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パシフィックニュース

富田分類から学ぶ障害児者へのコミュニケーション支援

AAC(コミュニケーション)

リハビリテーション

富田分類から学ぶ障害児者へのコミュニケーション支援

富田 朝太郎(言語聴覚士・大阪整肢学院リハビリテーション部)

2020-06-01

多様な障害像を持つ重症心身障害児者の生活を支援するためには、本人の障害特性や個別性などの情報を得ることが必要不可欠である。従来、重症心身障害児者の障害度把握について「大島の分類」「横地分類」が活用されてきたが、筆者が2014年に作成した新たな障害度分類「富田分類」は生活支援において重要な情報であるコミュニケーション能力に特化したもので、その簡易さと実用性から全国の支援学校や障害児者施設などの現場で活用されている。今回のパシフィックニュースでは富田分類の概要とコミュニケーション支援への活用について紹介する。
 
目次
1. 作成の経緯
2. 作成の目的
3. 作成概要
4. 結果と現況
5. 活用の注意点
6. 富田分類を活用したコミュニケーション支援
7. 富田分類が目指すところ
8. 参考文献

1. 作成の経緯

医療型障害児入所施設である当院には、知的障害を併せ持つ3歳~18歳までの肢体不自由児が90名入所生活している(2020年4月1日現在)。初めて障害児に接する新入職員にとって、一目見れば障害特性の概ねが把握しやすい運動能力に対し、知的認知能力を捉えることは容易でない。特に生活支援に重要な情報であるコミュニケーション能力の見極めは難しく、個別性を踏まえた生活支援が行われるまでには時間を要している。重症心身障害児者の障害度分類として一般的に活用されている「大島の分類」「横地分類」が当院にも導入されている。しかし、両分類ともにそれぞれの活用目的に応じた障害度概要把握の有効性は高いが、当院の生活支援現場において評価が簡便でなく、活用できていない現状であった。

新入職員への新人研修時に「児童のコミュニケーション能力の実態把握」についてアンケートを実施したところ、「把握できている」が33%、「あまり把握できていない」が67%という結果が出た(24名:2014~2016年)。児童のコミュニケーション能力の見極めが困難な状況と、それに対する何らかの対応の必要性は明らかであった。

2. 作成の目的

身体だけでなく知的障害を併せ持つ児童への生活支援には、障害特性を客観的に把握し適切に評価すること、及び、障害特性を捉えた具体的な支援方法が必須である。そこで、専門的な知識や経験を有さない新入職員が、より簡易に障害特性を捉えることができ、生活支援において重要な情報であるコミュニケーション能力に特化した実用的な障害度分類を作成する必要があると考え、以下のように目的を設定した。
 

   

3. 作成概要

 ( 1 ) 運動機能・コミュニケーション能力を把握できる障害度分類表の作成
1971年に作成された障害度分類・大島の分類は、横軸を運動機能、縦軸を知能指数(IQ)で分類している。運動機能は外観から概ねを把握できるが、IQを知るためには検査道具の準備、実施や評価に時間を要する各種の知能発達検査を実施する必要があり、障害度の重さに比例し値の算出が困難である。障害度の概要把握はできるが、コミュニケーション能力は反映されておらず、当院の生活支援現場においては新入職員のみならず実用性は低い(図1)。

大島の分類の改訂版として2009年に作成された横地分類では、縦軸をIQから知的発達、横軸を運動機能から移動機能と変え、分類区分を増やすことでより詳細な障害度分類を図っている。しかし、知的発達区分を評価するには評価項目の詳細まで把握する必要があり、評価に時間を要しており、こちらも当院での実用性は低かった(図2)。

 

   
              図1 大島の分類(大島(1971)を参考に作成)                 図2 横地分類(重症心身障害療育学会ホームページより)


そこで、専門的な知識や検査の実施、障害児者支援の経験が無くても障害度、特にコミュニケーション能力の把握ができるよう、大島の分類を基本に新たな障害度分類(「富田分類」と称す)を2014年に作成した(図3)。

     
                                                 図3 富田分類


①移動能力
横軸は主体的な移動能力に特化し4段階とした。介助者により移動が可能な「寝たきり」、寝返りや四つ這いなどで主体的な移動が可能な「床移動可能」、車椅子やクラッチなどの機器を操作し移動が可能な「車椅子移動」、歩行での移動が可能な「歩行」に改訂した。

    

 

②コミュニケーション能力
縦軸はBates(1975)のコミュニケーション発達段階を参考に4段階、つまり、意図が支援者によって解釈される「聞き手効果段階」、意図を何らかの手段で伝達しようとする「意図的伝達段階」、伝達手段の中にことばが加わり、意図を明確に伝えようとする「命題伝達段階」、会話でのコミュケーション可能な「言語期」に分類した。

    


( 2 ) 評価方法の作成
専門的な知識や経験、物品使用する検査を必要とせず、簡易に即時的な判断で評価できるようYes / No 2択式、視覚的に理解しやすい図式化(フローチャート)を行った。図式化にあたり、ドロップレット・プロジェクト作成によるシンボル「ドロップス」を活用した(図4)。

 

                                          
                                                                                              図4 評価フローチャート

( 3 ) コミュニケーション能力に応じた支援方法の提案
分類されたコミュニケーション能力の段階に応じた支援方法を作成。言語期には会話でのコミュニケーション促進、命題伝達段階には主体的な選択決定場面の中で発語促進、意図的伝達段階には自発的伝達行動の促進、聞き手効果段階には様々な刺激により快反応を引き出すことを提案した(図5)。


       
        
                                                                                   図5 コミュニケーション段階別支援方法

4. 作成結果と現況

当院入所児童90名を富田分類にて評価分類すると、コミュニケーション能力の割合は、言語期27名、命題伝達段階10名、意図的伝達段階44名、聞き手効果段階9名であった。また、移動能力の割合は、歩行37名、車椅子移動10名、床移動可能19名、寝たきり24名であった(図6)。

                              
                                                                                        図6 当院での分類                         



分類によって移動能力とコミュニケーション能力の相関が明確に可視化されたことで、より簡易に障害特性を捉えることができ、段階に応じた適切な生活支援への活用が容易になっている。作成した分類表と支援方法を新入職員へ配布した後に、「富田分類は今後の支援に使えるか」とアンケートを実施したところ、「とても使える」が64%、「使える」が36%という結果が出た(13名:2015~2016年)。

この結果により、富田分類が簡易的な評価方法、実用的な障害度分類、具体的な支援方法として高い評価を得たと考える。また、障害特性を個別的だけでなく全体的に実態把握できるため、入所児童の状況把握(摂食状況、生活状況)、リスク管理(窒息、誤嚥、転倒、自傷)や活動(外出、集団活動のグループ分け)など様々な場面での活用が現在行われている。

5. 活用の注意点

富田分類による障害度評価分類は簡便で容易な仕組みであるが、あくまでも即時的な評価であり定期的な見直しが不可欠である。移動能力とコミュニケーション能力はそれぞれ4つの段階に分けているが評価に難渋するケースも想定される。その場合は支援者個人による単一場面での評価だけでなく、多職種から生活や活動場面での情報を収集し、実用的な能力について多様な可能性を探るという視点が必要である。

例を挙げると、コミュニケーション能力は聞き手効果段階と評価されたが、視線入力機器を導入したところ主体的な意思表出が確認され、コミュニケーション能力の段階を改訂したケースもある。評価に難渋するケースは、対象者のコミュニケーション支援について多面的かつ前向きに検討できる絶好の機会と捉えたい。
 

6. 富田分類を活用したコミュニケーション支援

富田分類をコミュニケーション支援でより具体的に活用できるよう2019年に「コミュニケーション支援活用シート」を作成した。これは事前に設定した活動(生活)場面で個々のコミュニケーション能力を評価分類した後、場面の目的に応じたAAC(拡大代替コミュニケーション)技法を実践していくものである。AAC技法のカテゴリーは、ハイテク(PC、iPad、VOCA、視線入力機器など)、ローテク(筆談、文字盤、シンボル・写真カード、ブック、コミュニケーションボードなど)、ノンテク(ジェスチャー、指さし、クレーン、発声など)、感覚入力(触覚、前庭覚、固有覚、嗅覚、味覚、視覚、聴覚)としている(図7)。

                                         
                                                                                 図7 コミュニケーション支援活用シート    

活用シートにて対象者のコミュニケーション能力や必要とされるAAC技法などコミュニケーション状況についての情報を整理、シンボルを使用し内容を可視化することにより、支援者が実践した具体的なコミュニケーション支援内容(目的と手段)の整理と振り返りができる仕組みにしている。また、活用シート上での簡便なチェック方式のため、複数の支援者間や専門的な知識や経験の浅い多職種間でも情報や支援内容(目的と手段)を容易に共有することができている。

コミュニケーション支援場面において使用されることの多いICT機器の活用について対象者のコミュニケーション能力に応じた活用目的を明確化できることも特徴である。ICT機器で代表的なVOCAの種類や場面ごとの活用方法はパシフィックサプライ株式会社サイトの「アクションディクショナリーVOCA活用のヒント集」を参照していただきたい。
https://p-supply.meclib.jp/ad/book/#target/page_no=1

7. 富田分類が目指すところ

今回紹介したコミュニケーション能力に特化した障害度分類「富田分類」は知的障害を併せ持つ肢体不自由児が生活する当院だけでなく、多様な障害像の児童生徒や成人の利用者がいる全国の支援学校、障害児者施設や児童発達支援・放課後等デイサービスなどにおいて、専門的な知識や経験の有無を問わず、全体的に状況を把握でき、多職種間で容易に情報共有することができるツールとして活用されている。

富田分類はあくまで移動能力とコミュニケーション能力の障害度を分類評価するスクリーニングツールであり、導入することで対象者のコミュニケーション能力向上へ直接的に働きかけるようなものではない。しかし、生活支援に重要なコミュニケーション能力に特化した情報を支援者間で共有し統一した対応が実践されることにより、対象者を取り巻くコミュニケーション環境は本人主体の良い方向へと変化し、より豊かな生活を目指すことができると考える。

筆者が主宰するポータルサイト小児STナビ https://aoaoao527.com では「いつでも・どこでも・誰でも・すぐにできる支援」をコンセプトに支援者へ向け情報発信している。富田分類資料(全体表・評価フローチャート・コミュニケーション段階別支援方法、コミュニケーション支援活用シート)以外にも文字盤やコミュニケーションボードなど視覚支援資料を提供している。また、富田分類を活用したコミュニケーション支援セミナーも開催しているので、コミュニケーション支援の仕組みづくりの参考にしていただければ幸いである。

8. 参考文献

1) 大島一良 : 重症心身障害の基本問題 公衆衛生35 : 648-655, 1971
2) 立花泰夫 : 重症心身障害児とのコミュニケーション-コミュニケーションの実態と重症度との関連を中心に- 厚生省精神・神経疾患研究
    委託費 -重症心身障害児の病態・長期予後と機能改善に関する研究 平成5年度研究報告書-, 271-275, 1994
3) 竹田契一監修, 里見恵子・河内清美・石井喜代香 : 実践インリアル・アプローチ事例集 日本文化科学社, 2005
4) 知念洋美 編著 : 言語聴覚士のためのAAC入門 協同医書出版社, 2018
5) ドロップレット・プロジェクト : 視覚シンボルで楽々コミュニケーション 障害者の暮らしに役立つシンボル1000 エンパワメント研究所, 2010
6) 中邑賢龍:AAC入門 コミュニケーションに困難を抱える人とのコミュニケーションの技法 こころリソースブック出版会,2014
7) 古館亙・他 : 「大島の分類」縦軸に関する判別基準作製の試み 平成2年度厚生省児童家庭局障害福祉課所管・心身障害研究「心身障害児(者)の医療療育に関する総合的研究・報告書」87-91, 1990
8) 宮崎美和子 : Kokoroの出会い こころ工房, 2008
9) 横地健治 : 重症心身障害児の知的機能をどのようにとらえるか?-横地分類について- 小児看護 第39巻第5号 : 522-526, 2016
10) 重症心身障害療育学会 : 横地分類  http://www.zyuusin1512.or.jp/gakkai/yokochian.htm

連絡先

富田朝太郎
Mail : aoaoao527@yahoo.co.jp
小児STナビ : https://aoaoao527.com
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