検索

Close

検索したいキーワードを入力してサイト内検索をする

パシフィックニュース

第2回脳血管障害への下肢装具カンファレンス2013

装具

第2回脳血管障害への下肢装具カンファレンス2013

2013-04-01

2012年にパシフィックサプライでは、「第1回脳血管障害への下肢装具カンファレンス」を大阪(6月)、東京(7月)にて開催いたしました。両会場とも参加者の皆様の下肢装具を活用したリハビリテーションにおける関心は高く、活発な意見交換がなされました。下肢装具を活用したリハビリテーションの今を記録し今後の発展を目指すため今年も「第2回脳血管障害への下肢装具カンファレンス2013」を名古屋(2月)、大阪(3月)にて開催をいたしました。

今号では、2月16日名古屋会場にて開催いたしました基調講演・ランチョンセミナーの講演概要を掲載いたします。急性期での装具療法、地域連携、下肢装具療法の意義について改めて認識を共有するカンファレンスとなりました。

取材・撮影 岡本 望(毎日新聞大阪センター)

基調講演 脳卒中急性期リハビリテーションと治療用下肢装具の意義 国保旭中央病院 藤本 幹雄先生

藤本先生は基調講演の冒頭「回復期が本格的なリハビリの開始だと一般的には思われているが、急性期からのリハビリにシフトすることが大事」とし、実際、急性期からリハビリをスタートさせた場合、2週間後に回復期へと転床し、60日以内に自宅退院できた結果、医療費節減にも効果があるという例も挙げられた。

続いて早期リハビリの必要性として(1)Critical Time Window (2)合併症予防、全身的な機能向上の視点(3)人権、ノーマライゼーションの擁護の視点の3点を挙げられた。

脳の組織的修復は脳血管障害発症から数週間以内に起こるので、この時期にリハビリ介入すると運動野の再組織化を最大限に引き出すことが可能である。再組織化が困難な重症例でも残存機能を高めて排泄などの能力を回復することが可能であり、能力の向上は落ち込みがちな患者様の心理にも良い影響を与える。藤本先生は「麻痺改善だけがリハビリではない。状態の良い人はクリティカルタイムウィンドウ、重症患者様は下肢装具リハなどでADLを中心とした能力回復に重視すべきです」と呼びかけ、(2)の合併症予防などの観点からは、早期離床・早期リハによって廃用症候群の予防に効果があると発表。(廃用症候群とは、筋力低下や起立性低血圧、沈下性肺炎、知的機能の低下、うつなど様々です。)大腿四頭筋や大殿筋といった抗重力筋はADLに影響が大きく、立つ・歩く動きが大切である事を訴えられた。

実際、藤本先生が以前勤務された美原記念病院では、軽症患者様には活動制限を与えず、座位開始基準はバイタル安定、意識レベルは一桁かそれに近い状態とし、意識障害があった患者様でも1週間後にはリクライニング車いすで座位を開始した事例などを紹介頂いた。

さらに「起立性低血圧は脳灌流圧の低下、脳梗塞巣の拡大の原因となりえる」とし「下肢の筋肉の動きは第2の心臓とも言え、しっかりモニターをしながら座位、立位に取り組めばこれらの予防につながる」とご自身の体験から話されていた。続けて「回復が困難な患者様でも人間らしい生活を送る権利はある。離床や座位、立位はやらせてください」と力強く語られた。

講演会

講演会

<早期リハビリテーションの取り組み方法>

基調講演では発症から72時間以内にリハビリを始めた患者様は72時間以上経過してからリハビリを始めた患者様より入院日数が短かったことから「早期リハビリによって3ヶ月以内でADLは改善します」と発表された。

『早期リハの骨子』として、麻痺運動の回復よりADL自立優先、早期離床(車いす座位の実践)、ベッドサイドでのADL(移乗や排泄)、早期下肢装具の使用、起立訓練(石神)をあげ、リハビリ医を中心としたチームで安全管理しながらの立ち上がり、歩行、階段などを検討するのがよいことや、片麻痺患者様の急性期リハビリでは血圧測定を麻痺していない方の腕につけることで取り外されることがなく、さらに安定した血圧測定が可能などのアドバイスがあった。

歩行障害患者様へのリハビリに関しては(藤本先生が)「一番信頼している」カナダのガイドラインを紹介し、トレッドミル訓練や部分的ボディーウェイトとトレッドミルを併せたものは下肢装具を用いた歩行訓練よりも有効だという根拠はないとし「装具を使用して重力がかかった状態の方が良いのではないか」と話し、「強いトレーニングを避けようとする強迫観念は早く取り払ったほうが良い」と持論を展開頂いた

<早い段階からの家族の参加が理想>

「日本の急性期リハビリは遅れている」と指摘する藤本先生は、リハビリスタッフだけでなく多職種によるケアや介護者中心のリハビリが大事とし、特に「早くから変化を見てもらったほうが良い」との考えから、急性期からの家族の支援が理想的だと話された。過去のデータとして、家族の付き添いによる集中的リハビリを1日5、6時間行った場合、軽症なら2、3週間、重症でも2?3ヶ月以内である程度回復したとし、家族のリハビリ参加が途中で途切れた患者様は回復のペースが落ちたケースの紹介もあった。

最後に下肢装具の処方について、早期の処方と積極的な活用が入院日数の短縮に有効である、急性期の治療用長下肢装具は股関節伸展筋賦活化を目的とする、急性期の回復レベルに合わせてきめ細かに継手を調整することが大事などのアドバイスがあった。続けて正味20分は歩行することが歩行の学習につながることをご教授頂き基調講演が終了した。

講演会

ランチョンセミナー 急性期リハビリテーションにおける下肢装具療法 札幌白石脳神経外科病院 安部 陽子先生

<脳卒中リハの進め方>
装具療法EBMに向けて安部先生には「歩行における神経学的制御」や「急性期装具療法の取り組み」などについて発表頂いた。脳卒中リハビリの進め方に関しては、「離床のタイミングは明確な方針は確立されていない」とし、札幌白石脳神経外科病院ではくも膜下出血患者様で、コイル塞栓術を積極的に行い、手術の翌日から歩行訓練を開始する場合もあると話され、「マニュアルを作成しドレナージを管理することが大事ですが、ドレナージ自体は離床の妨げにならないと思います」とその際、安全管理上の注意点として挙げられた。

札幌白石脳神経外科病院では2009年に脳血管内治療センターを開設し、急性期リハに力を入れている。同センター開設前と後とで離床や在院日数を比較すると、離床までは16.1日から1.7日に、在院は116日から42日と大幅に短縮できており、さらに軽症例の場合、肺炎の合併がなくなるなどの効果も出ている。

講演会

<症例提示>

セミナーでは同病院で施術された様々な症例も発表頂いた。
78歳のくも膜下出血の女性では、術後3日目で腰椎ドレナージを挿入しての離床および歩行訓練を開始。10日目に脳血管れん縮のため歩容が悪化したが「3日目に歩行訓練を開始したからこそ判明したとも言えます」と早期離床の重要性を訴えられた。15日目には歩行器を使用した上でトイレに行けるまで回復されたとのことであった。

また2012年1月から8月までで初発脳血管疾患のうち下肢BrステージⅢ以下の症例は21例あり、急性期から一貫して装具療法を実施したA群と装具を不使用または装具療法を途中で中断したのをB群とし比較したところ、介入時NIHSSはA群が16点、B群が12点、自力歩行獲得はA群が90%、B群が55%となり、麻痺の程度も若干ではあるがA群のほうが改善された。またNIHSSが10~20点の患者様の場合、A群では自力歩行獲得が見られたが、B群では見られない結果になった。
ほかにも、NIHSS15点の患者様は術後2日目からKAFO装着での歩行を開始し、39日目にはKAFO膝ロックを解除し、歩行が行えるまでに回復。62日目には装具フリーの自力歩行となりました。

<下肢装具使用の有用性と今後の展望>

これまでの施術の効果などから安部先生は「早期リハにおける下肢装具の使用は、麻痺側機能改善を目的とした運動療法として有用です」との考えを示された。実際、75歳女性で半側空間無視やPushingの強い患者様に対してKAFOを装着し角壁立位で非麻痺側へのリーチを試みた場合、非麻痺側に適切な荷重がかかるだけでなく、麻痺側の重心が上昇し体幹機能向上に効果があることが分かった。

最後に安部先生は「早期リハにおける下肢装具療法の効果はわかっています。これからは使う、使わないではなく、どう使っていくかを議論すべきだと思います」とし、病院で提供できるリハビリは1日3時間までとなっており、「家族参加型のリハビリがこれからは早期回復のカギになります」と早い段階からの家族の参加の重要性を提唱頂いた。

写真

写真

関連情報