パシフィックニュース
モーリフト利用事業所からの発信 事例報告
リフト・移乗用具
「介護士は、しんどいのが当たり前!」
そのような介護士の中の【普通】が私には【苦痛】でした。
そんな時に出会ったのがノーリフト?でした。(介護職員)
社会福祉法人市原寮 花友しらかわ 理学療法士 松本 哲郎
2013-04-01
ノーリフティングポリシーの浸透
利用者の拘縮・褥瘡の原因は、崩れた姿勢で過ごすことと、もう一つの原因として、無理な引き上げの移乗介助・ベッド上移動の引きずり介助が挙げられています。また一方で、介護職・医療職員は、労働基準以上の持ち上げ介助(20kg以上)により、腰痛・頸肩腕障害を職業病として持っています。
介護老人福祉施設「花友しらかわ」では、これらを改善する為に、日本ノーリフト協会のオーストラリアツアーへ参加し、また一方で福辺流「力のいらない介助術」を学びました。
ご利用者・介助者が双方共に安全安心に生活できる「持ち上げない介助」の環境作りに、取り組みを進めています。
ノーリフティングポリシーの実践
最初に、無理な持ち上げ介助やベッド上で体を引きずる介助が、利用者、介助者双方共に体を痛めていくエビデンスを『知る』ことから始めました。
- 利用者側… ポスチャリングなどの姿勢管理から移乗動作の見直しやフットケアなどのトータルケアが必要であること。
- 介助者側… 福祉用具を導入し「持ち上げない介助」を取り入れる。
作業姿勢・体の使い方・自分に合った靴・就業前後の体操・休息睡眠・ストレス発散などトータルで考える事。
ノーリフティングポリシーへの理解を伝えていきました。(写真1,2)
施設長、管理者の理解の下に、まずシート・ボードは必要数を購入。自然な動きを促す介助で出来るだけ自立を促し、いろいろな原因で困難になってきた方は、それぞれの体に合わせて摩擦軽減用具を使っていき、それでも難しく、お互いに安楽に移乗できるリフトが必要だと現場介護士さんが感じてくださる段階で、スタンディングマシン、リフトを一緒に導入していきました。
写真1
写真2
壁を乗り越えた方法・成果 時間がない
新しい介護を取り入れるには、介護現場特有の「時間が無い」の壁にぶつかり、なかなか普及はしていきませんでした。
研修では、人間の自然な動きや生理的動作を促す介助と、シート・ボードを使用する介助方法を伝えながら、ノーリフティングポリシーの「なぜこのような時間がかかる丁寧な移乗移動介助が必要なのか・・・
利用者と介助者の今だけを見るのではなく、長い人生デザインで考えると、利用者は出来るだけ自立を保て、またそれが無理になっても拘縮・褥瘡を防ぎ、いつまでも人間らしい体でいていただく為であること、私たち介護・医療職で見れば、腰痛や頸肩腕障害を職業病とあきらめず、健康な体でいることがプロとして必要である。だから時間をかけてでも、双方共に、安全安心な介助が必要なんだ」という理念を伝え続けました。
廃用性への懸念
また、福祉用具を使うに当たってもう一つの壁は、介護士さんの考え方で、ご利用者に生活の中で出来るだけ立っていただく機会を増やす事が自立支援であり、廃用性予防となるという考え方があることでした。介護職員からは、ボードやリフトを使う事で、廃用性が生まれるのではないかとの意見もありました。しかし、片麻痺者など筋緊張が亢進して下肢が伸展したまま立ち上がり続ける事で、常に筋緊張が高い状態で体が棒のようになり、座位が取れなくなってしまう人もいる事を伝えました。リフトを使って安楽な介助を行う事で、拒否されることもなくなりおだやかに移乗され、結果、筋緊張が和らぎ座位が取れるようになり、ついには食事が自立摂取できるケースを経験していただけました。立たせる事だけが、自立支援介護でない事を体感し、理解を得ることにつながりました。
(写真3,4)
写真3
写真4
成果
時間が無い介護現場でシートの普及は早く、必要な人には1枚ずつ専用のトランスファーシートが設置されました。また介護士さんの一人が、ベッド棚に「サッと出せてサッと収納できる」おしゃれな筒状の保管場所を作ってくださり普及率がアップしました。(写真5,6)ポスチャリングと摩擦軽減用具で、新規の褥瘡はほぼ無くなっています。また根気よく続けていくことで利用者さんが目に見えて大きく変わり、表情が豊かになっていったのです。リフトのお陰で余裕を持って介助に入れるので自然と笑いが増え、温かい現場になっていきました。
介護職員の腰痛・頸肩腕障害も改善してきています。一見非人道的と思われる機械を使っての介護を、利用者の変化を感じた辺りから、お互いの為に、「しんどい介護をやめよう」と、これからの日本に必要な介護と捉えてくれている職員も増えてきています。
写真5
写真6
今後の課題
日本ではこのような介護をすすめた例を見つけることが難しく、マニュアルも指導方法も分からない中で、試行錯誤の連続でした。上記の例のようなケースを一つ一つ作る事で、この取り組みに意義がある事を現場の方々に感じていただき、共感者を増やしていきました。
このような活動は、情熱があっても、方法が明確でないだけに、結果をなかなか出せず、燃えつきてしまい、あきらめてしまう方も多いと思います。それをサポートしていく仕組み作りが必要だと思います。
今の介護現場は、いつも時間に追われ動き回っています。花友しらかわでも、1勤務あたり1万歩を超えています。蓄積疲労や、責任を感じながら働いている精神疲労も考えていかないと、本当に、安全な介護現場にはできないと思います。
腰痛予防をきっかけに、自分たちが健康でいる事が、利用者に対して広い視野で気付きをもて、高品質な介護が出来る、良い仕事が出来るんだというプロ意識を持てる様になれば、ほかの問題に対しても、働く人たちがあきらめずに今出来る事から変えていこうという精神を持てるようになるのではと考えています。
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