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スウェーデンの障害者の暮らし 連載1

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スウェーデンの障害者の暮らし 連載1

スウェーデンの障害者の暮らし 連載1

医療法人錦秀会 阪和第二泉北病院 リハビリテーション部 部長 山口 真人

2013-01-01

― リハビリテーションとケアの真のあり方を探る ―

スウェーデンは、自然と都市が調和する北欧を代表する福祉国家であり、生活大国とも称される。(註1)

私は、日本において重度の機能障害をもつ高齢者の多い現場で勤務しながら、2000年より度々スウェーデンを訪れ、同様の障害をもつ人々の暮らしぶりや、リハビリテーションやケアのあり方、それらの根拠となる各種法制度について取材を重ねてきた。その目的は、我が国の現場に足りないものを探り、我が国が向かうべき方向のヒントを得ることである。

この間に得た一つの結論は、脳卒中や難病、先天性疾患などによって重度の障害を抱えながら生きる人々に対する諸施策のあり方が両国間でかなり隔たっていること、そしてそのことが彼らの日常生活や心身の様相に大きな違いを与えているということである。本来ならば避けられるはずの重度の関節拘縮や褥瘡、廃用性機能低下による嚥下障害などの二次的な障害を重度の機能障害を有する人々に引き起こし、彼らの屋内外における活動や参加の機会も大幅に制限してしまっている日本と、決してそうはなっていないスウェーデンとの違いが浮き彫りになったということである。

本連載では、スウェーデンにおける重度の機能障害を有する壮齢及び高齢の人々の暮らしぶりを紹介し、彼らを取り巻くさまざまな「環境因子」(人・モノ・空間づくり・経済的支援)を取り上げていく。具体的には、「個人アシスタント」制度、「補助器具」制度、「住宅改修補助金」制度、「最低生活保障額」制度、「家族ケア者」制度などの各種制度や町づくり全般(地域給湯暖房システム、全国的なバリアフリー化など)である。

読者の皆様には、ICF(国際生活機能分類)(図参照)においても規定されている「環境因子」をしっかりと機能させることが、重度の障害を抱えながら生きる人々の尊厳を保障し、活動や参加を実現し、心身機能を維持するうえで不可欠であることを感じていただき、この分野における日本の法制度の不備や、それに起因する現場の問題点、さらには今後の課題にも気づいていただけたら幸いである。

それでは早速、事例の紹介から始めていきたい。

相互作用図

彼女の名はエルヴィ、57歳。多発性硬化症を患って20年、スウェーデン中央部に位置するクロコム市の中心部にあるアパートの3階に一人で暮らしている。

体幹の支持性はまったくなく、手足もだらりと弛緩している。離床には特別誂えの車椅子が必需である。食べやすく調理した料理を全介助で何とか嚥下する、ゆっくり小さく頭かぶりを振るといった程度の動作能力しか残っていない。日本の介護度で「5」に相当する重度の障害者である。息子はダウン症者でグループホームに住んでいる。

エルヴィは、起床から就寝まで常時二人の「個人アシスタント(personlig assistant)」(以下、アシスタント)による支援を受けながら、自分の決めたスケジュールで過ごしている。彼女のとある一日を紹介すると……。

エルヴィのアパート

7月×日、「おはよう」と声をかけながら、二人のアシスタントが訪問する。まずは起床である。二人で寝室の天井走行式リフト(以下、天井リフト)(註2)を操作して、エルヴィをベッドからキャスター付きのシャワー椅子(註3)に移乗させた(註4)。シャワーを浴びさせたあと、一旦ベッドに連れ戻し、服を着せ、両足には浮腫予防のための弾性ストッキングを穿かせた。

次は、ブランチの時間だ。天井リフトでベッドからモジュラー型の介助用電動車椅子(註5)に移乗した。アシスタントが後部パネルを操作して、エルヴィをダイニングキッチンに連れ出した。エルヴィは自分好みのメニューを全介助で食べさせてもらった。

食後は、エルヴィの大好きな喫煙タイムである。リビングのドアからバルコニーへと出た。アシスタントが一度吸って火をつけたタバコをくわえさせてもらい、火や灰の管理もアシスタントに任せながら、エルヴィはゆっくりと至福の一服を楽しんだ。アシスタントは、灰皿代わりの空き瓶を手に持って、終始傍らで見守っていた。

天井リフトで移乗

ダイニングでブランチ

バルコニーでブランチ後の一服

このあとは、リハビリ、買い物、散歩を目的とした外出となった。ゆったりとした玄関、廊下を通り、広々としたエレベーターに乗って階下へ降りた。まずは、すぐ近くの県運営のリハビリ室に向かう。舗道や道路はよく整備されていて、とてもスムーズに移動できる。

リハビリ室では、理学療法士が作ったメニューである上肢のクランク運動と下肢のペダル踏み運動を、二人のアシスタントが介助をして約30分間行った。
リハビリを終え、玄関前にあるオープンスペースで、エルヴィはまた一服である。アシスタントは長くなった灰を、今度はなんと手のひらで受けていた。

一服後は買い物に向かった。アシスタントが、スーパーの外壁に据え付けられた現金自動預け払い機(ATM)でエルヴィの口座から現金を引き出し、そのままスーパーに入った。エルヴィの視線や頷き、頭かぶりを振る動作による指示を受けつつ、彼女好みの品物を次々とかごに入れていく。野菜、果物、卵、乳製品、牛肉などを買い込んだ。

スーパーを出て、近くのハンバーガーショップに立ち寄り、アイスクリームを購入した。ショップ前のオープンスペースのベンチで食べることにした。抜けるような青空のもと、アシスタントはエルヴィに食べさせつつ、自分たちも頬張っていた。(つづく)

次号では、本事例の残りを記述したあと、「個人アシスタント」制度について解説したい。

近くのリハビリ室でペダル踏み運動

リハビリ後の一服

スーパーで買い物

註:
(註1) 高い税負担によって高福祉社会が実現されている。所得税は一部の高額所得者を除き一律約30%で、すべて地方自治体に入る。消費税は対象品目によって0%(無税)、6%、12%、25%の四段階に分かれており、すべて国の収入となる。
(註2)吊り道具(スリングシート)も含めて無料レンタル。
(註3)これも無料レンタル。
(註4) リフトを用いた移乗介助は必ず二人で行うのが自治体の決まりである。当然、予算の裏付けがある。
(註5) 電動車椅子には年間500クローナ(約6,000円・2012年12月現在の為替レート:1クローナ≒12円で換算)のレンタル代がかかる。

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