると注意、認知、遂行機能、記憶、情動など前頭連合野の機能低下が生じ、発症後数か月は脱抑制による易怒性、うつ、注意障害、遂行機能障害などによって学習が停滞することも多い。

図3

図4

図5

3.姿勢定位のネットワーク

頭頂葉楔前部は体性感覚情報と視覚情報をマッチングして姿勢に関与している。楔前部は視床背側核、尾状核、尾状核を介して被殻後部、島後部、前頭連合野と連絡を持っている。これらの部位とそれらを結ぶ神経線維の損傷によって姿勢定位障害が生じる(図6,7)。

生体の股関節は70度程度の屈曲角度であり、座位では図8のように骨盤が後方に倒れた状態になって姿勢定位の混乱に拍車をかける。過剰な半球間抑制も著しくなる。姿勢に影響する網様体脊髄路を活性化するように長下肢装具を装着して足底に荷重しながら、図7右のような姿勢をとることによって、数週間後には姿勢や認知活動の改善がみられた。

図6

図7

図8

吉尾雅春

千里リハビリテーション病院
副院長
日本理学療法士協会
神経理学療法研究部会長・
日本理学療法士協会
理学療法ガイドライン脳卒中班長
医学書院理学療法ジャーナル
編集委員
【主な著作】
・脳損傷の理学療法(1)・(2)三輪書店
・運動療法総論 3版 医学書院
・運動療法各論 3版 医学書院

吉尾先生

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