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パシフィックニュース

退院後の装具に必要なこと

装具

リハビリテーション

退院後の装具に必要なこと

~装具による多職種の繋がりを目指して~

遠藤 正英(桜十字福岡病院リハビリテーション部・理学療法士)

2019-11-03

はじめに

 脳血管疾患による死亡率は年々低下しており(表1)、発症後にリハビリテーションを必要とする患者が多く存在する。また脳血管疾患は退院後の生活において介護保険を必要とする原因でも多数を占めている(表2)。


表1. 主な死因別にみた死亡率(人口10万対)の年次推移(文献1より引用)


表2. 65歳以上の要介護者等の性別にみた介護が必要となった主な原因(文献2より引用)

そのため入院中、退院後におけるリハビリテーションや日常生活において下肢装具が必要不可欠となる患者が多く存在することが推測される。装具は身体機能の変化や破損などによる装具の調整、修理、再作製が必要であり、適切に実施されないと患者にとって役に立たない飾りとなる場合もある。しかし入院中、退院後の装具において調整、修理、再作製が適切に行われていないことが散見される。特に退院後の生活では入院中と比較して医療従事者と接する機会が少なく、その中でも装具に関する知識、技術に長けた医療従事者となるとさらに少なくなる。そのため適切に装具を使用できていない”装具難民”が多く生まれている(図1)。

 


退院後の浮腫により装具が適合不良となっている。その結果右図のように傷を作ることもある。

図1


その結果、筋力の低下、痙縮の増強などが生じ、歩行を中心とした日常生活動作が低下することで介護度の悪化に繋がっていることもある。この問題を解決するためにいくつかの施設、地域では多職種で話し合い、仕組みの整備等を行っているが未だ解決に至っていない施設、地域が多いのが現状である。

”装具難民”の解決は装具を必要となった脳卒中片麻痺患者において重要なことであり、より多くの施設、地域でこの問題に向き合う必要がある。

当院でのフォローアップ方法と現状

当院では入院中に下肢装具を作製し退院後も継続して使用する患者に対し医師、理学療法士、義肢装具士が退院後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、それ以降は半年毎に当院を受診することで定期的に装具の調整、修理、再作製を行っている(表3)。


 表3

その結果、退院後1ヶ月、3ヶ月という比較的早期に撓みの調整、初期屈曲角度の調整、適合調整などの身体機能の変化による調整が必要となっていた。入院中と退院後の生活は大きく違うため、運動量や動作の仕方が変わり身体機能に変化が生じ、装具の調整がいずれ必要となる。しかし当院で対応した患者において、身体機能の変化が退院後早期に生じており、装具の不適合に対応するためには退院後早期のフォローアップが必要なことが示唆された。

一方で、装具の修理や再作製の検討などの破損やニーズに合わない装具への対応は時期に関係なく必要となっていた。装具の破損は使用期間や頻度により左右され、再作製は破損、身体機能の変化、患者のニーズなどの多くの理由により必要となるため、その時期は個々人によって違いが生じる。つまり装具の破損、再作製の検討に対応するためには、時期に関係なく定期的なフォローアップが必要なことが示唆された。以上のことから退院後も継続して装具を使用する患者において装具の定期的なフォローアップは必要不可欠なことがわかる。

地域でのフォローアップの取り組み

自施設でフォローアップを行っていても患者の退院先が遠方であったり、家族の送迎が困難だったり等の問題により受診が困難な場合もある。この場合、装具のフォローアップ方法が曖昧となり”装具難民”となることがある。そのため患者の居住している地域で誰かが装具に生じている問題に気づく仕組みづくりが必要となる。我々は”装具難民”を救うための仕組みづくりを目的に福岡装具連携の会を立ち上げた(表4)。


 表4

各施設に広報して開催したが、第1回は興味を持ってもらえなかった。その後回数を重ねるにつれて徐々に参加施設が増加し、現在も継続して行っている。会の中での話し合いにおいて、装具を作製したことがなく装具の選択、使い方などが分からないため、基本的な知識、技術を学びたいという声が多く挙がった。そのため知識、技術の向上のために、装具に関する研修会、症例検討会を中心に開催することとした。その結果、数施設から日頃装具を作製していなかったが、会に参加することで装具を作製するようになったという声が上がった。研修会、症例検討会は”装具難民”を救う必要な取り組みと考えてはいるが、当初の目的である”装具難民”を救うための仕組みづくりには至っていないのが現状である。そこで我々は”装具難民”を救う仕組みづくりの第一歩として、情報共有と情報取得を念頭に装具手帳の導入を各施設に呼びかけた(図2)。

 

装具手帳のイメージイラスト
 図2 装具手帳

装具手帳を使用することで装具の情報を一元化し、誰でもいつでも確認できるようにすることで患者が居住している地域で誰かが装具に生じている問題に気づき、対応をしやすくなると考えた。福岡装具連携の会の参加施設で徐々に使用する施設が増えているものの不十分であり、その他の取り組みも考えながら継続していく必要がある。

”装具難民”を救うために思うこと

前述のように”装具難民”を救うことは重要なことであり、問題解決のため自施設、地域がそれぞれで考え、仕組みづくりをすることが急務である。しかし自施設、地域で仕組みづくりをするためには様々な壁があることも事実である。例えば当院のように自施設でフォローアップするためには、初診料、再診料での算定のみしか行えず、医師のみでの診察であれば問題ないが、理学療法士、作業療法士が対応を行う場合、基本的には疾患別リハビリテーション料が算定できないためコスト面が大きな壁となる。地域においては地域の施設や事業所に呼びかけを行い、”装具難民”が問題であることを理解してもらい、対応するための議論を行うことは容易ではない。しかし各施設、各地域で行っている取り組みや、問題点などを共有することができればこの壁を乗り越えやすくなるのではないだろうか。

そのため2020年1月26日に第1回全国装具連携の会合同大会を実施することとした。

本大会は装具の知識、技術を持っている方、持っていない方が十分に学ぶことができ、多職種が参加しても分かりやすいように3つの教育講演と1つの特別講演を用意した。さらには発症してそれぞれの時期における装具の使い方を議論できるように2つの症例報告、そして各施設、各地域での取り組みを知ってもらい、それぞれの施設、地域に持って帰ることができるようにパネルディスカッションと意見交換会を準備している。その他にも企業の方々による商品紹介やサルコペニアの講義などどんな職種、分野の方が参加しても満足のいくプログラムを用意している(表5)。

第1回全国装具連携の会合同大会プログラム
 表5


前日には多くの方々に意見交換してもらえるように、講師の方々を交えた懇親会も用意している。多くの方々が参加し、これを機に”装具難民”を救済することを考えていただければ幸いである。そしてこの装具連携の取り組みが大きな潮流となり、行政を巻き込み取り組むことができればより良いと考える。

我々の地域では行政に問題を投げかけたが、よい返答をもらえなかった。つまりこの問題はまだまだ理解してもらえる取り組みではないのかもしれない。しかし、我々が接している脳卒中患者は装具の不適切な使用により苦しんでいるのも事実である。我々専門職がお互いに意見を交換し、”装具難民”に対する問題解決を一丸となって取り組む必要がある。

 
引用文献
1)平成 30 年(2018) 人口動態統計月報年計(概数)の概況.https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai18/dl/gaikyou30.pdf(2019年10月17日参照)
2)平成30年版高齢社会白書(全体版).
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-018/html/zenbun/s1_2_2.html(2019年10月17日参照)


 

全国装具連携の会 合同大会リーフレット・教育講演「脳卒中患者における下肢装具の必要性、吉尾雅春先生」「手段としての歩行、下肢装具の役割と歴史、川場康智先生」「在宅生活での装具、ケアマネージャがリハビリ職に望むこと、稲冨武志先生」

【第1回 全国装具連携の会 合同大会】
http://npo-fsa.com/activity/detail/masterid/97/

装具使い方セミナー 福岡会場
福岡県 開催:11/16(土) 締切:11/11(月) 
https://www.p-supply.co.jp/seminars/index.php?act=detail&sid=187&place_id=161

装具使い方セミナー 東京会場
東京都 開催:12/01(日) 締切:11/25(月)
https://www.p-supply.co.jp/seminars/index.php?act=detail&sid=189&place_id=165