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パシフィックニュース

人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助 連載3

リフト・移乗用具

人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助 連載3

人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助3

森ノ宮医療大学 上田喜敏 博士(工学)

2015-06-15

2015年7月25日(土)~26日(日)SPH・J(Safe Patient Handling・Japan)カンファレンス2015 ~安全な患者/利用者介助を考える会~(主催:関西シルバーサービス協会、日本福祉用具・生活支援用具協会JASPAリフト関連企業連絡会)が開催されます。ケアに関る看護職・介護職の腰痛をなくすための成功事例やエビデンスが集結されることでしょう。そのカンファレンス第1日目の基調講演に上田喜敏先生が登壇されます。今回パシフィックニュース連載3回目。ますます安全な介助の必要性を感じました。

5.生体に及ぼす重さ

介護士・看護師が、日常業務で患者/利用者を介助するときに以下の手作業(徒手的介助)を実施しています。

押したり、引いたり
持ち上げでの重い負荷
水平および垂直の持ち上げ
長時間の少ない負荷での持ち上げ
ねじれたり、前かがみになって、手を伸ばす
長時間の立位
危険な姿勢
繰り返し動作など

これは、介護提供者(介護士・看護師など)の身体にとても目に見えない負担が生じています。外部力作用に対する内部力作用です(図-5)。それは介護提供者の脊柱の筋肉であり、椎間板に影響を与えています。

図-5外部力作用と内部力作用

椎間板への影響

上田の研究では、重さ10kg荷物をベッドの高さを膝の高さで作業する時と腰の高さで作業する時で脊柱起立筋の筋活動としては、腰の高さで作業をすると30%も筋活動が減少します(図-6)。

逆に膝の高さで作業をすると約10%の酸素消費が多く必要になります。内部力作用として介護提供者の筋肉への負担がかかり、よりエネルギーを消費していることになります。

また、世界的な人間工学研究者やバイオメカニクス研究者たちは椎間板への影響について以下の報告を行っています。

一般の作業者が、手での持ち上げ作業をしていてそれ以上の圧力がかかると腰痛の損傷が置きやすくなる椎間板許容限界値として、圧縮力が3,400N(ニュートン)せん断力(水平、前方、後方)が1,000Nとされています(図-7)。

圧縮力とは椎間板に垂直にかかる力です。せん断力は椎間板に捻ったり曲げたりした時にかかる力です。1 kgfの重量では、9.8 Nとなります。

図-6 ベッド高さの違い

図-7椎間板にかかる圧力

椎間板に対する圧縮力

例えば、首都大学東京の瀬尾先生によるL5とS1間の圧力を推計値では、1m75cmで70kgの作業者が、20kgfの重量物を持ち上げると重量物と自重、さらに腹圧や横隔膜面積・脊柱起立筋等の要素を基に椎間板圧力推定値としては3,443Nとなったそうです。

この結果は、20kgf以上の持ち上げを繰り返すと椎間板に対する圧縮力が、作業者の腰の損傷を起こしやすくしている原因になります。

その他、ISOの人間工学技術委員会(TC159)が手で扱う1回あたりの持ち上げを質量3~25kg以下と報告し、人の手による持ち上げの重さ制限を各国で実施しています。

例えば介護・看護以外の産業では、ヨーロッパでは25kgが制限です。アメリカでは、50ポンド(約23kg)です。一番見かけるのは航空機の荷物(バゲージ)の制限です。ヨーロッパ便は25kg、アメリカ便は23kgを超えると料金が高くなります。

TR報告書の中でも「TC159(2参照)に基づいて他の産業が業務改善が実施されているがヘルスケア部門が改善されていない」と報告されていました。

人の手で持ち上げる重さの目安

一応世界中の産業界で人の手で持ち上げる重さの目安は、20~25kgが限度ということになるのでしょうか?

日本の労働災害判定基準の非特異的腰痛に、労働者が持ち上げる重量として20kg以上の持ち上げが入っています。


患者/利用者の方々の体重は何kgでしょうか?
いま現役の世代の方々の体重はいくらでしょうか?

ある講習会場で聞いたことですが、ショートステイで体重が100kgの利用者の方が来られ、ショートステイ担当職員全員が腰痛になったといった話を聞きました。65歳以上の男性高齢者の体重が約60kgと言われています。

もしそのような患者/利用者の方々を持ち上げるとき1日に何回介助するでしょうか?
回数も問題になってきます。

リフト講習会

著者紹介

上田喜敏(うえだひさとし) 
理学療法士。1991から箕面市(障害者福祉センター、障害福祉課、総合保健福祉センター、市立病院、訪問リハビリテーション事業所)にて勤務し、病院リハ、子どものリハや福祉用具、住宅改修、介護保険などを担当した。2007から現職。博士(工学)。患者介助人間工学国際委員会メンバー(International Panel of Patient Handling Ergonomics(IPPHE))

研究領域
人間工学、福祉用具研究、安全な患者介助(Safe Patient Handling = SPH)
研究実績・報告・著書
◎最適なベッド高さにおける介助作業効率についての生理学的研究
(フランスベッドメディカルホームケア研究助成財団 2008)
◎介助作業実態分析から考えられるベッドでの安全な患者/利用者介助に関する人間工学的手法の研究
(徳島大学大学院 2012)
◎リフトリーダー養成研修テキスト
(共著:テクノエイド協会 2009)
◎腰を痛めない介護・看護
(共著:テクノエイド協会 2011)
◎介助作業中の腰痛調査とベッド介助負担評価
(福祉のまちづくり研究 2012)
ArjoHuntleigh Guidebook for Architects and Plannersの評論者メンバー

上田喜敏先生

SPH ・Jカンファレンス2015 参加者募集のお知らせ《関シルHPより》

SPH ・Jカンファレンス2015 参加者募集のお知らせ

関西シルバーサービス協会では、ケアに携わる看護職・介護職等の方々の腰痛をなくすため、組織
的な問題解決の取り組み、施設等での成功事例や今後の課題など、提示や提案を行える場として
「SPH ・Jカンファレンス2015 ~安全な患者/利用者介助を考える会~」を開催いたします。
施設や病院などの介護・看護に携わる幅広い職種の方々の参加をお待ちしております。

「SPH ・Jカンファレンス2015 ~安全な患者/利用者介助を考える会~」
2015年7月25日(土)・26日(日) 於:森ノ宮医療大学

関西シルバーサービスHPより http://kansil.jp/

SPHJ2015 参加申込書・表

SPHJ2015 参加申込書・裏

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