パシフィックニュース
特別支援学校でのリフト導入 事例報告
リフト・移乗用具
2013-01-01
肢体不自由特別支援学校の現状
肢体不自由特別支援学校では、近年の医療の進歩に伴い、子供たちの障害の重度・重複化、多様化が進み、「健康な体づくり」という課題が古くて新しい課題となっています。障害の重い子供たちの在籍する割合が増加し、その方たちにとっての課題として「生きる力」とは「健康な体づくり」であると考えています。様々な課題を、単に医療サイドや福祉サイドに委ねるのではなく家庭・医療・福祉・教育がしっかり手をつなぎ、子どもたちのニーズに応じた教育的支援をしていくことが求められています。
これらのことを個別指導計画の目標にするにあたり、子供たちの障害、健康、生活などの実態を把握し、課題を整理します。特に障害の重い子供の課題として、姿勢への配慮が大切になります。障害の重い子供にとっては、身体の変形・拘縮などもあり、普通に座ることもできにくく、座位保持椅子、クッションチェアーなど、子供に合った姿勢の獲得を支援することとなり、子供達にとっては姿勢のことなども大切な学習となります。授業においては、見え方、聞こえ方などを丁寧にアセスメントし、姿勢や配置を決めていきます。このように、指導する側にとっては、シーティング、ポジショニング等は大切な専門性となります。障害の重い子供にとっての指導計画における、一般的な長期目標として、表1のように、だいたい6つの目標が立てられます。姿勢確保をするにあたっては、様々な姿勢があげられますが、その際に乗せ降ろしが必要となり、その介助も大切となります。授業構成要素の中で、教師の働きかけとして、「説明・示範」、「受容・応答」、「賞賛・励まし」、「介助」、「教材・教具の活用」などが挙げられます。リフトの導入のきっかけとして、この中の「介助」という側面からのリフトの導入についての経過、実際を報告したいと思います。
障害の重い子供にとっての目標例
- 日常生活習慣の獲得
- 基本的な社会生活の理解とその活用
- 身体を動かすことへの興味・関心の拡大や、頭部・体幹の支持、姿勢の獲得
- 座位姿勢による手の操作性の向上、把持などの微細運動・動作の発達促進
- 視覚の活用による認知能力の向上
- 言語理解とコミュニケーション能力の向上
リフト導入のきっかけ
本校高等部では16名の生徒が在籍しています。高等部となると成長期に入り、体の大きさも大人同様になり、骨格がしっかりしてくるとともに、体重が増えてきます。体重増加自体は、生徒にとって、成長であり喜ばしいことですが、一方で保護者、介助者の負担は増えてきます。学校現場における教育的配慮として、抱きかかえによる介助、人と人の通い合う介助という考えもあります。しかし、高等部段階になると、移乗の際に強い力で抱きかかえることによる生徒への負担、教員の腰への負担等、負の側面も出てきます。授業の際に、授業ごとに違う姿勢をとることや、長時間の同一姿勢の保持による健康への影響等も配慮し、様々な姿勢をとることを基本としています。そのため、乗せ降ろしのパターンとして車椅子からフロアー、フロアーから椅子、椅子からフロアー、フロアーから車椅子、トイレでの移乗、授業ごとに座位保持椅子の利用や身体を休めるためのフロアーへの移乗などが挙げられます。また、保健行事等が入った場合、身体計測個別体重測定など、教室間の移動、その度の乗せ降ろし、移動などが入り、生徒への負担、教員の腰への負担が増えます。また、夏のプールの時期での着替え、乗せ降ろしなど、一年をとおすと様々な場面での介助が挙げられます。
1日の乗せ降ろし回数を平均すると生徒にもよりますが15回程度、多い場合は20回程度あります。腰痛になる職員も多く、生徒、教員ともに、介助への負担の軽減が課題となっていました。移乗における介助方法は先輩からのOJTで、「体の近い位置で、しっかり抱きかかえ、足腰で上げる」などが、口伝や内部研修で後輩に伝えられてきました。ただ、一日の移乗の中で、いつでも同じ人が、同じ方法では介助することができませんので、どこかに負担がいきます。また、体の大きい女子高生が在籍し、同性介助が大前提ですので、女性教員への負担が大きくなり、一昨年度からリフトについて研究し、昨年度9月から導入しました。
導入後の経過
昨年の8月(夏季休業中)にリフトが届き、インストラクターによる研修を実施していただき、教員同士でリフトの操作、スリングを使って、実際の移乗を体験し状況を確認してきました。緊急時の対応、バッテリーが切れた時、折りたたみ方法なども繰り返し研修し、2学期始業式から本格的に使用を開始しました。言うまでもありませんが、教員の間では「腰への負担が大幅に減った」、「腱鞘炎が再発しなくなった」など、教員サイドからのメリットが多く出されました。生徒にとってはどうかという評価が重要になります。体の大きな生徒にとっては、背後からの抱きかかえをするときに、体に手を回し、強く抱きしめながら引き上げます。その際に、生徒に与える負担は大きく、また、低い位置から一気に高い位置に引き上げられるので、生徒によっては驚愕反射(原始反射)も出かねません。しかし、リフトを使うとスリングで体全体を包み込み、ゆっくり引き上げられ、誰でもほぼ一定の介助ができます。教員が介助するときは、「車椅子乗りますよ、せーの」など、余裕の無い掛け声が響きましたが、リフトを利用することで、ゆとりある言葉掛けが出るようになってきました。
リフト使用前は、写真1のように呼吸を合わせて、体の近い位置で介助をしていました。しかし、リフト導入後は、写真2のように、生徒の表情を見ながら、移乗することができるようになりました。今では、かけがえのない一員です。
写真1:移乗の場面
写真2:リフト使用場面
教員アンケートから見る考察と今後の課題(N=13)
リフトに関して、本校高等部教員にアンケートをとりました。その結果を以下に記します。図1のように、良いという意見がほとんどでした。また、使い心地に関しては、一部今後の課題がありましたが、ほぼ良い結果になっています。改良して欲しい点等も挙げられ、1.足の部分にカバーをして欲しい 2.バッテリー式だけではなくコンセントでも動くようにして欲しいなどが出されました。
とにかくよく使用しており、1年点検で回数を調べたところ、約220日の授業日数の中で2500回利用しております。また、折りたたみができるので、移動教室にも持参しました。これからも、生徒にとっての良い介助を考え、末永く使っていきたいと思います。
図1:リフトに関するアンケート
今回のモーリフト事例報告は、肢体不自由特別支援学校・一教諭の発信
日本の介護現場から『腰痛』をなくしたい! との思いで、パシフィックニュースにリフト導入後の事例掲載を続けてまいりました。しかし『腰痛』に苦しんでおられるのは、医療・介護従事者だけではなく、特別支援学校の教職員も共通の悩みを抱えている現状があります。今回の原稿を依頼した時に『リフトを導入してから、教職員の腰痛が減りました。感謝の意を込めて原稿を書きます!』と語られた先生の熱き言葉に教育現場となる多くの肢体不自由特別支援学校の課題を重く受け止めました。
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