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装具療法地域連携による効果 論文紹介

装具

装具療法地域連携による効果  論文紹介

公益財団法人宮城厚生協会 長町病院 高島 悠次 一般財団法人広南会 広南病院 阿部 浩明

2014-03-15

去る2013年9月28日“下肢装具カンファレンス・みちのくシリーズ”を福島県にて開催いたしました。12演題発表の中から、「装具療法地域連携」の取組みにおいて「長下肢装具が予後に及ぼす効果」の研究発表を掲載させていただきます。

前号パシフィックニュースVol.154では、神戸市における「装具療法地域連携ミーティング」の取組みをご紹介させていただきましたように装具療法は地域の医療分化の中で、いかに連携していくのかが、重要なテーマであると考えます。共同研究において、装具療法地域連携の効果が示唆されましたのでご報告いたします。

脳卒中重度片麻痺例における急性期からの長下肢装具作製が歩行及び階段昇降自立度の予後に及ぼす効果~他施設間共同研究~
The effect of using KAFO during acute and sub-acute stroke rehabilitation

1.はじめに

脳卒中発症早期から装具を用いた早期歩行訓練は、脳卒中ガイドライン20091)にて推奨されている(グレードA)。装具は患者の状態に合わせて処方・作製され状態の変化に伴い再作製も検討されるべきである。

しかし、一部では早期から装具を使用することに対して、否定的な意見も散見される。それゆえ、装具の作製は最終的な運動機能回復を見極めて、退院後に装着する装具のみを作製するという、言わば、治療的装具というより厚生用装具に近い意味合いで作製されることが多いように思われる。この背景には早期から装具を作製したことで得られる効果や利得といった、すなわち、装具の早期作製の有効性が客観的に示されていないことが原因の一つにあると思われる。

急性期から本人の状態に合わせた下肢装具を作製して理学療法を行うことが、その後の移動能力の改善にどのような影響を及ぼすのか、非作製群との差異を縦断的に検証した報告はみられない。そこで、早期の装具作製の意義を明らかにするため、長下肢装具(以下KAFO)を急性期病院にて作製し当院へ入院した例と作製せずに入院した例の歩行及び階段昇降の自立度の推移を、対照とのマッチアップを十分に調整した上で後方視的に調査したので報告する。

2.対象

2010年6月からの2年間に当院回復期病棟に入院した脳卒中片麻痺者の中で、急性期病院にてKAFOを作製し転院してきた13名のうち、退院時の機能的自立度評価表(Functional Independence Measure:以下FIM)の歩行項目が3点以上であった8名をKAFO群とした。

その対照群として、KAFO群と年齢、性別、発症から入院までの日数、入院期間、入院時の運動麻痺の重症度、入院時のFIM、退院時の10m歩行速度、歩幅が同等で、かつ退院時のFIM歩行項目が3点以上であった20名を後方視的に選出し、非作製群とした。本研究の対象となったKAFO群が処方されたKAFOは、全例、足継手の外側にGait Solution(以下GS)、内側にダブルクレンザックを使用したGS-KAFOであった。

3.方法

FIMを用いて歩行と階段における経時的変化をカルテより後方視的に調査した。調査時期は以下の3つの時期とした。

  1. 回復期病棟入院時(43.04±9.9病日)
  2. 中間評価時(90.79±11.7病日、入院後48.54±4.5日)
  3. 退院時(入院期間137.79±29.6日)

である。

時間経過に伴うFIM歩行及び階段の値の変化をrepeated ANOVAを用いて統計学的に検定した。その後、多重比較を行い、各調査時期間の差異ならびにKAFO群と非作製群間の差異を検討した。有意水準は5%とした。

4.結果

KAFO群と非作製群の2群間のデータを表に示した。年齢、性別、発症から入院までの日数、入院から中間評価までの期間、回復期病棟入院期間、初回評価時の下肢運動機能、初回FIMはほぼ同値である。また、退院時の下肢運動器の機能もほぼ同値であった。

FIM歩行項目におけるANOVAでは調査時期間において有意差(p<0.01)がみられた。多重比較では、KAFO群と非作製群ともに中間評価時(KAFO群2.12±1.45、非作製群1.2±0.87)と退院時 (KAFO群4.62±0.99、非作製群4.6±1.15)の間に、また、入院(KAFO群1.0±0、非作製群1.0±0)と退院時(KAFO群4.62±0.99、非作製群4.6±1.15)に有意差(P<0.01)がみられ、KAFO群のみ入院時(1.0±0)と中間評価間時(2.12±1.45)に有意差(p<0.01)がみられた。

KAFO群と非作製群との群間における比較では中間評価時にのみ有意差(p<0.05)がみられた。FIM階段項目におけるANOVAでは調査時期間において有意差(p<0.01)がみられた。多重比較では、KAFO群と非作製群ともに中間評価時(KAFO群1.62 ±1.32、非作製群1.15±0.35)と退院時(KAFO群3.5±1.11、非作製群2.05±1.43)の間に、また、入院時(KAFO群1.0±0、非作製群1.0±0)と退院時に有意差(p<0.01)がみられ、KAFO群のみ入院時と中間評価時(1.62±1.32)間に有意差(p<0.05)がみられた。KAFO群と非作製群との群間における比較では退院時にのみ有意差(p<0.05)がみられた。

5.考察

FIM歩行と階段昇降の項目は初回時に比べ時間経過に伴い、両群とも有意に改善し、KAFO群は歩行、階段昇降において、より早期に自立度が改善した。その要因として、長下肢装具が早期に処方されることで、積極的な歩行練習が実施される頻度が増大していることを推察した。歩行能力の決定因として下肢筋力の関与は古くから報告されている2),3)。今回対象とした症例はいずれも重度から中等度の片麻痺を呈しており、随意運動が困難な例がほとんどを占めている。随意運動が困難な場合でも立位姿勢で下肢荷重することで筋活動が誘発され、また、介助下での歩行により十分に股関節の伸展屈曲運動を展開することでcentral pattern generatorsの賦活がなされると推察されている。

長下肢装具は十分な支持性を提供するため、早期から麻痺側下肢への荷重を可能とさせる。十分な荷重量を提供した上で、歩行する機会が増え、下肢の支持性が向上し、早期にFIMの数値を向上させたものと推察した。

KAFO群・非作製群の2群間において最終評価時に階段昇降で有意差がみられたのは、歩行同様、下肢筋活動の賦活のみならず、急性期よりKAFOを利用して積極的な立位・歩行そして階段昇降を訓練として取り入れる機会が増加し、階段昇降における運動学習機会の増加が動作習得に関与したものと推察した。本研究では上記の推察の検証は不可能であり、今後は急性期からKAFO作製が理学療法実施内容に及ぼす影響についてより詳細に調査していきたい。

6.まとめ

急性期病院からKAFOを作製した脳卒中片麻痺者と、作製せずに転院した脳卒中片麻痺者の歩行及び階段昇降の自立度を経時的に比較した。

KAFO群は、非作製群と比べ、早期に歩行及び階段昇降の自立度が改善した。また、階段昇降においては最終的な自立度においてもKAFO群の方が明らかに高かった。急性期から回復期において積極的にKAFOを活用することは、脳卒中患者の歩行および階段昇降の自立度を早期に改善させる効果が期待できるものと思われる。

現行の医療保険制度では回復期病棟での入院期間が限られている。従って、急性期から回復期への地域での連携した装具療法は歩行獲得に向けての有効な方法のひとつと考えられる。

7.参考文献

1) 篠原幸人,他(編):脳卒中治療ガイドライン2009,協和企画,2009
2) Nakamura R et al.: Relationship of muscle strength for knee extension to walking capacity in patients with spastic hemiparesis.
Tohoku J Exp Med. 145(3):335-40,1985.
3) Bohannon RW: Muscle strength and muscle training after stroke. J Rehabil Med. 39(1),14-20,2007.

 

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