パシフィックニュース
連載2 Walk Your Way ~リオ・ニーで生きる意味~
義肢
私の失ったもの以上に得たもの、それは「未知(可能性)」を楽しむ心かもしれない(奥山 楽良)
奥山 楽良(歯科医・義足ユーザー)
2016-05-15
医療職である奥山さまならではのリハビリと義足で歩くことへの視点。【連載2】をお届けいたします。?メッセージは今の奥山さまの立脚地。そして明日への扉です。
体を「知る」
体を「知る」ように、機械(義足)を体と同様に「知る」ことも重要だと私は思う。
義足の経験値は浅いながらも、人よりも弱い足をもったが故に知り得た機械(義足)の特性について、個人的な感想を綴る気持ちになり、今回の掲載を引き受けた。次の誰かが少しでももっと生きやすく、自由に羽ばたけるようと切に願う。自身の理解不十分なところは認識しているつもりだが、今後に役に立つ多くの助言を頂きたく、率直に思うところを表出したい。
階段下り
義足の映像でよく目にするが、実際の生活で利用する頻度は少ない。
人が二足歩行をする時は、膝は軽く屈曲をしたまま体重をのせられる。歩行中、常に膝は曲がっていて、膝が伸びきる時間はない。それとは違い、義足歩行では、膝を伸ばした状態で地面につけ、棒状の金属の上に体重をのせていく。(体の下に杖があるのと同じである。)
金属の棒は膝にあたる中央部分で前後に折れる仕組みになっている。体重を支える役目が終わった後、棒を曲げながら前へふり出す。そのため、杖の上でバランスを保ち続け、意図的にそのバランスを崩して膝を折る「感覚」を、新たに体に覚えこませることが必要となる。膝を曲げるには、前後方向の体の重心位置と膝が曲がる位置を「感覚」で捉え、その位置関係を変えることで可能になる。体の重心が、膝より前にあると、膝を伸ばしたまま保てる。後ろにあると膝が曲がるという仕組みになっている。
これを操るには、膝を伸ばしたり曲げたりを自在に操るために「義足の膝と体の重心位置を、常に捉える感覚」を新たに獲得し、義足をふり出す量を「股関節の動き」でコントロールして『歩幅』と「速度」をつくり、重い金属をふり出し続ける「体力」が必要となる。
これらをうまく連動させるために、義足に慣れてからも体は常に意識しながら歩いている。実際には地面に、傾斜、うねり、凹凸があると、足の踏み方によって金属の棒が傾き、路面が変化する毎に、膝の位置と体の重心位置を「感覚」で捉える続けるのはとても難しいことだと知った。しかも二足歩行とは違う体の動かし方をするため、体への負担は大きく、「歩く」ためのエネルギーの消費が多いため、持続できる時間は短くなる。
そのため、普通の義足の歩行は、『中股』『大股』の歩きになりやすい。膝位置から体の重心位置を大きく離すような一歩で、意図せずに膝が折れ転倒する危険を回避する。転がるような勢いにまかせた速い歩きになる。体を大きく動かすため「体力」は必要になるが、難しい膝の曲げ伸ばし「感覚」、「股関節の動き」による歩幅のコントロールは大胆に歩くと、それ程必要ではなくなり歩行が容易になる。環境にあわせた歩行ではなく、体が自然に楽に歩けるように義足に合わせた歩行方法を選んだ結果である。
勢いにのった体の動かし方では、「股関節の動き」による歩幅調整ができず速度の変化をつくれないため、歩行をピタッと止まることや、方向転換が苦手な動きになる。多くの義足使用者がこの動かし方を自然に選ぶという結果は、それがその義足の持つ性能であるともいえる。
「階段下り」は、小さい範囲の体のコントロールが必要になるため、義足歩行では難しいとされている。体の重心位置を膝より後方へ移動させ、意図的に「膝折れ」をさせる。普通の義足で階段を交互に降りるには、「股関節の動き」で『歩幅』を小さくさせ段にのせる。
通常の歩行で「中股」「大股」になりやすい義足では、体を大きく前に出す歩行に慣れているため、意識して体の動きを変える必要がある。しかも、同じ条件の段差はないため、感覚のない膝をふり出して足底を意図する場所へ着地できるような反復練習を繰り返さないとできない。膝が曲がり体が落ちる一瞬のうちに自分の脚を出すため、次の段に備えた動きやすい重心位置に、体を移動させる時間はとても少ない。義足の足の着地位置を間違えると、次へ続かなくなる。うまくいかないとそのまま落下することもあり、それをリカバリーするのは難しく、高い集中力と緊張感の中での「階段下り」となる。
義足使用者と多く出会ったが、それが可能なのは鍛えているわずかな人だけだという現状を知った。棒状に伸ばした義足を先行させて下の段におき、同じ段に自分の脚をおき一段ずつ両足を揃えるのが一般的な下り方である。
階段は、平坦で安定した路面ともいえる。日常には段の傾斜、道のうねり等、無数の路面変化があり、それに敏感に対応するのはさらに難しいと私は思っている。
日常では、「小股」「ゆっくり歩く」「方向転換」など小さい範囲のコントロールが必要となるが、その動きは難しい。普通の義足で『小股』に歩くには、機械の性能ではなく、体の努力が必要な範囲になる。
新たな「感覚」の獲得、「股関節の動き」の調整は、環境の整ったリハビリではなく、日常生活で体に繰り返し覚えさせることになる。体の動かし方によっては、体の代償行為が大きくなり、過度な負担が体にかかり、長期の義足使用による二次的な問題が起こる可能性もある。まして体に「感覚低下」、「筋力・体力の低下」、「股関節の可動域制限」などの問題を抱えている場合には、義足歩行はより難しさが増すため、程度によっては、日常生活での義足使用をあきらめてしまうことも想像できる。
リオ・ニーが、体のコントロールを優しくして、通常の義足が苦手とする『小股』『ゆっくり歩く』ことを可能にして、問題を抱えた体でも義足歩行ができる利点はとても大きいと実感している。
1・通常の義足 荷重線が膝軸より前方を通る場合(奥山さま資料作成)
2・通常の義足 荷重線が膝軸より後方を通る場合
3・リオ・ニー3 痛みが強い場合
高機能義足の現状
高機能義足を含めたどの義足でも現状では、「感覚」「股関節の動き」「体力」を使って歩くのは同じである。膝が前後に折れる基本構造は同じである。大きく違うのは、高機能義足は、膝が曲がる時に抵抗力をつけられ、その大きさを調整できることにある。
膝が曲がるイメージは、通常の義足だとポキッと瞬間的に曲がるのに対して、高機能義足にはイールディング機能がついているためグニャーと曲がる。短時間ではあるが、曲がる瞬間の時間に余裕があり、その間に次の動きのための体の重心位置を移動させる準備がしやすくなる。安定した足場がつくれるため、連続した動きに繋がりやすい。さらに、リオ・ニーは『歩幅』を小さくできるため、「股関節の動き」で足底を着地させる位置をコントロールする意識も少ない。体に過度な負担も少ない動きで「体力」を温存できるため、歩行持続時間を延ばすことができる。
ただし、高機能義足でも、膝を意図的に曲げる「感覚」が必要となるのは普通の義足と同じである。階段を下りるには、普通の義足ほどではないが、リオ・ニーでも集中力を要する。人混みの中でトンと触れられればバランスを崩しやすいのは高機能義足も同じであり、外界の環境によっては、私は手すりをつかんで交互に下りている。
通常の義足で一歩ずつ段差を降りるよりはやや速い程度であり、それも20段程度の段差では義足の種類によるによる速度の差も大きくないと思っている。しかも高機能義足(私の知る限りパワーニー以外)といえども、筋力を補うようなパワーは出ないため、階段を上がる時は、普通の義足と同じように、自分の脚を先行させて義足の足を同じ段に持ち上げる。
実際の生活では「階段」を使用する頻度は少ない。義足開発でも「階段歩行」にどのくらいエネルギーがそそがれているかはわからないが、もっと生活で頻度の高い「ゆるい傾斜」など、義足ユーザーの苦手とする路面への対策に力を入れてもらいたいと個人的には強く願ってしまう。
義足ユーザーの必要性と義足機能の開発の方向性が大きく乖離し、誰でもが手に入らないような価格の市場になってしまっていると思わざるを得ない。義足ユーザーの必要とする最小限で手に入るものが普及されていく方向性のある開発をお願いしたい。こういう点でも、義足の種類が様々あるように見えて実際の選択肢はあまりないのが現状だと感じている。
クライミング動画(奥山さま)
リオ・ニー「小股」で歩ける利点
普通の義足を試し、一段ずつ両足を揃えて階段を下りていた私も、リオ・ニーでは、義足歩行を始めた早い段階で、手すりをつかまなくても交互に階段を下りることができた。
『小股』で『ゆっくり歩く』ことのできるリオ・ニーの調整機能の効果である。高機能義足の中でも、リオ・ニーは『小股』で歩く機能に優れている。
『小股』歩きによって、重心移動量は小さくできるため、上半身への負担が少なく過度な「体力」を必要とせずとも歩行できる。バランスを崩しにくく「重心位置の感覚」も捉えやすい。歩幅を「股関節の動き」でコントロールする意識は少なくてすむ。外界の状況に反応できる体の余力ができる。この機能は、体に制限のある人の通常の「歩行」を補助することに役立つと思う。
私の体の変化にも対応してくれている。
通常の義足では、突き上げる強い力が痛みを増し歩行できない状況であっても、リオ・ニーは膝が曲がったまま踏み込みができ、床からの力を膝で吸収させる歩き方で、私の歩行を可能にしてくれる。上半身の負担も少ない。膝の抵抗力を数値で調整する(リオロジック画面:セットアップソフトウェア右参照)で、床からの衝撃を小さくできる。
リオ・ニーは、「感覚の低下」「筋力・体力の低下」「股関節の可動制限」がある人の機能を補助し、体への負荷を小さくすることで、余力を歩行に必要な努力へと集中させやすいため、普通の義足では歩行練習自体が難しい人のリハビリ練習の足場になれる可能性が、他の義足よりも高いと体験から思っている。
まずは義足を履いて、義足歩行のための新たな「感覚」を養うのが、体力、筋力より優先されるべきだと私は思っている。体が義足を許容してきたら、他の義足を試したら良いと思う。
リオロジック(セットアップソフトウェア)
リオロジック調整画面
弱い時期にこそ試してもらいたい
どこまでが体が努力できる範囲なのか? どこから機械の機能に頼らざるを得ないのか?義足を操る「感覚」「股関節の動き」「体力」を連動させた体の動きが、歩行としてあらわれる。問題が重複する場合、どこに問題があるのかを探すのは難しい。
体の機能の問題が、義足歩行でどのような運動制限になるのかを知るには、環境の整った室内での練習が多いリハビリではその時間はとても少ない。リオ・ニーの機能で大きな利点と思うのは、問題であろうと思われる体の機能だけをターゲットに調整を行い、問題を絞り込み、段階を踏んだ解決を図れることにある。
初期の「補助」する段階から始めて、調整により「回復」「強化」を促せば、通常の義足での歩行ができる段階へと進める可能性が高まる。成長期の子供、体に制限のある人(歩行に関わる「感覚低下」「股関節の可動域制限」「体力低下」など)、病気等により回復可能であるが一時的に機能が低下した義足ユーザー等に、リオ・ニーの機能は効果があると思われる。
義足を使用することになる背景には、様々な病気があり、義足歩行が可能となった後も、長い義足人生の中ではその病により義足を使用できなくなることもある。一時的で回復できるものでも、体を動かせずにいる期間があると、体は硬くなり運動に制限が出てくることがある。義足ユーザーにとっては大きい問題であり、生涯、義足を履き続けられるかにかかわる。
医療保険制度で、義足の試用(貸与制度)が補助を受けられるようになれば、日常の活動にあうより良い義足の選択と、義足の機能にあった体の動かし方を知る道が拓かれ、全ての義足ユーザーにとって、安心して日常生活・活動を続け、生涯とおして義足の使用を目指すことに繋がると、大きく期待している。
初期、または回復可能な一時的な機能低下後のリハビリの際に、リオ・ニーの機能が、体の機能評価・機能回復・適した義足選択へと導く役目を果たせるのではないだろうか?
弱い人にこそ、弱い時期にこそ、試してもらいたい。
「歩けない」とあきらめている人の中に、「リオニーなら歩ける」人が全国に潜在的にいると思う。リオニーが、不足する体の機能を補ってくれるため、必要なところへの努力へと集中することができる。リオニーで力がついてくれば、他の義足の選択ができるところまで回復できる可能性もある。どの義足でも、その時期の体に合っているものが一番良い。
医療の目指すところは、長期の使用で蓄積する過負担が、体に新たな問題を生まないようにすること。そして一生涯、義足現役でいられるようにと願う。
リオニーで「生きる」意味を考えるのが、とても良い時間だと、今実感している。
人生の方向を変えてしまえる程にリオは深くかかわってくる存在になっているから。
リオニー3 movie
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