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ボツリヌス療法について

リハビリテーション

ボツリヌス療法について

ボツリヌス療法について

2013-01-01

現在のリハビリテーションにおいて、ボツリヌス療法(商品名・ボトックス)は治療の一貫として位置付けられています。小児脳性麻痺による下肢の痙縮(けいしゅく)に対してはこれまでも使われてきましたが、2010年に脳卒中(脳血管障害)の上下肢痙縮が保険適用になったことで、対象者はさらに大きな広がりをみせています。装具療法に従事する者にとっても知識が必須であることから、慶応義塾大学医学部リハビリテーション医学教室専任講師の藤原俊之先生に講演を依頼しました。
2012年10月に東京で開催されたpostgresグループ関東勉強会から講演内容を抜粋しました。

取材:毎日新聞社 丹野記者

三つのポイントを見極める

慶応大学病院では2011年から週に2日、ボトックスの注射の日を設けています。最初の年は、脳卒中の患者だけで140人、トータルだと360人ぐらいになりました。その後もかなり増えているので、みなさんもボトックスを受けている患者に会う機会が多いと思います。

はじめに、ボトックスの目的から説明します。リハビリの場面でベースになってくるのは痙縮への対応となります。痙縮に伴う筋肉の不随意なオーバーアクティビティを抑えるのです。
痙縮によって生じる問題はいろいろありますが、大きく三つのポイントに分けられ、そのどれに当てはまるのかを最初によく考えることが大切です。

  1. 治療の理由として一番大きいのは「疼痛」です。筋の緊張が強く、固くなり、例えば握った手の指が食い込んでしまうことがある。これは痛いですね。この場合は単純に筋肉の緊張をとってあげれば、痛さは和らぎます。困っている痛さをとるのですから、治療適応となります。また、容姿の変化の問題もあります。筋緊張によって歩く時に手が曲がってしまうとか、体や首が曲がってしまうこともある。機能的にはあまり変わらなくても、見た目の異常を何とかしたいという希望がある場合、治療適応になります。

     
  2. 次が「パッシブファンクション」。簡単に言うと、腕が曲がったままになったりしている状態をどうするかということ。患者が自分で腕を動かせないのは仕方がないとして、曲がったまま硬くなってしまうと、家族が着替えをさせようとしても困難になります。また、手を握ったままだと、洗えないという問題も出てくる。常に湿っていると感染を引き起こし、水虫にもなりやすい。

    装具の装着も難しくなります。よくあるのが、両足の大腿部が内転してしまう、いわゆる挟み足です。こうなるとオムツの交換に困ってしまう。股を開げるだけでも大変なので、洗うのが難しく、不潔になります。そういう場合に、ボトックスで内転筋の緊張をとれば楽になります。

     
  3. 最後が「アクティブファンクション」です。患者が自ら動かそうとした時に、筋肉の活動が過活動になって邪魔な動きが出てしまう。典型的なのは尖足(せんそく)です。尖足は緊張を抑えることで動かしやすくなります。手や指が動かせない状態になることもある。こんな場合も、曲がる方の緊張をボトックスでとってあげれば、伸ばしやすくなります。

藤原先生

安易なボトックスは逆効果

注射自体は簡単に打ててしまうのですが、一つ注意が必要です。手が曲がったままだとして、本当にそれが悪いことなのかという見極めです。曲がっているからこそ、ちょっとした荷物をそこにかけて持てたりもする。麻痺自体が重ければ、緊張をとって腕が伸びたままになると、逆に何も持てなくなってしまう。尖足にしても、緊張をとると膝折れしてしまう。足首がロックされていることで速く歩けていたのが、逆に遅くなってしまうことがある。階段も登れなくなる。アクティブファンクションについては、微妙なバランスで何とか歩いている人も多いので、評価や検討を怠って安易にボトックスで緊張をとってしまうと、しばらく歩けなくなることがあります。

最近、ボトックスがテレビでよく取り上げられるようになりました。テレビでは、極端に良くなった症例が紹介されるので、万能だと勘違いする人がいます。動かなかった箇所が動くようになるのは、筋肉の緊張をとってあげたからであって、実際には患者自身が持つ運動機能が深く関係しているのです。

痙縮の評価も重要で、そのためのスケールもあります。これは、パッシブに動かした時の抵抗や緊張を0から4までの段階で表します。「0」は筋肉の緊張がない状態。「1」は軽度の筋緊張。「2」は全可動域で筋緊張による抵抗がある状態。「3」になると、ほとんどパッシブには動かせません。「4」は完全に固まり、屈曲も進展も困難です。

セミナーの様子

1回の注射で効果は3~4カ月持続

ボトックスの特徴についても説明しておきます。まず第一に、痙縮が認められる筋に直接注射する方法のため、局所性の治療に有効だということが言えます。1回の注射で、効果は3~4カ月持続します。頻回に打つと抗体ができてしまうので、しっかり打って、間を空けるのがいいでしょう。

打ってから効果が表れるまでに2日から1週間かかるため、効き具合を見ながら注射するということはできません。副作用で一番多いのはアレルギー。国内の臨床試験では1%ぐらい発疹が出たりしていますが、重度のアナフィラキシーショックが起きた例は国内ではありません。

回復期の装具の選択は慎重に

患者がボトックスを受けている場合、装具の種類や役割が変わるのかという疑問も出てくるでしょう。慢性期(維持期)について言えば、何ら変わりません。回復期では、筋緊張が上がってきた時にオーバーブレースにするかどうかとなります。早い段階でボトックスを打ち、痙縮をコントロールした状態でトレーニングするかどうかによって、柔らかい装具を選択する可能性が出てきます。

ただ、注射が効いている時に作った装具が後から使えなくなることも考えなくてはなりません。患者の痙縮をどの程度コントロールして、どのような歩かせ方をするのかによって、装具の選択は変わってくる。どちらか一方だけを優先してしまうのはよくありません。

痙縮改善イコール機能的改善ではない

最後に、改めて「痙縮の改善がそのままファンクショナルリカバリー(機能的改善)になるのではない」という点を強調したいと思います。痙縮が阻害になっている場合に限って、ボトックスは有効になるということを覚えておいてください。

セミナーの様子

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