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感覚統合Update 第2回:感覚調整障害

感覚統合

感覚統合Update 第2回:感覚調整障害

京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 加藤寿宏

2021-12-01

第1回は、感覚統合理論における感覚の問題(感覚処理障害)について、概念的な話をしました。
感覚統合Update 第1回:感覚統合の障害 感覚の問題とは? 2021.9.1 号

第2回は感覚処理障害の一つである感覚調整障害について、詳しく話をします。

感覚調整障害とは

感覚調整障害は、「身体や環境からの感覚入力に対して過小な反応(低反応)もしくは過剰な反応、感覚探求・渇望を示す状態である(Miller;2007)」と説明されています。第1回にも話をしましたが、ここで重要なのは、過剰な反応、過小な反応は、原因は不明だが、「感覚刺激(入力)に対する行動(出力)が過剰もしくは過小な反応となる」ということを表しているということです。極端な例ですが「犬の吠える声に耳をふさぐ」という行動を見て、聴覚に過剰な反応があると評価するというものです。
しかし、実際には感覚の問題ではなく、犬にかまれた経験をしたことがあるので、耳をふさいだということかもしれません。そのため、感覚調整障害の評価は、一つのエピソードで決めつけるのではなく、複数のエピソードに基づき判断をしますが、なぜそのような行動になるのか(感覚の入力から行動としての出力に至るまでの、どのプロセスが問題なのか)は未だ解明されていないのが現状です。

自閉スペクトラム症の感覚調整障害

自閉スペクトラム症の70-90%に感覚の問題があることが報告されていることも、前回話をしました。では、自閉スペクトラム症児は感覚の過剰反応と過小反応のどちらを多く示すのでしょうか。耳をふさいだり、小さな音でも聞こえたり、触るのを嫌がったり、少しのけがで過剰に痛がったりなど、過剰反応を思い浮かべる人が多いかもしれません。Ayresが最初に提唱したのも触覚や前庭感覚に対する過剰反応である触覚防衛反応や重力不安でした。
Baranek(2006)の研究では、過剰反応56%、過小反応63%、過剰も過小も両方ある38%という結果でした。過小反応が多いという結果は意外だったかもしれませんが、もう一つ重要な点は、過剰と過小の両方がある子どもが1/3以上いるということです。例えば触覚は過剰反応だけれども前庭感覚は過小反応といった感覚の種類により異なる特性を示す場合です。また、一つの感覚の中でも、過剰反応、過小反応の両方の行動を示す子どもも多くいます。「糊が手につくと嫌そうな顔で、すぐに服で拭き取るが、砂遊びはずっとしている」や「子どもの泣き声は耳をふさぐが、好きな音楽は大きな音で聴いている」などです。このようなことは、子どもと関わる中でよく経験されることだと思います。過剰か過小かという判断をすることを目的とせず、児が受け入れられる感覚刺激を手がかりとした支援を考えることが大切です。

感覚を求める行動

その場でクルクル回ったり、ジャンプしたり、砂遊びや水遊びをやめられないなどの特定の感覚刺激を過剰に入力する行動を、感覚渇望(sensory craving)といいます。これは自閉スペクトラム症の診断基準の一つである「興味の限定と反復行動」の「反復行動」に含まれるものと考えることができます。
感覚渇望は、感覚探求(sensory seeking)と同義語で使用されていた時期もありますが、最近では、区別して使用されることも増えています。感覚探求は感覚刺激を自ら入力する行動ですが、定型発達児や大人でも見られます。子どもにとって感覚運動遊び・体験は発達において不可欠で、走り回ったり、高いところに登ったり、水遊びや砂遊びを楽しむことはごく自然なことです。乳児期の定型発達児の行動の約40%が反復行動であるという研究もあります(Thelen 1979)。大人も不安や緊張したときにうろうろ動き回る、貧乏ゆすりをする、ストレスがたまったときに運動ですっきりするなど、感覚刺激により覚醒や注意、情動を自己調整しています。
写真は1歳と3歳の定型発達の子どもですが、ゴミを出して触ったり(写真左)、高いところから跳んだり(写真右)を繰り返しています。左の子どもは、幼児期には、水遊びが大好きでしたが、小学校では水泳を楽しんでいました。右の子どもは、1年生から野球をはじめ、ノックで強い打球をとったり、スライディングをするのを楽しんでいます。二人は、どんな感覚に感覚探求があるのでしょうか。左の子どもは触覚、右の子どもは前庭感覚(飛び降りる際の加速度)、固有受容感覚(筋肉や関節に入る感覚:塀をよじ登るときの筋肉の収縮や飛び降りて地面につく際の衝撃)です。二人の子どもが、大きくなってもゴミを触っていたり、高いところから飛び降りていたりすると違和感がありますが、年齢に応じて、スポーツや趣味活動へと移行すれば生活が楽しく豊かなものとなります。
大人になり、自分の感覚欲求を満たす仕事に就くことができれば、自分に合った仕事だと言えるかもしれません。
子どもにとって感覚欲求は活動を楽しむための一つの重要な要素(報酬)ですが、含まれる欲求は感覚欲求のみではありません。野球や水泳が上手になりたいといった自分の能力を高めたいという生物学的欲求や、お母さんに褒めてもらいたい、みんなと一緒で楽しいといった心理社会的欲求など様々な欲求が含まれています。感覚欲求だけでなく、複数の欲求が含まれていることが大切です。
一方、感覚渇望は感覚刺激そのものだけが報酬(欲求)となっている行動で、特に知的な障害が重い子どもや、非常に不器用で主体的に取り組める活動が限定されている場合に、見られることが多くあります。このような場合、感覚欲求を満たすための感覚刺激を提供するだけの支援では、より行動がエスカレートする危険性もあります。感覚欲求を満たしつつも、生物学的欲求、心理社会的欲求を含む活動に移行していくことが重要となります。


写真 感覚欲求を満たす遊び(左1歳児、右3歳児)

感覚調整障害と関連する4A

感覚の問題は、脳の目覚めの状態である覚醒(Arousal)、注意(Attention)、怒りや不安といった情動(Affect)、多動や衝動性といった行動(Action)の4つのA(4A)と関連します。例えば、聴覚に過剰反応がある児は、子どもの泣き声で驚き過剰な覚醒状態となり(心臓がドキドキする)、気になって仕方がない(子どもに注意が過剰となり、今行っていることに注意が向かなくなる)、衝動的行動(子どもの所に行き確認する、叩いてしまう)や否定的情動(怒りや不安)となります。この4Aの問題は、生活障害と関連します。そのため、不注意や衝動的な行動など4Aと関連した問題がある場合、その背景に感覚の問題がないかを評価することが重要となります。さらに、怒り、不安などの情動が感覚刺激に対する過剰反応をより強めて、悪循環を生じることも多いため、4A、特に情動と覚醒に対する支援は重要となります。

小学校1年生のAくんを通して感覚調整障害を考える

1.Aくんの紹介
地域の小学校(通常の学級)に通うAくんは、自閉スペクトラム症と注意欠如多動症の診断があります。
赤ちゃんのときは、いつも不機嫌でよく泣く子どもでした。泣き止むように家族が抱っこしても、余計に泣いてしまうため、お母さんは「Aくんは私たち家族のことが嫌いじゃないか」と思ったそうです。運動発達は早く、10ヶ月でつかまり立ちをし、そこから3日後には歩きはじめ、歩いたと思ったらすぐ走っていたそうです。公園に連れて行けば、ずっと走っていて、靴のつまさきが1日で破けることも多くあったようです。1歳半の時に療育教室に通いはじめましたが、集団への参加が難しく、周囲のお子さんとのトラブルも多かったため、半年でやめました。その後、夏は1日中プール、秋は裏山で遊ぶといった、自然の中での自由保育の保育所に行きました。楽しく通うことができ、ことばや対人関係の発達も急速に伸びましたが、スーパーや道路で突然、走りだしたり、前転や側転をしはじめることも多くあったそうです。気に入った服をずっと着続ける、床屋で暴れるなどのエピソードもありました。
小学校入学直後から、友だちとのトラブルが急増し、授業中の離席も多いことから、感覚統合療法の適応判断も含めて作業療法が紹介されました。
 
2.Aくんの感覚統合(感覚調整障害)評価
感覚統合療法室に入るとすぐに、遊具に走っていき、ジャングルジムの上からソフトマットの上に飛び降りる、トランポリンで力いっぱい跳ぶといった遊びを繰り返し行っていました。
Aくんの感覚統合機能について感覚調整障害を中心に評価しました。感覚統合機能の評価については次回以降で詳しく説明します。感覚特性を評価する質問紙(保護者記載)である、感覚プロファイルは、感覚過敏、感覚回避、感覚探求が非常に高い結果でした。JPAN感覚処理・行為機能検査(JPAN)の触覚検査の一つ“蝶が止まったら教えてね(指、手のひら、前腕への軽い触覚刺激を感知(触ったか触っていないかを判断)する検査)”では、触覚刺激に対し、「ざわざわする」「かゆくなってきた」「嫌な感じになってきた」や刺激された部位をこする、叩くなどの行動が徐々に増えていきました。検査中頃には、1回ごとの触覚刺激で立ち上がり、近くのソフトマットに飛び込んでいました。この検査は、時間はかかりましたが最後まで実施でき、検査スコアは標準範囲(緑:51%タイル以上)でした。また、他の体性感覚(触覚、固有受容感覚)領域の下位検査もほとんどが標準範囲でした。
 
3.Aくんの感覚統合(感覚調整障害)解釈
Aくんは触覚に過剰な反応があることがわかるかと思います。それは学齢期にはじまったものではなく、赤ちゃんの時のエピソードからも推測できます。家族が抱っこをすれば、落ち着き泣き止む赤ちゃんが多いのですが、Aくんは触れられたことが不快だったため、余計に泣いてしまったのだと思います。赤ちゃんは親から世話をされる存在、つまり本人の意思に関わらず、たくさん触られる存在です。また、服を着ているだけでも触覚刺激は入ってきます。成長すれば、触れられることも少なくなり、自分から避けたり、自分で好きな素材の服を着たりすることができますが、赤ちゃんのときは泣くしか方法がありません。
JPANの検査場面でも、触覚刺激が重なるにつれ、過剰な反応が顕著になっていきました。また、検査中頃からのマットに飛び込む行動は、固有受容感覚、前庭感覚による自己調整の意味があったと考えています。私たちも、皮膚がかゆかったり、ムズムズしたり、くすぐったい時は、その部位をこすったり、叩いたりすると思います。触覚の過剰反応を固有受容感覚により消去するというイメージです。
Aくんの成育歴をみると、歩いたらすぐに走りだした、1日で靴に穴が開くほど走っていた、療育への参加は難しかったが裏山やプールで遊ぶなど感覚運動遊びが多い保育所では楽しく過ごせ、発達も伸びた等、固有受容感覚や前庭感覚を求める行動がたくさんあったことがわかります。
幼児期から学齢期の子どもは集団の中で生活します。特に乳幼児期の子ども同士は物理的距離が近く身体接触を伴うコミュニケーションを行います。触覚に過剰な反応があるAくんにとって、突然友だちから触れられることは図のように感じているのかもしれません。  

 
このように触覚刺激がたくさんある集団生活の中でAくんが落ち着くには、固有受容感覚や前庭感覚を取り入れる行動が必要であったと考えられます。大人からみれば落ち着きがない、じっとしていられない、理解できない行動かもしれませんが、Aくんにとっては適応的な行動なのです。小学校入学と同時に、友だちとのトラブルが増えたことや授業中の離席も感覚調整障害、感覚探求の視点から理解できるかと思います。
みなさんの中には、JPANの検査結果が納得できない人もいるかと思います。第1回の図2の中に感覚調整障害と並んで感覚識別障害があります。触覚を例にすると、触覚識別は素材や硬さ、大きさなどを判別する能力で、より小さな差を区別できるほど能力が高いと評価します。例えば、1円と10円の大きさは触って違いがわかると思いますが、10円と100円の大きさは違いが1ミリ以下のため判断が難しくなります。
触覚の過剰反応があれば触覚の識別能力が低下するように思うかもしれませんが、一致しない場合も多くあります。Aくんも触覚の感覚調整障害はありますが、感覚識別障害はないと考えられます。
 
4.Aくんの支援とその後
Aくんには月2回の感覚統合療法を行い、約半年で学校生活は落ち着いたものとなりました。感覚統合療法の詳細については今後取り上げていきます。遠方から治療に来ていたこともあり、スポーツや趣味活動により感覚欲求を軸に生物学的欲求、心理社会的欲求を満たす活動を見つけることにしました。いくつかの活動を体験した中で、Aくんはカヌーを気に入り、毎週末にはカヌーを楽しんでいます。カヌーは漕ぐときに固有受容感覚が入力されることは理解できると思いますが、それ以外にも、両足裏と膝、太ももで中からカヌーを押さえつけカヌーと一体となることが必要です。つまり、全身に固有受容感覚が入る活動です。
最初はバランスをとることさえも難しかったようですが、Aくんにとっては、感覚欲求を満たせるというだけで楽しく継続できる活動でした。好きこそ物の上手なれ、という言葉があるように、徐々に上達するなかで、もっと速く漕げるようになりたい、大会に出て良い成績をとりたい、みなから褒められたい等、様々な欲求が生まれてきました。Aくんは中学生になった現在もカヌーを継続しており、カヌー部のある高校進学を目指し、受験勉強を頑張っています。

執筆者プロフィール

加藤 寿宏
京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻
先端作業療法学講座 発達障害リハビリテーション学研究室 准教授
京都大学医学部人間健康科学科先端リハビリテーション科学コース
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【専門】
 発達障害の作業療法
 感覚統合療法
 
【資格】
 認定作業療法士
 専門作業療法士(特別支援教育)
 日本感覚統合学会認定セラピスト
 特別支援教育士 SV
 
【学会】
 京都府作業療法士会副会長
 日本感覚統合学会副会長、講師
 日本発達系作業療法学会会長

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