検索

Close

検索したいキーワードを入力してサイト内検索をする

パシフィックニュース

維持期の脳卒中片麻痺を支援できる補装具の選び方4

装具

リハビリテーション

維持期の脳卒中片麻痺を支援できる補装具の選び方4

2010-04-01

表題に与えられたテーマを見た場合、下肢装具が最もイメージしやすい補装具の一つと思われる。しかしこのほかの補装具となると、脳卒中片麻痺維持期という限定された条件であるにも拘わらず、適応となる補装具についての明確なイメージを持ちにくいかもしれない。これはおそらくは補装具適応を見る際の視点が複数にわたるためと考えられる。
主にADLから適応を見てみた場合には、「脳卒中片麻痺維持期の補装具」には次のような内容が考えられる。

(1)機能的肢位保持のための補装具
(2)セルフケア動作を支援できる補装具
(3)座位を支援できる補装具
(4)移乗を支援できる補装具
(5)体重支持・移動を支援できる補装具
(6)コミュニケーションを支援できる補装具


そしてここから適用となる補装具を絞り込んでいくとなると、これらのADL評価に加えて心身機能や生活活動、また社会参加の内容を含めて考慮することが必要となる。適用を考慮する際にはこのあたりの情報が詳しく得られないと、補装具選択までたどり着きにくいのは事実である。

当センターでは身体障がい者更生相談所業務を行っているが、今回当センターにおいて脳卒中片麻痺維持期に処方された補装具の内訳を調べてみた。当センターあて過去1年間に補装具費支給判定依頼のあったケースのうち、直接判定依頼を寄せられたケースから脳卒中者をピックアップして、その処方内容の内訳を調べてみた。

過去1年間センターに直接判定依頼を寄せられたケースは全体で375件、このうち原疾患が脳卒中であるものは58件であった。その処方内容内訳を示すと図1、2の通りとなる。

図1

図2

の申請はなかった。
この結果だけを見ると、短下肢装具使用により歩行等できる者は短下肢装具を使って移動を行っているが、短下肢装具では歩行等が実用的でない者は(長下肢装具を使用するよりも)シーティングデバイスの方を用いて移動を実現させている傾向のあることが推測される。
片麻痺者の下肢装具処方で短下肢装具が大勢を占めるという内訳は、兵庫県リハビリテーションセンター1の報告と変わらない。着脱の手間等の比較的少ないことが、短下肢装具の偏った装具使用の理由になっている場合もあるといわれており1、長下肢装具が敬遠される理由には機能の補完には直接結びつかない他の理由も考えられる。仮に長下肢装具使用の制約につながると考えられる要因を類推してみると、およそ次の6つが考えられる。

(1)長下肢装具の大きさ・重さ・フィッティングの煩わしさ
(2)社会生活の場における着脱や使用の制約
(3)健側肢機能の低下
(4)認知機能の低下
(5)上肢や体幹機能の低下
(6)その他

実際の処方に際してはこれらの要因のほかに種々の点も考慮されているであろうが、このうち認知機能については、次のような結果が出ている。

当センターでは直接判定例については機能的自立度評価法(FIM)によるADL評価を行っているが、今回の下肢装具25件についてのFIM評点を集約した。認知機能評点の平均値と、これらから全国での片麻痺下肢装具処方者における認知評点を95%信頼区間で推測したものを図3に示す。

これによれば、下肢装具を使用している者は、概ね認知面での介助が不要な状態であることがわかる。処方を考える立場からすれば、脳卒中維持期で移動の支援に下肢装具が有用であると見られる場合、身体機能への適合のほかに認知面で一定のレベルにあるかどうかをチェックすることも、実際的な適用を考える際の要点の一つになるものと考えられる。

調査では脳卒中者には、下肢装具のほかに、車いす、電動車いす、座位保持装置、意思伝達装置についても、図1、2に示すようにそれぞれ一定数が処方されている。これらも短下肢装具や長下肢装具の適用と同じように、機能障害のみに偏らず生活活動や社会参加の内容を考慮する処方としなければ、必ずしも実用性のあるものにならないものもあると考えられる。

個々の種目の検討は割愛するが「維持期の脳卒中片麻痺を支援できる補装具の選び方」では、補装具申請者のニーズに沿いながらも、心身機能・生活活動・社会参加から適切と判断される補装具適用を選択する、という多方面からの評価に基づいた判断を基本におかねばならないと考えられる。

図3

文献

1.加倉井周一、初山泰弘、渡辺英夫:装具治療マニュアル 第2版 医歯薬出版株式会社 pp58-59,1995