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24時間の生活の中での床ずれ予防 第二部

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24時間の生活の中での床ずれ予防 第二部

24時間の生活の中での床ずれ予防 第二部

(公財)天理よろづ相談所病院白川分院 在宅世話どりセンター
特定嘱託部長/医師 中村義徳

2021-02-01

この度、日本褥瘡学会でもご活躍の中村義徳先生に、24時間の生活の中から起こる床ずれについて、インタビューする機会をいただきました。なぜ、床ずれを見るときに24時間の生活について考えなければいけないのか?そう思う方もあるかもしれません。単純に「傷口・創傷だけを見ていれば良い」と言うことではなく、どうしてそこに出来てしまったのか?という本質を見る意義について、考えるキッカケになれば幸いです。3回シリーズの第二部。ご覧ください。

第一部は>> こちらからご覧いただけます

<第四章>ちょっと変わった「床ずれ」にも気をつけましょう

2つの「外力(がいりょく)
―パシフィックサプライ、以下P:前回は「ずれ」について解説していただきました。ここからは、外力について教えてください。
―中村義徳先生、以下中村:実際のケースをお示しする前に、床ずれ解説本にあまり書かれていないことを述べます。外力といっても、一通りでない考え方が必要だと、私は考えています。あまり詳しくは説明しませんが、これまで、色々な床ずれを見てきた経験からの発想に基づくものです。すなわち外力を2つの見方で考えるというものです。


 
 「第一の外力」と「第二の外力」
第一の考え方は、文字通り、「身体の外からかかる力」を外力とする一般的な考え方です。すでに述べましたように、この外力のことを「第一の外力」と呼ぶことにしました。身体の一部が寝床や座面から直接に受ける力がこれに当たります。しかし、よくよく考えてみますと、「身体のある局所が、同じ身体の中のその部位以外の剛体(ごうたい)、すなわち骨や関節部、から、その局所に及ぼされる力も外力だ」とする方が合理的だと思うようになりました。そして、これを第二の外力と呼ぶことにしたいと考えています。(図3)

(図3)

 
「へ」の字に屈曲した指の関節部や反り返った指の関節部は、指の中心にある骨や関節から、すなわち内側からも力を受けることになります。床ずれの部位を中心に考えると、身体の外からであろうが、身体の中の話であろうが、「その部位にとって外からの力は全てが外力である」ということです。この内部からの力も、皮膚にとっては「皮膚以外からの力=外力」というふうに考えるわけです。

―P:つまり、身体の中からも皮膚は影響を受けているということですね。
―中村:そうです。例えば、脳梗塞で不自由になった方がいたとしましょう。その方の足の指(専門的には足趾(そくし)といいます)が「へ」の字に屈曲・変形して、関節部が盛り上がることは珍しいことではありません。外反母趾で変形して、関節部が飛び出てくることもあります。リウマチの人の足趾も変形することがよくあります。こうしたとき、この屈曲して盛り上がった足趾の関節部の皮膚にキズができることが少なくありません。(図4)

(図4)


盛り上がった関節部ではなくて、逆に、反り返った指(神経難病の方の指に起きやすい変形かも知れません)の腹側に同じようにキズができることもあります。こうした飛び出た部分は、身体の外からの力を受けやすいこともありますが、身体の内側の骨や関節からも力を受けることになることを理解しなければなりません。第一の外力に加えて第二の外力を考えた方が説明がつきやすいというわけです。(図5)

(図5)

 
また、特に麻痺などがなくても、寝ている時間が長くなっていると、足趾同士が密着し、互いに外力を加え合いすることになり、その上、蒸れることになったりして、キズができることがあります。意外に多いので、注意する必要があります。この場合でも、第一と第二の外力を考えることは役に立ちます。
 
―P:ということは、これは障害や病気に関わらず、誰の身体にも起こっていることだと言えるのでしょうか?
―中村:はい。ご自分の足趾同士が押し合う上に、それぞれの足趾の骨や関節が内側から皮膚に「外力」をかけているという構図になります。足趾と足趾の間に薄いガーゼを挟んだりすることだけでも改善することがあります。(図6)

(図6)
 
 
「第二の外力」は「第一の外力」に対する反作用の力と考えることができます。
一方、第二の外力は身体の内部での話で、「内力(ないりょく)」とでもいいたくなりますが、内力は物理学的な意味では「応力(おうりょく)」であり、第一の外力が加わったときに身体の内部で発生する様々な力を差すことになっていますので、第二の外力を内力と呼ぶことはできません。内力や応力という言葉については、ご自分で調べて頂きたく思います。

<第五章>日常での床ずれ発生のリスクは?

床ずれを回避していた身体機能
―P:まとめてみると、圧力のかかる場面・局所、あるいは摩擦のかかる場面・局所、さらにその圧力と摩擦の両方がかかる状況などを考えていく、ということでしょうか?
―中村:そうです。常に、床ずれ発生のリスクの中で生きているのが日常生活だ、ともいえるかと思います。ただ、幸いにも、そうした事をなんとか避けることのできる身体機能があるので、そう簡単には床ずれはできないだけということです。


 
" 寝返り " の意味
―P:その身体機能が低下してくるとリスクが高くなると?
―中村:多くの人は、寝ている間に寝返りを打ちます。一晩の寝返り回数については、種々報告がされていますが、一晩で6~38回という報告があり(前田和平、2015年、第 50 回日本理学療法学術大会抄録集より)、また、その他の一般的な情報としては、20ないし30といったものもあります。真ん中をとって20回くらいとでも覚えておくのが実際的かもしれません。
 人の身体を、頭、胸、臀部(腰・骨盤まわり)、踵に分けると、体重分布は、それぞれ、ほぼ10%、30%、40%、20%とされています。体重60Kgとすると、6Kg、18Kg、24Kg、12Kgがそれぞれの部位にかかっていることになります。
 
―P:もし、一晩中、寝返りを打たないとなると?
―中村:凄いことになるのはおわかりになりますよね?例えば、腰回りの臀部(床ずれ分野では、多くの場合、臀部とはいわないのですが・・・)には、20Kg以上の体重が、睡眠の、例えば6時間の間、かかりっぱなしということになります。20Kgは男性が持つのも重たい重さです。寝た状態であれば、床と骨盤の間に挟まれた臀部(正確には仙骨部といいます)には強い圧力(荷重)がかかって、一晩で床ずれができてしまいます。寝返りをするということの意義の一つには、これらの荷重を、自動的に(無意識?)、身体が回避している動作ということにあるのは間違いありません。この寝返りのお陰で、普通 の方の普通の日常では、床ずれは簡単にはできないことになります。上手に寝返りをして荷重を分散させているのが私たちの日常です。この日常が変化した場合、容易に床ずれができると考えておかなければなりません。
 
―P:地球上で生活する限り、このリスクとは常に隣り合わせなんですね。
―中村:日常の変化あるいは普通の状況の変化には、例えば、最初に挙げたケースのように、何かのきっかけで寝たきり状態になった、あるいは年齢とともに身体能力が低下して運動障害(ロコモーティブシンドローム)や虚弱体力(フレイル)が進んだ状態、あるいは、事故などで脊髄を痛めた場合の対麻痺(半身の知覚・運動神経麻痺で車椅子生活が通常になる場合も多い)などがあります。栄養状態の低下や自律神経機能異常、あるいは心臓や肺の疾患、さらには動脈硬化などの血管の異常なども、身体機能の低下による「自動的な防御・回避能力」の低下や様々な「回復能力」の低下が起き、皮膚や皮下組織の脆弱性にも繋がり、床ずれのリスクが高くなっていることになります。
 
―P:小さなことでも身体機能に変化が生じた時には、注意しておく必要があるということですね。他にも日常生活の中に原因となる要素はありますか?
―中村:日常の変化や普通の状況の変化はないけれども、床ずれ、あるいは、床ずれに似たキズにお目にかかることがあります。すでに気づいておられる方がいらっしゃるかも知れませんが、まず思いつくのは、足の裏の胼胝(べんち)(たこ)、靴擦れなどです。さらには、膝や肘など、動く度に延びたり縮んだりする部位のキズは治りにくいことも、実は、床ずれと無関係ではないのです。

左足底部の胼胝(べんち、一般名「タコ」)図7
(図7)

:外反母趾の影響で足底部の特定の部位に圧力がかかった結果と思われる(矢印)

足の裏の胼胝は、体重全体のかなりの荷重が、歩く度に足の裏の、しかも、足底骨と地面との間にかかることで発生します。床ずれらしくない床ずれといえます(誤解を招くようならば「床ずれもどき」ということにしたいと思います)。通常はキズにならないで、なんとか、角化が強くなって、足の裏を守っているわけですが、ここでも身体機能の低下や皮膚の回復能力の低下が起きてくると、床ずれを作ることになります。靴擦れは、まさに、踵の骨と靴の革に挟まれた皮膚が、摩擦ですりむけることですが、押す力(圧力)もかかっているのは間違いありません。すなわち、外力によるキズです。
 
―P:キズと床ずれは同じと考えても良いのでしょうか?
―中村:床ずれらしくないですが、無関係でない例について話してみます。膝や肘は、皮膚自体の伸展性が強く、歩く際や肘を曲げる際でも、難なくその動作ができるようになっていますが、例えば、その膝や肘に傷ができると、そうした皮膚の伸び縮みのない部位と比べて、あきらかにキズの治りが悪くなります。これは、できたキズに、簡単に、伸び縮みによる外力が働くために、床ずれではないけれど、キズの治りが遅くなるのです。くどいようですが、何らかの外力が加わるところでは、キズはできやすく治りにくいという、基本的な法則とでもいえるものがあり、床ずれはそうしたキズの代表的なひとつである、ということです。


~注釈~
₈ こうした「外力」の定義は、まだ一般的な認知を受けていないものですが、個人的には、非常に大切な考え方だと考えていますので、敢えて、紹介させて頂きます。
₉ いつもそうですが、何かにつけて、普通とは何か、考えてしまいます。一々お断りを入れていくと難しくなってしまいそうなので、ごく一般の普通という意味合いで使わせて頂きます。


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執筆者プロフィール



中村 義徳 
なかむら よしのり
天理よろづ相談所病院白川分院 在宅世話どりセンター
特定嘱託部長/医師

専門: 
元消化器一般外科、消化器内視鏡、内視鏡外科、在宅医療、褥瘡・創傷管理​

資格:

  • 日本外科学会 認定医
  • 日本消化器外科学会 認定医
  • 日本内視鏡学会 認定医

学会活動:
日本在宅医療連合学会
日本褥瘡学会 功労会員、褥瘡認定師・医師
日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会 特別会員
日本褥瘡学会・在宅ケア推進協会 理事
近畿外科学会 特別会員
日本褥瘡学会近畿地方会 世話人
奈良県糖尿病性足病変の会 世話人
日本臨床外科学会 

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