パシフィックニュース
震災特集14
震災特集
今、被災地で起きている生活不活発病とは・・
NPO法人グローバルヒューマン/face to face東日本大震災 リハネットワーク事務局 景山信子
2014-12-01
最近、日本各地で震災が相次いでいる。その時に必ず東日本大震災の映像や記述が放映され語られる。メディアは一番被害の甚大な部分を取り上げ、その後に起きる風評被害や二次被害、三次被害を追うことは少ないように思う。今回掲載する震災特集の記事を読み、改めて被災地で起きている現状に愕然とする。執筆者の景山さまと電話で打合せをしていた時、タイトルとなる『生活不活発病』という耳慣れない言葉を、恥ずかしながら私は何度も景山さまに聞き返した。
また被災地では寒い季節が到来している。『生活不活発病』に拍車がかからないようにと願うばかりであるが、震災特集の掲載にあたり、このテーマを提言していただいたface to face事務局景山さまに心から敬意を送りたい。
役割の喪失
人は役割を失うと途端に、活動量が減少する。それは高齢者に限ったことではなく、若い世代にも同様な事が言えよう。
仕事があり、或いは家族のために家事を行い、またはペットの世話をする。朝起きて、今日一日の自分の行動を確認し、やることがたくさんあれば、ストレスを感じつつも行動し、充実した一日を送ることができた喜びを感じることが出来る。
しかしどうだろう。一人暮らしで、仕事もなく、ペットを飼うわけでもなく、近くにお友達もない。そんな方々は、自分のためだけに食事の支度をし、自分の着た洋服だけを洗濯し、話す相手もなく過ごしているのではないか。
実は私も、震災後、結婚のため仙台でしていた仕事を辞め、一関に来た。友人もなく震災直後であったため仕事も見つからず、ただ、ぼんやりと1ヶ月を過ごしていた経験がある。その時、気づけばテレビに話しかけるまでになっていた。あの時36歳だった私も、確実に生活不活発病予備軍であったように思う。
震災によりコミュニティが崩壊した被災地。仮設住宅は狭く暗い上、不自由な立地条件の場所が多い。私が活動している岩手県陸前高田市・宮城県気仙沼市は被害が甚大であったため、仮設住宅が点在し、元のコミュニティが維持されていない状態であった。
私は被災地で、ある高齢者を訪問した際に「5日ぶりに人と話をした・・」と言われたことがある。彼女は当然、私を帰そうとはせず、5日ぶりの訪問者に身の上話を延々していた。誰とも会いたくないのではなく、誰かと、話したかったのだ。
被災地での支援
被災地で起きている生活不活発病の実態
実際、被災地では多くの高齢者・障がい者が同様な状態にある。話し相手もなく、役割もなく、ただ、漫然と過ごす日々。結局、不自由な体に固執し、痛みの過剰反応を示してしまう。他に考えることはなく、ますます、嘆かわしい我が身を思い、居室から出ることすら恥ずかしいと感じる。そんな方々を私は被災地で何人も何人も見てきた。特に津波で家族を亡くした方は顕著であるように思う。
震災直後から1年くらいの間は、皆、生きていくことに必死であった。何とか自分の生活を立て直し、維持しようという意欲が感じられた。しかし、1年を過ぎた辺りから、仮設住宅での生活に慣れ始め、しかも先がまるで見えない「復興の踊り場期」を迎え、多くの方々に、みなぎる意欲がまるで感じなくなった。
その頃から、仮設住宅でのイベントの参加人数も減少し、居室から出なくなる高齢者が激増し、最近見ないからと訪問すると、身体機能も精神機能も低下、別人のような表情になってしまっていた方を多く見るようになった。そして、3年8ヶ月を迎えたいま、事態はいよいよ深刻化している。
被災地での支援
2025年問題の縮図である被災地
現在活動している、岩手県陸前高田市(人口20,426人 平成26年9月末現在)は高齢化率が34.1%(平成23年10月現在)、宮城県気仙沼市(人口67,767人 平成26年9月末現在)は高齢化率31.9%(平成25年3月現在)と高齢化率が全国的に見ても非常に高い状況下にある。仮設住宅自治会長、同役員、民生委員等、地域の担い手の多くも65歳以上の高齢者と呼ばれる人たちである。今後、災害公営住宅の入居が順次開始するが、同調査によれば、入所者希望者の半数は高齢者であるという。
仮設住宅においても、平日・日中訪問すると「まるで高齢者の集合住宅地のようだ」と感じる日々であったが、災害公営住宅ではそれに拍車を掛ける光景を目にすることだろう。そして、3年以上かけて築きあげられた仮設住宅というコミュニティは崩壊し、新しいコミュニティ形成を強いられる。果たして、それに耐えうるだけの地域の活力が残存しているだろうか。
高齢化ばかりではなく、コミュニティの崩壊と再形成を幾度も余儀なくされる被災地においては高齢者の生活不活発病や孤立が避けられない状況にあるのではないか、との懸念は尽きない。
仮設住宅でのリハビリ支援
仮設住宅でのリハビリ支援
私達世代にできること・日本の未来
私は現在、作業療法士(以下、OT)として、仮設住宅を巡回訪問し、「転ばぬ先の杖プロジェクト」と銘うって、津波で失った歩行補助具の無償支援・フィッティング活動、介護予防健康運動教室の開催、メンタルケアとしての作業活動、個別リハビリ相談会等実施している。被災者の多くは「一日も早い再建」を望んでいるが、その次は「健康であり続けたい、生きてふるさとの復興を見届けたい」と願っていることを毎回実感する。
支援活動を開始して1年くらいが経過した頃から、自治会長さんや民生委員さんから、「集会所には出てこないのだけれど、心配な人がいるから訪問してくれないか」と打診を受けるようになった。また、家族から「うちの母が最近、歩くのも難しくて」と言う相談も寄せられるようにもなった。その時、以前から問題だと感じていた、「集会所に出てこない方々への健康支援のあり方」を考えさせられた。
私は今まで行ってきた活動に加えて、現在、「健康教室」の開催を巡回、定期実施している。それは、地域住民の多くが医療・福祉・保険・疾病等について正しく認識し、問題が起きた時に早期対応ができれば、疾病や障がいが重篤化することが避けられるのではないかと考えたからだ。また、同じコミュニティで、心配な方がいたら、おせっかいでも声がけを、或いは私にご相談をとお願いをしている。
一人の力は微力であるが、地域住民の多くが高齢者サポーターになれば、見守りも強化出来る。おせっかいな人間が増えれば高齢者の孤立を予防できる。そして、私自身も被災した方々に寄り添いながら、OTとしておせっかいし続けようと思っている。
最後に、このようなことは被災地に限って起きていることではない。既に過疎化が進行した地域また、日本中で同様な事が起きているのではないかと危惧している。更に10年後には、日本中がこのような状況になることも容易に想像できる。
どうか、おせっかいな医療有資格者が日本中に沢山現れ、高齢者を見守っていき、高齢社会でも安心安全な国、日本を一緒に構築しようではないか。
転ばぬ先の杖プロジェクト
転ばぬ先の杖プロジェクト
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