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連載1 Walk Your Way ~リオ・ニーとの出逢い~

義肢

連載1 Walk Your Way ~リオ・ニーとの出逢い~

身体は変化し続けるもの。弱い時期から、回復期、矯正、高活動まで変化し続ける私たちの「生きる」に寄り添い、身体の一部となり得る唯一の義足がリオ・ニーだと思う。(奥山楽良)

奥山 楽良(歯科医・義足ユーザー)

2016-03-15

リオ・ニー3のユーザーである奥山さま。6年前初めての切断から、数回にわたる手術、リハビリを繰り返す中でリオ・ニー3に出会いました。医療職である奥山さまならではのリハビリと義足で歩くことへの視点。「リオ・ニーは人生の選択肢を広げてくれる」と綴られたレポートを3回にわたりお届けいたします。 

義足で歩くということ

義足で歩くようになり約1年、足を切ってからは6年が経った。『義足』を体として認識する事が、こんなにエネルギーを必要とすることだとは、当初全く想像ができなかった。


6年前、「がんの再発予防」という観点から、体から不安材料を取り除く事が必須とされている状況では、手術を受ける以外他はなかった。「義足」という機械よりも、わずかでも「感覚のある自分の体」を残してそれを操る方が、高活動を望む私の生き方には合うと思い、残された体の一部を移植する「回転形成術」を選択した。

移植したこともあり、術後、持続する痛みは薬では抑えられず、眠れない日々が続いた。

 

「痛み」は義足歩行の開始時も強くあり、神経切断後の再吻合のため、足に触れてもどこを触れているのかはわからない。それにもかかわらず、わずかに触れるだけで「痛い!」と脳は感じる。通常では全く痛みにはならないはずのものまでがそういう感覚として伝わる。「痛み」を我慢すれば悪循環に陥るのもわかっていたが、方法はなかった。

そこから6年経つが、強弱はあれど痛みを感じない日は殆どないに等しい。
痛みを我慢した結果として、膝として機能する予定だった私の足は硬直し、萎縮し、残った右足よりもサイズが小さくなっていた。股関節は硬くなり、伸展方向の可動式制限が出た。

膝としての役目をするはすの自分の体が「義足の膝」の機能を超えることができなかった。再切断と痛みの原因となるものを体から除去する手術を受け、「歩ける」喜びを4年ぶりに味わった。

穂高連峰

リオ・ニーとの出会い

再切断後も、私の体は「股関節伸展方向の可動域」と手術により軽減したものの、痛みが残り通常の義足が生活で使用するレベルには達しなかった。普通より細かい階段を踏み、一歩ずつ前進しなければいけないリハビリも、リオ・ニーは練習する足場を作ってくれた。問題を多く抱える今の私を歩行可能にできるのは、リオ・ニーだからこそだと、様々な義足を試して認識は深まった。

私の状況は、股関節の伸展方向の可動域制限があり、膝軸に対して体は後ろ重心となり、義足で危険とされる膝折れが起きやすく、転倒して怪我をするリスクが高い。


1・股関節が屈曲拘縮した体を、無理に伸展させ、通常の義足にあわせたアライメント(膝折れを防ぐ安定した重心位置:膝軸よりも前方を荷重線が通る。)によって、圧が集中する断端の強い痛みを我慢しながら歩く。しかも、歩行中に、常に意識して股関節を伸展できれば良いが、痛みと萎縮した体では、股関節が伸びきれない場合も多く、結果として義足独特の膝を棒状に伸展させたところに体重をのせていくことができず、歩行中に突如、転倒が起きる。また、通常の義足を操るには、適度な筋力を要し、時間が経過する程、疲労もたまり、集中力も低下し、ますます伸展させづらい状況となり、これに外界の複雑な環境要因が加わり、転倒のリスクが高非常に高まる。短時間のリハビリでは可能なことも、持続が必要な日常生活では全く状況も結果も異なってしまう理由はここにある。

2・通常の義足では、膝折れの危険を分かりながらも、体の屈曲拘縮に優しいアライメント(静止立位の重心位置を膝軸のやや後方:膝軸よりも後方を荷重線が通る。)にして、代償とし筋力を使い上半身を無理に前傾させて、重心を膝軸の前方にし、立位から不自然な姿勢で膝折れを防ぐように歩き方を変える。歩行というよりは、前へ出した左足(義足)の位置に右足を添える程度の動きと言った方が近い。長時間は続けられない。腰にも他の身体部位にも負荷が大きい。そのままの長期使用は体に影響し、義足歩行可能な人生の時間を短縮させる要因になりえると感じる。1と2いずれにしても立ち姿勢から様々な筋力を必要とするため、歩く以上の活動のために残された力は減り、外界の環境に対応できる余力が少なく、活動範囲が狭まるのは確かである。私の場合は痛みも軽減できないため活動可能範囲は、さらに制限されてしまう。

3・リオ・ニーは、膝折れしにくく、膝がわずかに屈曲している状態(通常の義足では膝折れして転倒する。)でも立っていられる立位保持機能が高い。通常の義足では、突き上げる強い力が痛みを増し歩行できない状況であっても、リオ・ニーは膝が曲がったまま踏み込み、床からの力を膝で吸収させる歩き方で、歩行を可能にしてくれる。上半身の負担も少ない。膝の抵抗力を数値で調整する(リオロジック画面:実際の使用状況については連載2回目)と、床からの衝撃を小さくすこともできる。さらに体の動きに同調し変化する体にも微調整できるリオ・ニーには、通常の義足では歩けないとされてしまう人にも、歩ける可能性が高くなると実体験から期待できる。

1・通常の義足 荷重線が膝軸より前方を通る場合(奥山さま資料作成)

2・通常の義足 荷重線が膝軸より後方を通る場合

3・リオ・ニー3 痛みが強い場合

山が教えてくれる

義足歩行の場合に特に必要となるのは、筋力、体力でもなく、「感覚」だと思う。人間に本来備わっている「感覚」センサーは素晴らしいものがある。どんなに優れた機械でも人間の「感覚」には及ばない。補助はできるかもしれないが、結局はこれを鍛えて伸ばしていく以外に義足で歩くことはできない。この体になって、今までの生活と大きく違うところは、ここだと言える。日常生活において、常にそのセンサーを使い続けなければ普通に暮らすことは難しい。

義足で歩くには、体を義足の前方に出す「筋力」と「膝折れ」を自在に操るための「重心位置を変える感覚」が必須なのはどの義足も同じだと知った。

痛みと闘いながら義足で歩けるようになり、山まで登っている。次の目標は「都心に通勤する。」というと、大抵の人が首を傾げるが、外界という状況は、義足歩行のエネルギーを多く必要とする。特に都会の狭く、路面の段差の変化が激しく、人混みによって視覚が遮られる状況では、特に集中力を要し、バランスを欠きやすい。歩幅のコントロールが難しい義足ユーザーにとっては、人並みの歩行速度に合わせるには体の筋力が必要になる。
 

山は、路面状況が様々あり、都会ほどに短く大きく激しい変化ではなく、同じような状況がある程度長くあるのは、反復して体に覚えこますのにちょうど良い。私の場合は、まだ高活動の山登りではなくリハビリの延長に過ぎない。行程は通常の2~4倍をかけてゆっくり登る。痛みもあるので休憩をとり、義足をはずして、調整をしてその結果を検証するのを繰り返す。


「山が教えてくれる。」私にとって、山はこれ以上ない最良の練習場所だった。
山との付き合いはそういう位置づけだった。

 
リハビリのつもりで開始したはずの登山もいつの間にか、憧れの穂高へ行くことができ、穂高岳山荘から見た朝日は最高だった。長野は永住したいほど大好きな土地だ。山を歩き、疲れ果てた1日の終わりに丁寧に淹れた1杯の珈琲。きっと生涯忘れられない味になるだろう。
 

奥山楽良さま

穂高山荘から見た朝日movie (奥山さま撮影)

リハビリを支えるリオ・ニー

6年は私の体を変化させ、股関節伸展方向への可動域制限、痛みが残る左足、日内差のある体積変化も大きい。
 
医療の大きな役目は、体の本来もつ力を引き出す補助と、必要な時に軌道修正をし、最終目標は、問題が消えなくともそれを問題として意識せずに望む生活が送れるようにすることだと私は考えている。

人の「感覚」は素晴らしいが、失った状態を補おうとする体の代償行為も人間のもつ能力であり、それが時間経過によって良い悪いどちらの結果になるのかまでは考えて「感覚」は存在していないように自分の体を通して思う。一時的な問題解決は、本来の解決には繋がらず逆になることもある。義足歩行には「感覚」の必要性を強く言いたいが、その「感覚」の全てが正しいとも言いがたい。

長期の使用で蓄積する過負担が、体に新たな問題をうまないように、良い方へ、個人のもつ特性の許容する範囲を探しながら継続して診て、一生涯、義足現役でいられるように、義足のリハビリ開始から見据えた治療をしてくれていると実体験から思っている。リオニーはそれを可能にできると期待できる。

歩行専門の施設は全国でも少なく、環境も人手も不足しているが、歩行専門でなくとも、リオニーを試して、体を回復させることはできると実体験から期待している。
 

弱い人にこそ、弱い時期にこそ、試してもらいたい。


リオ・ニーが人生の方向を変えてしまうほどに深く関る存在になっている。
それを可能にしてくれたのが、私を支えてくれる熱い想いを持った人達の存在だった。 
 

私の苦しんだ6年の月日は「良いもの」と「人」とを繋いでくれた。
 

体は変化し続けるもの。
弱い時期から、回復期、矯正、高活動まで変化し続ける私たちの「生きる」に寄り添い、体の一部となり得る義足がリオ・ニーだと思う。 (次号に続く)

 

 

リオニー3 movie

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