パシフィックニュース
コネクトTFを使用した大腿義足の早期リハビリテーション事例
義肢
リハビリテーション
パシフィックサプライ株式会社
新規事業開発推進部
義肢装具士 奥野麻弥
2024-12-16
パシフィックニュースではこれまで4度にわたり、コネクトTFの利点や課題、今後の可能性についてご紹介してまいりました。
>> コネクトTFの事例紹介 2023.10.2号
>> 理学療法士からみたコネクトTF導入の利点 2024.1.5号
>> 医師からみたコネクトTF導入の利点 2024.4.1号
>> コネクトTF ―即時装着可能な大腿義足用既製品ソケット― 2024.8.1号
コネクトTFは現在完成用部品ではありませんが、お試しいただけるよう、パシフィックサプライでは2023年10月よりレンタルサービス(有償)を開始しています。これまで40件のご利用があり、9割以上が回復期病院における義足適応評価および早期リハビリテーションでのご活用でした。お問い合わせも多くいただいており、特に事例を知りたいとのお声が多くありました。
そこで今回は、複数の臨床事例と、義足リハビリテーションでよく使用される膝継手・足部についてご紹介します。
1.株式会社長崎かなえ 義肢装具士:中野浩朗氏のご使用例
株式会社長崎かなえは、長崎県にある1954年創業の義肢装具製作所です。中野POは義足装具士歴21年、年間約80本の義足製作に携わっておられます。
■中野POが通常行われる大腿義足製作の経過は以下のようになります。
①スタンプシュリンカーやライナーなどを使用した、断端のドレッシング(約2週間)
②チェックソケットの製作(1週間)
③チェックソケットを調整しながら義足リハビリテーションの実施(訓練用義足製作直前まで約2ヶ月間)
④訓練用義足の製作
今回は2名の大腿切断患者さまにコネクトTFをご利用いただきました。
コネクトTFは浮腫がある状態でも装着可能なため、①の断端ドレッシングの段階で使用を開始し、断端形成を行いながら義足のリハビリテーションが可能です。そのため、通常スケジュールより、約1~2週間早く義足リハビリテーションが実現しました。
【事例① 60代後半女性 切断原因:糖尿病】
糖尿病により切断された60代後半の女性の方で、反対側も足趾壊疽があり、将来的に両側切断のリスクを有しておられます。義足適応評価のためにコネクトTFを使用しました。ライナーが使用可能であることを確認後、コネクトTFを装着したところ、初日から自立での立位荷重・平行棒内での歩行が可能であり、義足適応可との評価となり、リハビリテーションが開始されました。
日常生活を見据えて、膝継手は固定と遊動の切り替えが可能な多軸膝OFM1を使用しました。初期の立位荷重や歩行訓練では固定にし、慣れてきたところで遊動に切り替え、安全でよりスムーズな歩行の獲得を目指したためです。また、足部は、低活動用のSACH足フレックスフットアシュアを採用しました。カーボンによる適切な反発が踏み返し時の歩きやすさを増長する(ただし反発しすぎない)ため、低活動者でも安全に利用できる足部です。
義足リハビリテーション開始から約2週間で、膝継手を遊動にしての歩行も可能になっていたため、義足製作に至ることもできたのですが、ご自宅を完全なバリアフリー住宅へリフォームされていたことと、将来的に両側切断の可能性などもあり、ご家族と検討された結果、最終的には義足製作とはなりませんでした。
【事例② 50代女性 切断原因:電撃性紫斑病】
電撃性紫斑病により切断された50代女性の方です。上肢および反対側下肢も切断や皮膚移植・潰瘍があり、全身状態不良で、切断から約半年経過していました。自宅環境の関係で、数歩の自立歩行が必要であり、義足適応評価となりました。ご本人の体力の問題もあり、採型を伴うチェックソケットでの評価はやめ、コネクトTFを使用することとしました。
介助にて大腿用ロッキングライナー・コネクトTFの装着後、ティルトテーブルを使用して徐々に立位荷重を行ったところ義足適応可との評価となり、コネクトTFを使用して立位荷重訓練が開始されました。約2週間で、介助を受けながら歩行器を使用し10m歩行が可能となりました。最終的に短距離歩行できることが確認されたため、仮義足の製作に進むこととなりました。ただ、現在は、反対側下肢の状態が悪化しているため、訓練を中断しています。この方に関しては、コネクトTFがなければ早々に義足を諦めていた可能性はあります。
膝継手については、反対側下肢も状態がよくないことと、安全性を考慮して固定膝で座位時にアシストする機能を持ったものを選択しました。
コネクトTFを使用して ~中野POのご感想~
事例①の患者さまは、痛みもなく、平行棒内ですぐに歩行ができたため「立てた!歩けた!」と喜ばれたのが印象的でした。すぐに確かめることができるため、義足を製作するかどうかで悩む方へ、義足とはどういったものかご理解していただきやすいと感じました。結果的に義足製作には至りませんでしたが、患者さまが義足を確かめて、しっかりと検討できたことはよかったと思います。
今回お二人の患者さまには、年齢、活動度、全身状態から判断し、膝継手は固定ができる安全重視の製品にしましたが、個人的にはトータルニー2000をよく選択しています。機械的ロックがあるため、正しい使い方で膝折れの心配がなく、自然な歩行を実現できるためです。
コネクトTFは以前から知っていたのですが、自分が製作したものよりも付け心地が良くて痛くない…といったことがあると嫌だなと思い、見ないふりをしていました(笑)ですが使ってみて、やはり早期に義足を装着して適応評価ができることはメリットだと思います。特に、チェックソケットの製作に踏み出しにくい状態の患者さまの場合、適応評価が難しいこともありますが、まずはコネクトTFで確かめられることで、安心して製作に臨めると思いました。
2.川村義肢株式会社 佐野 実咲氏のご使用例
弊社グループ会社である川村義肢株式会社は、大阪府に本社を置く1946年創業の義肢装具製作所です。佐野POは義肢装具士歴12年、年間約20本の義足製作に携わっています。
■佐野POが通常行う大腿義足製作の経過は以下のようになります。
①ライナーなどを使用し、断端のドレッシング(約1~2週間)
②簡易ソケットの製作・簡易ソケットでの義足リハビリテーション(約2~3週間)
②チェックソケットの製作(1週間)
③チェックソケットを調整しながら義足リハビリテーションの実施(訓練用義足製作直前まで約1~2週間)
④訓練用義足の製作
川村義肢では新規大腿切断者に対して義足適応評価を目的に、プラスチックキャストを使用した簡易ソケットを製作しています。ですが、簡易ソケットを製作するには2時間程度の作業時間を有し、義肢装具士歴12年目で経験豊富な佐野POでも難渋されることもあります。そのため、コネクトTFは早期義足リハビリテーションの実現はもちろんのこと、義肢装具士の負担軽減も目的として使用しました。
【事例③ 60代女性 切断原因:糖尿病】
糖尿病により切断された60代女性の方で、義足に対して前向きでしたが、生活保護を受給しておられるため、製作までに時間が空いてしま懸念がありました。従来であれば簡易ソケットの製作を検討していましたが、義肢装具士の負担軽減を目的に、少しでも早く義足リハビリテーションを開始できるよう、コネクトTFを使用しました。装着初日、疼痛の訴えもなく立位荷重が可能となり、スムーズにリハビリテーションを開始できました。コネクトTFの使用開始から約2ヶ月後にチェックソケットを製作し、適合に問題がなかったため本ソケットに移行となりました。この方は四辺形ソケットとしましたが、チェックソケットでは坐骨部への愁訴があり、ソケット長を1cm短くし、坐骨部に厚めのスポンジを当てることで対応しました。コネクトTFを使用して2週間は、立位の安定を目的に固定ができる膝継手を選択しました。その後、日常生活で買い物や散歩などができるよう、歩行速度に追随し、なめらかに歩ける膝継手と足部を選定しました。油圧タイプの多軸膝か、空圧タイプの多軸膝を比較し、最終は患者さまの意向で空圧タイプの多軸膝となりました。足部はより安全に、安定して歩行ができるよう、ブレード部分が幅広のバランスフットSを選択しました。
【事例④ 70代後半男性 切断原因:糖尿病】
糖尿病により切断された70代後半の男性の方です。前かがみ姿勢での歩行のため、股関節屈曲となり、アライメントの調整に制限のあるコネクトTFが使用できるか懸念されましたが、シフトアダプタを使用することで問題なく装着することができました。立位荷重・歩行訓練を開始して、約2ヶ月でチェックソケットの製作となりました。年齢や活動度を考慮し、膝継手は単軸の固定膝ロッキングニーで訓練を行いましたが、義足歩行に前向きだったため、次のステップとして軽くて歩きやすい空圧の単軸膝継手OP4にも挑戦しました。ただ、ご本人の心境の変化もあり、やはり安全を第一優先とし、固定膝で決定となりました。足部も安全に、安定して歩行ができるバランスフットSを選択しました。
現在(2024年11月13日時点)、本ソケットとして四辺形ソケットを製作中ですが、坐骨部への愁訴があり、軟部組織が少ないこともあり、クッションでも違和感がぬぐえず調整を続けているところです。
コネクトTFを使用して~佐野POのご感想~
コネクトTFは坐骨を覆わない、坐骨下形状のソケットのため、坐骨部への疼痛の訴えがなく、ソケットの受け入れが良いのがメリットだと思いました。また、簡易ソケットは、製作時間やアライメント調整の限界があり、義肢装具士の経験が求められますが、コネクトTFは調整が容易で、義肢装具士の負担軽減につながります。なによりも患者さまが早期に義足を装着し、義足歩行のイメージをもっていただけるところに良さを感じました。現在、もう一人コネクトTFを使用して義足リハビリテーションを行っています。その方はコンパートメント症候群により切断された30代男性の方ですが、職場復帰に向けて、早期の義足リハビリテーションを実現できるようコネクトTFを使用しました。トラブルなく順調にリハビリが進み、今はチェックソケット(IRC)に移行しています。本当にスムーズにリハビリテーションが進み、コネクトTFの良さを実感しています。
ただ、事例④の方については、チェックソケットからは四辺形ソケットになったため坐骨部への違和感があり、受け入れが難しい状況が続いています。コネクトTFはサイズさえ合えばどなたでも装着できると思いますが、変化への対応が難しい方には、注意を要するかもしれません。
3.新規大腿切断で使用する膝継手・足部
コネクトTFを使用した新規切断でよく使用される膝継手や足部と、オズール社製品の一部をご紹介します(ここで紹介する製品はあくまで一例です。患者さまの身体状況、希望する生活など複数の要素を加味して選択することが求められます)。義足に慣れるまでの【リハビリ前期】、その後の【リハビリ中・後期】に分けてご紹介しています。
【リハビリ前期】荷重訓練を中心に歩行をスタートし始めた時期
膝継手はより安全なものが求められ、特に低活動者には膝継手を「固定できるタイプ」がよく使用されます。また、「固定」と「遊動」が容易に切り替えられる膝継手であれば、義足での荷重や歩行に慣れた後、「遊動」にて練習ができ、よりスムーズな歩行の獲得につながります。足部は低活動者向けの「立位・歩行時に安定できるタイプ」の使用が多いです。(※リハビリ前期のうちから中・高活動が見込める患者さまの場合、トータルニーやプロフレックスシリーズなどの高機能な膝継手や足部を使用することもあります)【リハビリ中・後期】生活期を見据えた歩行練習用に
①低活動者で、家の中だけで義足を使用される方や、歩行補助具を使用して一定速度で歩行する方の場合
安全な歩行を最優先とし、リハビリ前期で使用した膝継手・足部を継続して使用されることが多いです。②低~中活動者で、軽い振り出しを好む方の場合
空圧膝継手で歩行速度に追従するような膝継手がよく使用されています。膝折れの不安軽減のために多軸を選択されるケースも多いです。足部はカーボン製で推進力のある足部が推奨されます③中~高活動者で、より滑らかな歩行を望む方の場合
坂道や階段、就労や屋外での長距離歩行など、幅広い生活場面への参加を求められる場合、高機能な膝継手をご使用いただくことが多いです。足部はカーボン製で推進力のある足部が推奨されます。この活動者の場合、生活期を見越してリハビリ前期から高機能な膝継手・足部を使用した義足歩行訓練が行われることもあります。
4.まとめ
今回は、複数の臨床事例と、義足リハビリテーションでよく使用される膝継手・足部について紹介しました。
コネクトTFは断端サイズが適合し過度の屈曲拘縮がなければ、ほとんどの方に装着の問題はなく、安全に立位荷重訓練や歩行訓練に活用していただけます(大腿用ロッキングライナーの着用必須)。ただしソケット形状が坐骨下タイプのため、チェックソケットや本ソケットが四辺形や坐骨収納型の場合、移行時に坐骨部の疼痛を訴えられることがあります。多くの場合は慣れや、坐骨部へ厚めのパットをあてることで問題なく移行が可能ですが、今回の事例でご紹介したように、変化への対応が難しい方、認知機能の低下がみられる方に対しては、移行に難渋することが懸念されます。このような可能性のある患者さまの場合、医師、理学療法士、義肢装具士とで連携を取りながら活用を検討していただければと思います。膝継手や足部は、義足リハビリテーション開始すぐの【リハビリ前期】と、歩行に慣れられ生活期を見据えた練習へと移行する【リハビリ中・後期】に分けて選定基準を紹介いたしました。前期は安全を優先し、後期は患者さまの身体状況、希望する生活など複数の要素を加味して選択することが求められます。オズール社製品の膝継手・足部はデモ機をご用意しております。さまざまお試しいただき、患者さまのよりよい日常生活へお役立ていただければ幸いです。
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