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人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助 連載4

リフト・移乗用具

人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助 連載4

人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助 連載4

人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助4 

森ノ宮医療大学教授 上田喜敏 博士(工学)

2015-09-01

7月SPH・J(Safe Patient Handling・Japan)カンファレンス2015 ~安全な患者/利用者介助を考える会~(主催:関西シルバーサービス協会、日本福祉用具・生活支援用具協会JASPAリフト関連企業連絡会)が開催されました。第1日目の基調講演は執筆者である上田喜敏先生。職種を超えた、介護・看護に携わる方々の集う、熱いカンファレンスとなりました。

生体に及ぼす重さ2

許容限界値として圧縮力3,400N、せん断力1,000Nと報告されており、重いものを持ち上げたり、不自然な姿勢を繰り返すと、生体に及ぼす内部力作用として、椎骨と椎間板の間の椎体終板の微小骨折や損傷を起こし、瘢痕組織ができます。

そしてそこから栄養素拡散の劣化が始まります。それによって椎間板の劣化が生じ、損傷/持久力低下と作業能力の低下を来たします。

椎間板には、血管がなく栄養分を補給するためには椎骨から、栄養素を補給しています。この補給する方法を栄養素拡散といいます(図-8)。もしも瘢痕組織が椎体終盤に起こると、上手く栄養素が流れてくれなくなります。これを拡散遮断といいます(図-9)。これにより椎間板はみずみずしさを失い、やせ細って、神経にあたりだします。これにより痛みが出現し、下肢の麻痺まで起こる危険が生じます。 
               
長年椎間板を損傷すると、この拡散遮断が進行し、中年、高齢期に身長が縮まり、痛みを発生する原因になっています。

特に長年介護・看護で働いて、この損傷の為に身長が縮まり、老化として処理される危険もあります。また、女性で閉経後に一気に拡散遮断している状態が悪化し、身長が縮まるだけでなく痛みを伴うことがあります。
整形外科の手術で昔大工さんだった方が、中年以降に腰の手術をする方が多いのも若い時に重たいものを持って椎間板を痛めたことが原因だと思われます。介護・看護の方々もくれぐれも、椎間板を保護する必要があります。
次に、介護作業中の椎間にかかる圧力を測定した報告があります。2014年にアメリカの「安全な患者介助と移動カンファレンス」に筆者が、参加した時にオハイオ大学のMarras先生が、介護者がトランスファーしたときの椎間板測定を報告していました。

一人の介助でハグと言う徒手的介助を実施した時にした時に6,400Nに達したとのことです。安全な限界値である3,400Nを超えている状態でした。
2人介助で介助を行ってトランスファーしても4,500N以上になると報告していました。徒手的介助に安全なことはないようです。

彼は講演のスライドの中で「患者の徒手的持ち上げに安全な方法はない(No Safe Way to Manually Lift Patients)」と言っていました。もちろん私も同感です。

図-8 栄養素拡散

図-9 拡散遮断

ボディメカニクスのうそ

人を介助する時に、介護・看護の現場で教えられる技術としてボディメカニクスと言う技術を教えられます。
徒手的介助として教えられているボディメカニクスについて以下のようにNelsonらは、述べています。

ボディメカニクスを用いての利用者/患者介助について、科学的根拠が無く身体的負担を軽減できないと述べている(Safe Patient Handling and Movement:安全な患者介助と移動よりP28)。

その中でアメリカ労働者が「膝を曲げて背中をまっすぐ伸ばす」持ち上げ方法は、患者を持ち上げる際に上手く働かない。患者がベッドから持ち上げられる際、それを行う者は不安定な体勢と過度の前かがみが必要となる。

同時に看護師が膝を曲げるのをベッドが邪魔をする。患者持ち上げを困難化させる他の要因には、患者の身体の大きさや体重、患者の転落やバランスの問題、ベッドの高さ、患者の自立心や援助を不要と思う気持ちの大きさが挙げられる。

加えて、身体的に依存している患者の持ち上げや移動のうち大部分(90%)は、男性に比べて上半身の力が劣る女性スタッフによって行われている。(Lloyd,2004; US Department of Labor, 2004 P8)

また、Nelsonらは、ボディメカニクスと持ち上げ技術の授業が業務上の損傷を予防する上で役立つと広く認知されてはいるが、過去35年間の研究では介護提供者自身による努力では、他の産業と同じように介護業務におけるケガを予防しきれないことが明らかにされていると述べている。

さらに、持ち上げに関わる生体力学的負荷(作業を行う際に身体に強いられる力)は、最初に腰部に影響し、身体の他の箇所、特に膝と肩は重い負荷を繰り返す結果として危弱になり損傷を起こすことがある(Gagnon, Chehade, Kemp, & Lortie, 1987 P29) 。

看護師が背筋を伸ばして膝を曲げて荷物を持ち上げることを教わる際、大抵バランスは考慮されない。負担の大きい患者介助業務は持ち上げだけでなく、介護技術はもっぱらこの業務に注目してきた(Owen & Garg, 1990 P29)(図-10)。
と述べています。

 更にISOの技術報告書TR12296「人間工学ヘルスケア部門の人による徒手的介助」(Ergonomics- Manual handling of people in the healthcare sector)の中で「介助者を正しいボディメカニクスだけを使用するためにトレーニングをすることは、研究によって身体に激しい負荷・負担を引き下げることは証明されませんでした」((Nelson & Baptiste 2004; Amick et al. 2006; Bos et al. 2006, Martimo et al. 2008. P71)と報告しています。

言い回しは緩やかな言い方ですが、ボディメカにクス技術では、患者/利用者介助腰痛を防ぐことができないと述べています。

アメリカ看護協会のパンフレットから

ボディメカニクス技術で腰痛予防はできない

今まで、介護・看護の方々が、「あなたのボディメカニクス技術がまずいから、腰痛になるのよ」と言われたことはないでしょうか。

残念ながら、ボディメカニクス技術で患者/利用者介助中の腰痛は予防できないにもかかわらず、皆さんのせいにされていないでしょうか?

勿論エビデンスからボディメカニクスについては物を持ったりする場合には有効な手段と考えられますが、患者/利用者介助には有効な手段ではないようです。

スライディングシートやスライディングボードを操作するときや物を持ち上げる場合などは、ボディメカニクス技術を応用した姿勢を保つことは有効です。但し、患者/利用者を介助する技術では腰痛を防ぐことができないということです。

著者紹介

上田喜敏(うえだひさとし) 
理学療法士。1991から箕面市(障害者福祉センター、障害福祉課、総合保健福祉センター、市立病院、訪問リハビリテーション事業所)にて勤務し、病院リハ、子どものリハや福祉用具、住宅改修、介護保険などを担当した。2007から現職。博士(工学)。患者介助人間工学国際委員会メンバー(International Panel of Patient Handling Ergonomics(IPPHE))

研究領域
人間工学、福祉用具研究、安全な患者介助(Safe Patient Handling = SPH)
研究実績・報告・著書
◎最適なベッド高さにおける介助作業効率についての生理学的研究
(フランスベッドメディカルホームケア研究助成財団 2008)
◎介助作業実態分析から考えられるベッドでの安全な患者/利用者介助に関する人間工学的手法の研究
(徳島大学大学院 2012)
◎リフトリーダー養成研修テキスト
(共著:テクノエイド協会 2009)
◎腰を痛めない介護・看護
(共著:テクノエイド協会 2011)
◎介助作業中の腰痛調査とベッド介助負担評価
(福祉のまちづくり研究 2012)
ArjoHuntleigh Guidebook for Architects and Plannersの評論者メンバー
 

上田喜敏氏

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