パシフィックニュース
VOCAリンゴの事例報告 伝わる喜び
AAC(コミュニケーション)
神戸市立友生養護学校 平本 久美
2012-04-01
神戸市立友生養護学校は、神戸市の東部にある肢体不自由児の特別支援学校です。本校は幼稚部、小学部、中学部、高等部、訪問教育部からなり、85名の幼児児童生徒が在籍する歴史ある学校です。(平成24年1月末現在)
VOCAリンゴを導入するきっかけ
本校に在籍する幼児児童生徒のほとんどが重度の重複障害を抱えています。思うように声が出せない、体や手が動かせない、姿勢の保持が難しい児童生徒が多く、意思の伝達方法に表情等以外にもビックマックやステップバイステップ等のVOCAを活用しています。
手や指先に麻痺の少ない児童生徒は、スーパートーカーでコミュニケーションをとっていますが、持ち歩くには大きくて重いため、朝の会や一部の授業で使う程度でコミュニケーションツールとして常時持ち歩いて活用(トイレ等)することが難しいと感じていました。
そんな時にパシフィックサプライ社の担当者からVOCAリンゴのレンタルの話を伺い、試行する場面を係の先生や担任と検討しました。当時、2年生に進級したAちゃんの1年時の様子から、本人の思いがうまく伝わらなくて泣いたり、怒ったりすることがあり、進級を期に関わる教職員とのコミュニケーションをどのように取るべきかクラスとして相談している最中、VOCAリンゴの提供を受け活用することにしました。
スクールバス
導入から理解へ
Aちゃんは言葉に対する理解力が高く、指示を間違いなく理解できますが発語ができませんでした。そこで、言葉の選出については、学校生活でよく使用する「お茶・トイレ・先生」に加え大好きな「音楽」を入れることにし、それに伴うシンボルを付けて、まずは4分割のフレームから始めました。ラジカセ等の機械操作が得意ですぐに覚えてしまうAちゃんは、リンゴにもすぐに興味を持ちいろいろとボタンを押して遊びから始めました。
初めは休憩時に「お茶」と押してから飲む、「トイレ」と押してから行く等、担任と一緒に押してから活動に移すことを繰り返し行って、ボタンを押せば、押した内容の活動ができることを理解させようと思い、関わる教員の指導方法を統一しました。Aちゃんはすぐに理解し自ら「お茶」や「トイレ」と要求するようになりました。
また、ボタンの位置で理解しているのではと思い、何度もボタンの位置を入れ替えましたが、替えるとすぐに確認し、見つけて要求したいボタンを押すことができました。このことから、遊びの域を超えて行動とボタンを押すことの因果関係を理解していると確信しました。4分割が確立したところで「おねがいします」「おしまい」等使いやすい言葉を1つずつ増やしていきました。また入力する際には簡潔に分かりやすい単語で入れるようにしました。1つずつ増やしていくので使用しないボタンがあり、そこを黒く塗りつぶして使えるボタンとそうでないボタンを見分けられるようにしました。
深まる理解
- 目に見えてできるようになったのが、トイレでした。家庭では行きたい時にはトイレの前まで行って知らせることができるためあまり失敗することがありませんが、学校では自ら行きたいことを伝える手段がなく、担任からの問いかけでタイミングが上手く合えば成功する程度でした。リンゴを使うようになってからは、いつでも、誰にでもすぐに伝えられるので成功する確率が上がりました。
- Aちゃんは他人に対する興味があまりなく、目を合わせることが苦手でしたが、リンゴを使い始めてからコミュニケーションをとることに喜びを感じているようで、人と目が合うようになり、特に用事がない時でも「先生、先生」と何度もボタンを押して「はーい」と返事をすると笑顔で応え、そのやり取りを繰り返して遊ぶようになりました。
- 今までは自分の意思を伝える方法がなく、怒ることでしかアピールできず、待てませんでしたが、今では要求をしてもすぐにできないことを伝えると待てるようになりました。
- リンゴを使う内に、「これは私の物」という意識が生まれ、普段首から下げているリンゴがなく、また近くにもないと探す素振りを見せたり、友達が勝手に触ると怒ったりするようになりました。
- 家でも「ママ」のボタンを作ると頻繁に押して呼び、要求が伝わることで安定した家庭での生活が送られるようになり、お母さんも喜んでいます。
リンゴを使うAちゃん
自発性の芽生え
使い慣れていくにしたがって、Aちゃんなりにアレンジしてリンゴを使うようになりました。入力されている言葉は前述した通り、単語でひとつひとつ入れています。その中で「先生」「おねがいします」「お茶」や「先生」「トイレ」「おしまい」等複数のボタンを連続して押し、2語文、3語文を自分で作って要求を伝えるようになりました。担任同士で「将来は、文章で言えるようになるといいね」と話していましたが、とても早い段階で使えるようになったのはとても嬉しいことでした。
現在では言葉の数も多くなり、「あいさつ」ボタン(おはよう、さようなら)を作るとバスから降りて教室までの間にいろいろな人から声を掛けられ、そのボタンを押して朝のあいさつをしたり、朝の会の呼名の時に「あいさつ」(おはよう)を押してから「はい」ボタンで返事をしたり、周りの様子をよく聞いていて「今日は○○します」「そろそろ終わろうか」と言うとタイミング良く「はい」と押して返事をする等、周りを驚かせています。
最後に
今回VOCAリンゴを使ってみてAちゃんにとって意思伝達の有効な道具になり、落ち着いた学校生活が送られています。現在彼女にとっては欠かせないコミュニケーションツールになりました。またパニックを起こすような児童生徒に対して個々に合ったコミュニケーションツールを見つけていくことが大切であることを痛感しました。
そのためにも、どのようなツールがあるのか、どう活用するのかを知ることが必要です。同じ機種でも児童生徒の状況により使い方が違うので、今回のように長期間試行できたことで得た物は大変大きかったです。パシフィックサプライ社にはこのような機会を与えて頂き本当に感謝しています。ありがとうございました。
リンゴ
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