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パシフィックニュース

人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助 連載8

リフト・移乗用具

人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助 連載8

国際人間工学連合(IEA)から

森ノ宮医療大学 上田喜敏 博士(工学)

2016-05-02

上田先生の連載も終盤に入りました。今回は、2015年8月、国際人間工学連合(IEA2015 in Melbourne)の大会に参加された時の紹介です。

国際人間工学連合(IEA)

2015年8月に国際人間工学連合(IEA2015 in Melbourne)の大会に参加してきました。この大会は、3年に1回開催されており、この中でHealthcare Ergonomics(介護職員の人間工学)のシンポジウムが、1日開催されました。


この中で、ISOの技術報告書TR12296「人間工学ヘルスケア部門の人による徒手的介助」(Ergonomics- Manual handling of people in the healthcare sector)で、中心的に発行に携わったヨーロッパ患者介助人間工学委員会(The European Panel of Patient Handling Ergonomics=EPPHE)メンバーで イギリスのLoughborough UniversityのProfessor Sue Hignett女史の講演がありました。彼女は、理学療法士で病院勤務などの臨床に携わった後、人間工学に基づいた研究に携わっている方です。

Professor Sue Hignett女史

No lifting policy

彼女は、2003年にエビデンスに基づいて770ほどの文献から、従来の様々な徒手的介助方法について推奨しないと結論を出した人です。


「エビデンスに基づいた患者介助」と言う彼女の研究報告書で、イギリスで一切持ち上げない(No lifting policy)が実施されたことで有名です。現在は35ポンドまでは持ち上げれる。


彼女の講演の中で巨大な象をモデルにしてヘルスケア部門の問題や挑戦の範囲をはっきりさせ、資本投資を明確にし、参加型の人間工学で包括的に計画する。その方法として身体的な要因と認識要因について考えることを提唱していました。

Professor Sue Hignett女史と著者

介助作業自体・環境・精神的に危険という認識を持つことが必要

解説するとヘルスケア部門での介助作業がとても危険(リスク)であり、問題やどこまでを改善するか範囲を決め、資本投資(設備投資)が必要になることを明らかにし、人間工学に基づいてヘルスケア部門の従業員全員が参加することを計画する。


その方法として介助者にとって身体的に危険だということと介助作業自体・環境・精神的に危険という認識を持つことが必要と提唱しました。世界中でヘルスケア部門の業務は危険であり、それを改善する必要について述べていました。ヘルスケア部門の作業は危険で、筋骨格損傷を多発している産業だということになります。

新たなISO規格への期待

人間工学分野は、範囲が広くあらゆる産業が入っています。ISO(国際標準化機構)には、技術委員会又は専門委員会(Technical Committee=TC)があります。


この中でTC159人間工学については以前に報告しています。TC159人間工学は、公的に認められる標準化団体が、明文化され、公開された手続きによって作成された公的標準(デジュール標準)です。これによって他の産業界では作業者の安全性を改善しているのです。


今回、国際人間工学連合(IEA2015 in Melbourne)の大会でヘルスケアの人間工学について大会中にわざわざシンポジウムが開催されたこと自体、意味があり、問題が大きいと考えます。

次回は2018年にイタリアのフィレンチェで開催されます。国際患者介助人間工学委員会(IPPHE)でまとめたものをISO委員から、新たなISO規格として出されるかもしれません。

ヘルスケア部門の懇親会風景

著者紹介

上田喜敏(うえだひさとし) 
理学療法士。1991から箕面市(障害者福祉センター、障害福祉課、総合保健福祉センター、市立病院、訪問リハビリテーション事業所)にて勤務し、病院リハ、子どものリハや福祉用具、住宅改修、介護保険などを担当した。2007から現職。博士(工学)。患者介助人間工学国際委員会メンバー(International Panel of Patient Handling Ergonomics(IPPHE))

研究領域
人間工学、福祉用具研究、安全な患者介助(Safe Patient Handling = SPH)
研究実績・報告・著書
◎最適なベッド高さにおける介助作業効率についての生理学的研究
(フランスベッドメディカルホームケア研究助成財団 2008)
◎介助作業実態分析から考えられるベッドでの安全な患者/利用者介助に関する人間工学的手法の研究
(徳島大学大学院 2012)
◎リフトリーダー養成研修テキスト
(共著:テクノエイド協会 2009)
◎腰を痛めない介護・看護
(共著:テクノエイド協会 2011)
◎介助作業中の腰痛調査とベッド介助負担評価
(福祉のまちづくり研究 2012)
ArjoHuntleigh Guidebook for Architects and Plannersの評論者メンバー上田喜敏(うえだひさとし)

上田喜敏先生

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