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パシフィックニュース

子どもの自立とハートリーフレストの活用

リフト・移乗用具

子どもの自立とハートリーフレストの活用

子どもの自立とハートリーフレストの活用

ちとせ発達支援センターはる 副施設長 石岡 卓
理学療法士/小林 千絵理  作業療法士/ 一宮 穂乃果

2020-07-01

はじめに

当事業所は2016年7月に開所し、今年度から2つ目の事業所を開設した。    
事業内容は、児童発達支援事業と放課後デイサービス、保育所等訪問支援事業を行う。3歳から15歳の子どもを対象とし、障害種の区別はない。

職員は非常勤を含め25人(言語聴覚士4名、作業療法士2名、理学療法士2名,保育士5名、音楽療法士1名、社会福祉士1名、児童指導員4名、指導員6名)で運営・指導を行っている。ここでは肢体不自由療育に特化して話を進める。

療育指導の観点

従来の事業所の建物は、既存の建物をリノベーションしたもので、内装はバリアフリーにしたものの外からのアプローチには段差解消ができず、車いすを使う児童には、スムーズな動線を保障するものではなかった。そこで新築した事業所では、施設内はもちろん玄関前の駐車場からのアプローチも、車椅子で移動ができ、円滑な生活動線が作れるように整えた。

         
 
副施設長は3月まで、札幌にある道立M養護学校で自立活動教諭として、肢体不自由のある児童生徒の自立活動の指導に取り組んできた経緯があり、そこでの実践的な成果を継承しようと協議し、次の観点で指導に取り組んでいる。

①子ども自身が持っている能力が発揮できるよう補装具を含めた福祉用具を用意し、生活の中で指導者の少ない援助で抗重力活動を伴う日常動作を、「行為遂行」という観点で目標を立て、場面設定を行うこと。

②運動療法では、日常生活の活動中で生じる筋緊張の高まりや、動きが乏しいことから生じる筋肉や軟部組織の粘弾性の乏しさに対して、現時点でその子が持っている身体状態に取り戻すべく、身体のコンディションを整えること、および自重の軽減の中で動くことや支えることで重力のコントロールや相即などに取り組むこと。

③「正常化」という意味ではなく、“間身体性”を軸に模倣とミラーニューロン等に着目し、指導者と一緒に行為を遂行する中で、身体の動かし方を身につけていくこと である。

現在、PTとOTで協力し取り組み始めている。なお、 ②および③については、「レッドコード」や「スパイダー」、また「揺動式ベッド“フルフル”」(モニター中)などを使い指導を行っているが、今回は①の中のトイレでの移乗と排泄の自立に向けた取り組みについて述べる。


   レッドコード         スパイダー           動揺式ベッド      保育室:SI対応

車いす用トイレの環境と工夫

持続した座位保持が難しい子どもの場合、 家庭でも学校や事業所を含む施設でも、保護者や指導者が長時間支える場合が多いと聞いている。当施設では、一人で便座位保持ができるようにハートリーフレストを設計当初から考え、取り付けを行った。また、筋疾患の児童も利用していることから、羽上げ式のユニバーサルシート横型を並べて設置している。


                            車椅子用トイレ

指導の実際

高齢者介護の中で排泄は尊厳に係る大きな生活行為であるが、小児であっても、その点を軽視することにはならない。他者に介入されずに自立できることは療育の大切な観点である。

2児の例であるが、写真のようにハートリーフレスト利用時は、指導者の見守りだけで、左右からの腕受けテーブルに両手を載せ、便座上で自立して座位姿勢を保持し排泄を行っている。

      
         A君:座っている様子                 B君:座っている様子  
    
使い始めて、ほぼ1か月が経ち子どもたちも慣れてきたことから、現在は、筋疾患で膝の伸展拘縮があるA君は便座への座位移乗(スライディングボード・シートを使用)に取り組み始めている。

        
         A君の移乗の様子

B君は、脳性まひの両まひタイプの子どもである。現在の身長では床面からの移乗が難しいことから、プロンボードを移乗用の立位台に改造し使っている。A君は、まだ下肢の支持性が弱く、支えてのつかまり立ちができるに至っていない。最近は膝立位ができるようになってきていることもあり、生活の中で足底接地した支え立位を、「行為」として彼自身の「生活世界」の中に、成立することを考えて指導を行っている。


  B君の移乗の様子

その実現のために生活環境整備と福祉用具の用意は不可欠であるが、併せてPTの時間ではレッドコードとスパイダーを使い、揺れを楽しみながら、筋緊張のコントロール、脊柱・股関節の持続した伸展、そして両下肢の伸展を促している(レッドコードも同様であるがコードに支えられていることで、転倒の不安からくる心身の緊張が解消することは姿勢保持と運動学習には大切である)。

近い将来には、ベッドや車いすから写真のように、ハートリーフレストの利点でもある片方のテーブルを出し、それを支えに便座に立位移乗できることを目標にしている。


  長期目標としての移乗方法

まとめとして

4月に始めたばかりの状況の中、また、新型コロナ禍の最中の取りくみで、子どもも職員も「Social distance」を要望される中で感染予防に注意しながらの不安な実践であった。しかし、子どもたちは使い慣れてくる中で、便座に1人で座りながら笑顔を見せてくれるようになっている。

ハートリーフレスト自体は生活の点として自立した便座座位を保障し、排泄の自立度を高めることができる大切な補助的手段である。しかし、いつも指導者が全介助し座らせられているとしたら、子ども自身の育ちや自立を促すには問題がある。生活場面で介助を受けながらも子どもが持っている力を最大限発揮できるとともに、活動の見通しを持っていけることが大切である。もちろん、子どもの主体的な生活動線づくりと個別のセラピーとを関連させることは言うまでもない。

東京大学の熊谷晋一郎氏が言うように「自立は、依存先を増やすこと」(社会モデル)である。「依存先」の1つである福祉用具はその質が問われるのである。ハートリーフレストは必要なサポート構造があり、大きな「依存先」となる。さらに生活の中で、それを連続する生活動線上の「依存先」として配置することが大切なのである。

子どもが「1人でできた!」と自己肯定感を持つこと、そんなリアルな感情や感覚をともなって身につけた能力こそ、今後の子どもの育つかたちを押し進めるものになると考える。そして、その実現のためには、指導側に専門領域を越えた総合力と工夫、そして、福祉用具の知識と実践としての環境整備を試みる気持ちが求められる。

福祉用具の活用は国際生活機能分類(ICF)でも大切な観点である。今後、支援テクノロジーを療育や教育の指導の中で、どのように位置づけ展開するが課題になる。私たちが着目しているのは “エコロジカル・アプローチ”という考え方である。

   

おわりに

新型コロナ感染禍の中で、学校が長期の休校となった。このことは障がいのある子どもたちにとって、普段以上に障害化(生活機能の低下)が起こったといえる。その対応として、政府は否応なしにその受け皿を福祉分野の私たちに預けた。その状況下、「3密」対応に苦慮し、不十分ながらも、当事者である子どもや家族が「自立」を継続できる「依存先」として開所し続けた。

しかし、果たして「特別な支援が必要な子どもたち」の生活や育ちに、「健常」と言われる人たちに望まれる「3密」制限や「Social distance」というものが成立するのか、甚だ疑問に思う。また、「Social distance」といった表現にも、人の分断や差別、格差などのイメージを持ってしまう。

最近、WHOが「人と人とのつながりは保ってほしい」との願いから「Social distance」ではなく「Physical distance」と言い換えたが、こちらの表現の方が適切だと考える。

「Physical distance」は「体と体の距離」という意味である。つまり、これは他者からの直接のサポートを必要する肢体不自由のある子どもたちに対してのアンチテーゼでもある。それでは、どうしていくのか。まさに、待ったなしの状態に療育や発達支援、教育が晒されている。その手立てや問題点を急ぎ発信すべきなのは、子どもたちにとって社会レベル側にある我々や社長の役割であると考える。



<引用・参考文献>
・『「助けて」が言えない SOSを出せない人に支援者は何ができるのか』松本俊彦編 日本評論社 2019
・『<心>はからだの外にあるー「エコロジカルな私」の哲学ー』河野哲也著日本放送出版協会 2006


*ちとせ発達支援センターはる
 〒066-0034 北海道千歳市富丘1丁目31-16
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