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感覚統合Update 第6回:行為機能障害とは?-行動計画の過程-

感覚統合

感覚統合Update 第6回:行為機能障害とは?-行動計画の過程-

関西医科大学リハビリテーション学部 作業療法学科 加藤 寿宏

2022-08-01

第4回から行為機能障害について話をしています。第4回は行為機能の最初のプロセスである観念化、前回は行為機能と関連する身体図式について話をしました。今回は、観念化の次のプロセスである行動計画の過程(planning a course of action)について話をします。

感覚統合Update 第4回:行為機能障害とは? 2022.4.1号

行為機能とは?

行為機能は感覚統合の概念の中でも特に複雑で難解なものです。その理由はAyres自身が十分に語らないまま1988年にこの世を去ってしまったことにあるのかもしれません。第4回でAyresは行為機能を観念化(ideation)、行動計画の過程(planning a course of action)、遂行(executing the action)の3つのプロセスに分けていると説明しました。Ayres自身の文字として残っているものは1985年のDevelopmental dyspraxia and adult apraxia1)ですが、これも論文や書籍ではなく講義資料として残されていたものです。Ayresは、この講義資料の「はじめに」の最後に「これが私の最後の言葉ですが、これが最後の言葉であってはなりません。発達性行為障害については、まだまだ解明されていないことがたくさんあります。」と記しています。


図1 行動機能障害の神経学的モデル
(Ecker 2) 1983, 佐藤 3)1992)

私が最初に行為機能をプロセスに分けて考えることを知ったのは、初代日本感覚統合学会会長の佐藤先生が感覚統合研究第9集で紹介したEcker(1983)2)の行為機能障害の神経学的モデルですが、これも講義資料だったようです。

行為機能の中でも特に、行動計画の過程は説明する人により用語はもちろん、範囲や解釈が異なることが多いプロセスです。ここでは、文献を整理しながら私自身の臨床経験や考えも含めて解説します。

行動計画の過程に関する用語の整理

今までは、Ayresが最初に使用した「行動計画の過程(planning a course of action)」という用語を使用し説明してきましたが、この用語は、Developmental dyspraxia and adult apraxia1)で使用されている以外、私自身は見たことがありません。

もっとも多く使用されている用語は、計画(プランニング);planningで、これは日本感覚統合学会の主催する認定講習会でも使用されています。前述のEckerはプログラミング(programing)を使用しています。また、行為機能という用語が使用される前には、運動企画(motor planning)(不慣れな行為の順序を考え、構成し、そして実施する脳の能力、行為ともいわれる4))という用語も使用されていました。これらの用語を整理すると、「行動計画の過程=planning、programing」、「運動企画=行為機能」となります。さらに、順序立て(シークエンス);sequence も使用される用語の一つですが、これは、感覚統合障害の一つのタイプとして「両側統合と順序立て(シークエンス)の障害」や米国の感覚統合検査SIPTの下位検査であるシークエンス行為機能(sequencing praxis)に由来するものと思われます。

Ayresは1970年代から感覚統合検査を用いて、感覚統合障害のタイプを因子分析研究により分類してきました。初期の南カリフォルニア感覚統合検査(SCSIT)を用いた研究においては、姿勢バランス(平衡機能)と関連する前庭系の機能障害と身体の左右両側の運動協調の困難さを臨床像とする「前庭性-両側性統合障害」を報告しています。1989年に感覚統合検査がSCSITからSIPTに変わり、行為機能に関する検査項目が多く加わりました。その中の下位検査の一つにシークエンス行為機能があり、この検査のスコアの低下と前庭性-両側性統合障害が関連することがわかり「両側統合とシークエンスの障害(bilateral integration and sequencing deficits;BISの障害)」という感覚統合障害のタイプが分類されました。

BISの障害には、身体の左右両側を協調的に使うことの難しさと、運動や動作を順序立てて行うことの難しさの二つの問題が含まれています。また、この障害は前庭感覚、固有感覚の情報処理障害を反映するため、重力に抗した姿勢の保持や姿勢バランスの困難さも伴っています。

このように、様々な用語がありますが、ここでは、少し長いのですがAyresが最初に使用した「行動計画の過程」を使用したいと思います。

行動計画の過程(planning a course of action)

行動計画の過程は、観念化と遂行の中間にあるプロセスです(図2)。観念化は認知(知的)機能が、遂行は感覚運動機能が主に関与することから、行動計画の過程は、認知(知的)機能と感覚運動機能を「橋渡しする役割」と考えることができます。つまり、観念化が、「こんなことをしよう」というひらめきであるのに対し、行動計画の過程は、そのひらめきを実現する(遂行)ための具体的な手順となるプロセスです。
 


写真1 自転車のハンドルを越える遊び

毎度おなじみの「自転車のハンドルを越える遊び」をしていたAくんを思い出してください(写真1)。前回第5回の身体図式の話の中で、この場面においては「ハンドルをまたぐ」「ハンドルをジャンプする」「越えることをあきらめて降りる」など様々な選択肢がありますが、その中から何を選択するのかは、身体図式と外部環境を照合することで、適切な観念化が選択されることを説明しました。観念化は、頭の中に「ハンドルをまたいでいる」「ハンドルをジャンプする」などの場面を1枚の写真のようにイメージする段階で、具体的にどのように実現するのかはまだ明確ではありません。「またごう」「ジャンプしよう」といった感じです。
ここから、実際の運動や行動につなげるためには、もう少し綿密な計画を作る必要があります。「ハンドルをまたぐ」のであれば、①少しかがみ⇒②ハンドルを両手でもって⇒③右足をあげて… というように、運動を頭の中で組み立てていきます。この時に重要となるのが、運動の順序です。

図2 行為機能のプロセス
 (Ayres 1) 1985, Roley 52007, 加藤ら6)2021を参考に作成)

少しマニアックかもしれませんが、私たちは行動計画の過程を、ノートや教科書の隅にパラパラ漫画(図3)を描くことに例えて説明しています7)。「ハンドルをまたぐ」をパラパラ漫画に描くとすると、先ほどの運動の順序に従って漫画を描くはずです。漫画の順序が違ってしまえば、おかしな動きになってしまうことが想像できると思います。このパラパラ漫画のコマを認知的に考えるプロセスが、図2の運動の組織化の中にある「運動の計画」です。ここで、難しそうと判断すれば、観念化を修正したりするかもしれません。


図3 パラパラ漫画 

行為機能が必要とされる治療場面で、子どもが行おうとしたものの、少し躊躇する場面を目にすることがあるかと思います。このような場面は、子どもが「運動の計画」を練っている、非常に適応的な状況であると思われます。

しかし、運動の計画が立ったからといって、実際にできるわけではありません。身体運動として実現していかなければなりません。このプロセスが、次の身体運動レベルの順序立て(協調運動と同義語として捉えて良いと考えています)となります。身体には多くの関節があり、その関節を様々な方向に動かすための600以上の筋肉があります。この多くの関節を、その活動に応じた適切な順序とタイミングで適切な筋肉を選択し収縮させなければなりません。つまり、時間協調が必要となります。さらに、運動を行うには一つの関節だけでなく、複数の関節運動が必要となり、どの関節運動を組み合わせて行うのかという空間協調も必要となります。身体運動レベルの順序立ては、必要とする関節運動が多く、かつ、細かな順序やタイミングが要求される活動ほど、その能力が要求されることになります。

縄跳びは、細かな順序やタイミングが要求される活動で、ほとんどの行為機能障害の子どもが苦手とする活動です。縄跳びは、一つの腕ではなく、両腕で同時に縄を回すこと、タイミングよく両足で跳び上がることが必要となります。左右の腕の回すタイミングが同時ではなくわずかでもずれたらどうなるでしょうか。縄を回すこととび上がるタイミングは、同時ではうまくぶことができません。かといって、回した後何秒後にジャンプするのかを、頭で(認知的に)わかったからといって、それが実現できるわけではありません。つまり、動く関節が多く、かつ、細かな順序やタイミングが要求される活動ほど、高度な身体運動レベルの順序立てが要求される活動となります。

身体運動レベルの順序立ては、「行動計画の過程」ではなく、実際に運動を「遂行」する最後の過程に含まれるのではないかと考える人もいると思います。これを、どちらに含めるかはとても難しいのですが、脳機能で考えると、身体運動レベルの順序ては、補足運動野という高次運動野とよばれる部分が主に関与します。ここで組み立てられた身体の運動の順序に関する情報が、運動野から脊髄を通り、様々な筋肉へ出力され身体運動として表現されます。脳梗塞などで補足運動野の障害を起こすと、順序立てが必要な運動は困難となりますが、著明な運動麻痺は生じず基本的な運動能力は残ります。このように考えると、実際に運動を実行する遂行ではなく、行動計画の過程に含めた方がより適切であると思います。

「ハンドルをまたぐ」や縄跳びは、一つの動作や同じ動作の繰り返しですが、複数の動作を時間に沿って順序てることも必要となります。例えば、野球では打ったら走ることが必要で「打つ」動作と「走る」動作の複数動作(multi-step action)が、連続します。このような複数動作の順序立ては、サッカー、バスケットボール、野球などのスポーツに多く含まれます。

さらに、行動計画の過程は単に身体運動に限ったものでなく、朝の準備(顔を洗い→着替え→朝食を食べ→歯を磨く)や整理整頓などの日々の生活行為や行動の組織化や企画も含み、その範疇は身体運動レベルから行動レベルまでを含む非常に広範囲なものです。これは、感覚統合理論における感覚-運動の発達が、より広い作業(生活行為)の発達の基盤にもなっていることを示唆しています。

1) Ayres AJ (1985):Developmental dyspraxia and adult apraxia. Torrance, CA: sensory integration international. 25 the anniversary edition Ayres dyspraxia monograph
2) Ecker MD(1983):The somatosensory system: structure, function, and dysfunction. A lecture note from the Sensory Integration International continuing education course entitled, “A Neurobiological foundation for sensory integration”   
3) 佐藤剛(1992):感覚統合の鑑別的診断:発達性行為障害と前庭性-両側性統合障害を中心に,日本感覚統合障害研究会編:感覚統合研究第9集,協同医書出版,p30
4) Ayres AJ(著),佐藤剛(監訳)(1982):子どもの発達と感覚統合,協同医書出版,p279
5) Roley SS, Blanche EI, SchaafRC(2007):Understanding the Nature of Sensory Integration with Diverse Populations . Pro-Ed
6) 加藤寿宏,松島佳苗,高畑脩平(2021):エビデンスでひもとく発達障害作業療法,シービーアール
7) 加藤寿宏、小西紀一(1999):症例を通した行為機能モデルの再建,感覚統合研究7, pp45-52

執筆者プロフィール

加藤 寿宏
関西医科大学 リハビリテーション学部
作業療法学科 教授
関西医科大学 リハビリテーション学部
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【専門】
 発達障害の作業療法
 感覚統合療法
 
【資格】
 専門作業療法士(特別支援教育)
 公認心理師
 日本感覚統合学会認定セラピスト
 特別支援教育士 SV

 
【学会】
 京都府作業療法士会副会長
 日本感覚統合学会副会長、講師
 日本発達系作業療法学会会長

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