パシフィックニュース
人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助 連載5
リフト・移乗用具
連載 人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助
~日本の職場における腰痛対策指針~
森ノ宮医療大学 上田喜敏(博士工学)
2015-12-15
パシフィックニュースでは多くの医療・介護従事者に腰痛予防に対する取組み事例を執筆いただき『日本の介護現場から腰痛をなくしたい!』想いを掲載してまいりました。 今回は、日本の「職場における腰痛予防対策指針」を中心に森ノ宮医療大学教授 上田喜敏先生の連載5は綴られています。
さて私たちの職場はいかがでしょう。
日本の職場における腰痛対策指針
平成25年(2013年)6月に「職場における腰痛予防対策指針」が、19年ぶりに改定されたのをご存知ですか。
以前の指針では、抽象的表現で腰痛に対する具体的な対策が明記されていませんでしたが。今回の指針では、対策についても書かれています。
目的:「平成23年に休業4日以上の休業を要する腰痛は職業性疾病の6割を占め4,822件発生した。この内業種別で社会福祉施設が約19%を占めている。今回介護・看護業務に関する腰部に負担の少ない介護方法など、その後得られた腰痛予防の知見を踏まえて改訂された。」となっています。
そして、福祉・医療等における介護・看護作業を対象として明記されています。よって対象施設は、以下のようになります。
高齢者介護施設(特養・老健)
障害児者施設(療護)
保育所等の社会福祉施設(保育所)
医療機関(病院・療養病床など)
訪問介護・看護
特別支援学校
での、介護・看護作業となります。特養や老健だけでなく病院や障害者施設も対象です。
腰痛発生の要因
腰痛発生の要因を
「介護・看護等の対象となる人の要因」(対象者の介助の程度)
「労働者の要因」(腰痛の有無や筋力などの個人的要因)
「福祉用具の状況」(必要な機能と数量)
「作業姿勢・動作の要因」(抱え上げ、不良姿勢、頻度、時間)
「作業環境の要因」(作業空間や高さ、段差など)
「組織体制」(作業人数や交代勤務の回数)
「心理・社会的要因」(腰痛を感じながらの勤務によるストレス)
としています。
リスク評価の仕方
リスク評価の仕方として
・リスクアセスメント(介護作業者の腰痛予防対策チェックリスト)
・労働安全衛生マネジメントシステム(PDCAサイクル)
をすることとしています。
低減処置の検討及び実施(対策方法)
低減処置の検討及び実施(対策方法)として
・対象者の残存機能の活用:
自立歩行・立位保持・座位保持などの残存機能と介助への協力度等を踏まえた介護・看護方法を選択(利用者評価)
・福祉用具の利用:
肘置きが取り外しできる車いすなどの各事業場で必要な台数や必要な機能の福祉用具の配備すること(福祉用具の積極使用)
・作業姿勢・動作の見直し:
人力による抱え上げを原則しない。リフト・スライディングシート・スタンディングマシーンの利用。不自然な姿勢(前屈・中腰・ひねり、反り等)と不安定な姿勢、頻度・時間的長さを考慮する。
・作業実施体制:
福祉用具導入が困難な場合、身長差のない2名以上で抱え上げをすること一部の職員に負担の大きい作業を集中させない(組織による人員配置の再編や作業環境の見直し)
・作業標準の作成:
対象者ごとの作業手順、利用する福祉用具、人数、 役割分担。介護サービス計画(ケアプラン)に書き込むことも可
・休憩、作業の組み合わせ:
・作業環境の整備:
・健康管理:
となっています。
まとめ
まとめると
「福祉・医療等における介護・看護作業では、リフト等を積極的に使用し、原則として人力による人の抱え上げは行わないこととなります(上げなくてはならない場合、身長差の少ない2人以上で作業しなさい)。
そして、リフトやスライディングボードやスタンディングマシーン等の使用を検討し、対象者に適した方法で移乗介助を行いなさい(利用者評価)。ベッドの高さ調整、スライディングシート等の活用により、前屈やひねり等の姿勢は取らないようにしなさい。特に ベッドサイドの介護・看護作業では、労働者が立位で前屈にならない高さまで電動ベッドを調整して、作業をしなさい。
対象者の状態、福祉用具の状況、作業人数及び時間等を考慮して、介助作業ごとに作業標準を策定し、定期的又は対象者の状態が変わるたびに見直しなさい。」となります。
介護老人福祉施設(特養)だけでなく、もちろん病院も入っています。介護・医療の現場でこの指針がどのように実行されているでしょうか?(写真1・2)
「職場における腰痛対策指針」の概要ですが、人力による持ち上げをどのように変えていくか考えてみてください。
写真1 モーリフトクイックレイザー(パシフィックサプライ社)
写真2 モーリフトクイックレイザー(パシフィックサプライ社)
著者紹介
上田喜敏(うえだひさとし)
理学療法士。1991から箕面市(障害者福祉センター、障害福祉課、総合保健福祉センター、市立病院、訪問リハビリテーション事業所)にて勤務し、病院リハ、子どものリハや福祉用具、住宅改修、介護保険などを担当した。2007から現職。博士(工学)。患者介助人間工学国際委員会メンバー(International Panel of Patient Handling Ergonomics(IPPHE))
研究領域
人間工学、福祉用具研究、安全な患者介助(Safe Patient Handling = SPH)
研究実績・報告・著書
◎最適なベッド高さにおける介助作業効率についての生理学的研究
(フランスベッドメディカルホームケア研究助成財団 2008)
◎介助作業実態分析から考えられるベッドでの安全な患者/利用者介助に関する人間工学的手法の研究
(徳島大学大学院 2012)
◎リフトリーダー養成研修テキスト
(共著:テクノエイド協会 2009)
◎腰を痛めない介護・看護
(共著:テクノエイド協会 2011)
◎介助作業中の腰痛調査とベッド介助負担評価
(福祉のまちづくり研究 2012)
ArjoHuntleigh Guidebook for Architects and Plannersの評論者メンバー
上田喜敏氏
関連情報
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