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パシフィックニュース

脊椎圧迫骨折患者に対するトランクソリューションCORE(TSC)の使用経験

装具

リハビリテーション

脊椎圧迫骨折患者に対するトランクソリューションCORE(TSC)の使用経験

田代耕一(桜十字福岡病院リハビリテーション部・理学療法士)

2020-05-15

脊椎圧迫骨折に対する装具療法

脊椎圧迫骨折(Vertebra Compression Fracture:VCF)は高齢者の脆弱性骨折の中でも最も頻度の高い骨折である。その治療方法は保存療法であることが一般的であり、硬性もしくは軟性の体幹装具を用いて骨折部位を固定する装具療法が行われている。

体幹装具は腹腔内圧を上昇させ脊柱を固定することで疼痛の緩和、早期の離床を可能としている反面、長期間の使用では体幹筋の筋力低下、筋萎縮を引き起こすとの報告もある
1)。そのためVCF患者の中には体幹の支持力が低下し、歩行における体幹の動揺が出現することもある2)
これは一定期間に渡って脊柱支持の補助を担っていた装具を外すことで、腹圧が上昇せず脊柱の支持が困難となることが考えられる。

歩行において体幹の動揺が大きくなるということはバランス機能の低下に繋がり
3)転倒が発症機転となることが多いVCF患者にとって再発リスクを高めることになる。そのため体幹装具装着期間が終了したVCF患者の理学療法では腹圧を高め、歩行における体幹の動揺を減少させ転倒リスクを減少させることが重要である。

VCF患者に対するトランクソリューションCOREの考え方

トランクソリューションCORE(Trunk Solution CORE:TSC)は抗力を具備した継手を有し、継手の力を胸部前面に与えることで効果を発揮する体幹装具である。構造上、胸を押す力は継手を介して与えられるため胸郭は伸展モーメントを受け、その反作用が骨盤に生じ骨盤には前傾するモーメントが生じる。これまでにもTSCを装着することにより腹筋群を賦活させ、背筋群の活動を低下させると報告されている4)

そこでTSCを体幹装具の装着が終了したVCF患者の歩行に活用することで、通常の歩行に比べ腹圧の上昇(腹直筋の筋活動)による体幹の支持力が向上し、体幹の動揺が減少すると考えた。

    
   
                      
撮影協力者:吉村雅史PT(桜十字病院リハビリテーション部)
 

対象と計測方法

症例は80歳代の女性で第10胸椎圧迫骨折を発症し体幹装具装着期間(79日)が終了した患者である。体幹装具を外して5日経過した症例に通常歩行とTSC装着歩行の2条件で10m歩行を実施した。歩行時には表面筋電図(TS-MYO:トランクソリューション株式会社製)を用いた腹直筋の筋活動と3軸加速度計(Q’z TAGTM walk:住友電工社製)を用いた身体動揺を計測した。表面筋電図は臍帯から外側3cm離れた位置の左右両側に貼付し、3軸加速度計は第3腰椎棘突起にベルトで固定し装着した。

表面筋電図のデータは連続する5歩行周期を抽出し1歩行周期を100%として時間で正規化し平均値を算出した。3軸加速度計のデータは連続する5歩行周期分のデータから歩行時の動揺性評価としてRoot Mean Square(RMS)を算出した。

結果と考察

表面筋電図において2条件を比較するとTSC装着歩行の筋活動が大きいことが確認でき、TSC装着歩行は胸部前面に抗力が加わることで、先行研究と同様に体幹の支持力となる腹直筋の筋活動上昇に繋がっていたと考える。

また、通常歩行では左右腹直筋の非対称な活動が認められたが、TSC装着歩行では対称的な筋活動となっていた(図2)。これは体幹装具装着期間終了後もしくは発症前から体幹筋の非対称な活動が生じていたことが考えられ、TSCの装着により歩行姿勢が矯正されたため対称的な筋活動が発揮されたと考える。

 


          
歩行時の腹直筋筋活動(図2)



さらに3軸加速度計において側方方向のRMSはTSC装着歩行で低値となっており(図3-a)、歩行中に体幹の左右への動揺が減少していることを示している。TSC装着歩行で左右の腹直筋が対称的な筋活動となったことで体幹の左右への動揺が減少したことも一因と考えられる。垂直・前後方向のRMSはTSC装着歩行で高値となっており(図3-b・c)、歩行中に体幹の前後への動揺が増加していることを示した。



       
各方向の加速度波形(図3)



TSC装着により胸郭は伸展方向にモーメントが働き、その反作用として骨盤には前傾する方向にモーメントが働きやすくなる2)と言われており、またリサージュ図からも前方成分の増加が確認できた(図4)。



          垂直・前後方向の加速度リサージュ(図4)


よって本症例においても同様の内部モーメントが働き前方への推進力が得られやすい動作であったため前後方向のRMSが高値であったと考える。このことから、わずかではあるが歩行時間の改善に繋がったと考える(図1)。前方への推進力が増加するということは初期接地における床反力が増大し、立脚中期から終期にかけて下降する身体重心を制御する必要があるが、その制御が不十分な場合に垂直方向の動揺は大きくなる。

その制御には主に下肢筋力が影響することが明らかにされており5)本症例の場合は通常歩行よりもTSC装着歩行で前方推進力が増した結果、下肢での制御が難しく上下方向のRMSが高値であったと考える。しかし言い換えればTSCを装着した歩行は下肢筋力の増大にも寄与する可能性が考えられる。
 



                歩行の初期接地(図1)
 


                          撮影協力者:吉村雅史PT(桜十字病院リハビリテーション部)

                              

  1. 白土修 伊藤俊一;腰痛患者に対するリハビリテーション,脊椎脊髄ジャーナル13(6);590-599,2000
  2. 綾部 雅章ら;脊椎圧迫骨折患者の体幹加速度由来指標と運動機能の関連および歩行分析,Japanese Journal of Health Promotion and Physical Therapy Vol.3,No.4:17-182,2014
  3. 高橋 恵美;体幹筋力発揮時間とバランスの関係,理学療法科学 28(2):209–214,2013
  4. 勝平純司;体幹装具Trunk Solutionの開発と装着効果の検証,バイオメカニクス学会誌,Vol.39,No4, 2015
  5. 幸田 仁志;高齢者における最速歩行時の身体動揺性と筋力の関係,Japanese Journal of Health Promotion and Physical Therapy Vol.5,No.4:161-165,2016