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24時間の生活の中での床ずれ予防 最終部(全三部構成)

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24時間の生活の中での床ずれ予防 最終部(全三部構成)

(公財)天理よろづ相談所病院白川分院 在宅世話どりセンター
特定嘱託部長/医師 中村義徳

2021-02-15

この度、日本褥瘡学会でもご活躍の中村義徳先生に、24時間の生活の中から起こる床ずれについて、インタビューする機会をいただきました。なぜ、床ずれを見るときに24時間の生活について考えなければいけないのか?そう思う方もあるかもしれません。単純に「傷口・創傷だけを見ていれば良い」と言うことではなく、どうしてそこに出来てしまったのか?という本質を見る意義について、考えるキッカケになれば幸いです。3回シリーズの最終部。ご覧ください。

第一部はこちらからご覧いただけます >>
第二部はこちらからご覧いただけます >>

<第六章>外力を軽減する方法

予防 ・ 治療
―パシフィックサプライ、以下P:ここまでは、床ずれができる原因について、解説していただきました。ここからは予防・治療について教えていただきます。
―中村義徳先生、以下中村:外力を軽減する、といっても一様ではありません。外力を軽減する方法としては、人力による場合は、定期的な体位変換です。体位変換の良いところは、下になっていた部分を第一の外力からフリーにできる点です。完全なフリーにできなくても、外力の影響を少なくすることが大切です。第一の外力を構成する圧力と摩擦力をできるだけ小さくすることで、当然、第二の外力の影響も小さくなると考えられます。




 
定期的な体位変換 
―P:では体位変換の際に気を付けることはありますか?
―中村:はい、あります。体位変換を行う際に気をつけないといけないのは、体位変換操作によって、ある局所を強く引っ張ったり、擦りながら体位変換をしたりすることはないかどうかです。人の身体は、柔らかい軟性部分と骨のような剛体との混合です。その身体の体位変換に当たって、不安定な状態で体位保持をするようなことになると、身体の内部では、目には見えない、歪みや変形が発生しているかも知れないと、想像することが大切になると考えています。まずい体位変換やまずい身体の移動によって、柔らかい身体の組織に、キズができたり、できたキズが治らなかったりすることは、容易に想像できるのではないでしょうか?
 
―P:それでも人の力には限界がありますし、特に高齢者同士の介護となった場合、どのようにすれば良いでしょうか?
―中村:人力でないとすると、色々な道具立てということになります。その第一に浮かぶのが、マットレスです。加えて、体位変換のためのクッションやピローなどの介護用品。ベッド上仰臥位の際、頭側を挙上するときに身体が足側にずれ落ちる際に、背中や仙骨部・あるいは尾骨部とマットレスの間に発生する摩擦を軽減し、体重と摩擦で発生する、組織内部における「ずれ力」を軽減させる方法(「背抜き」という介護の基本的操作です)に使う、すべりの良いシートやグローブは必須アイテムといえます。また、ここからの発想ですが、「在宅床ずれ研究所」(奈良県)では、創傷被覆材のずれ防止シート「TASS®(Topical Aid Sliding Sheet)」を開発して、在宅における床ずれケアに利用しています₁₀。マットレスなどの介護用品で身体の局所にかかる圧力(多くの場合、身体による荷重)の影響を軽減し、TASS®で、補助的に摩擦を軽減することで、床ずれの主犯である外力を小さくしようという発想です。

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―P:マットレス、ポジショニング用クッション、スライディングシート、グローブなどを利用して、身体に掛かる外力を軽減させるということですね。他にはありますか?
―中村:患者さんの身体を移動させるときに、引っ張ったり、擦ったりしないためや、介護人さんの負担を軽減するリフトなどを使うのも、褥瘡予防の観点のみならず、介護全般において非常に大切な役割を担うことができます。



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<第七章>日常生活の中での床ずれ予防はどうすれば良い?

地球の重力の下で生きていく = 床ずれ発生のリスクの中で生きている

―P:キズ・創傷への外力を減らすということは理解できました。では、日常生活の中での床ずれ予防はどうすれば良いでしょうか?
―中村:床ずれ予防に対する考えは、簡単です。床ずれ危険部位₁₁を、二つの外力から守ることです。特に第一の外力を軽減させれば、第二の外力は軽減させることができると考えます。第二の外力が主犯の場合は、前述したように、骨格や関節の変形を少しでも改善するなどの、それなりの工夫が必要です。繰り返しになりますが、第一の外力とは身体表面にかかる圧力と摩擦力の総和ですから、これら圧力と摩擦力を軽減させることが最も重要ということになります。
ただ、それを実行することにはまだまだ難しい点があります。人が生活し、活動していく中にあって、どうしても床ずれ発生のリスクの中で生きて行かざるを得ないからです。地球の重力の下で生きている地球人では、当たり前といえば当たり前です。そうはいっても、「床ずれ危険部位、あるいは床ずれ部位を、外力から守る」、「少しでも外力を軽減する」のが、最もわかりやすく、効果の高い考えで、「少しでも」という考えが大切だということを忘れないで頂きたいと思います。そのための実行上の工夫を行うことにつきるのではないかと、考えています。


―P:それでは、外力・ずれにだけ注意していれば良いのでしょうか?

―中村:勿論、人の身体は、様々な要素で支えられています。例えば食事、栄養、栄養素、睡眠、運動、精神作用などなど、枚挙にいとまがありません。身体の痩せが進んで弾力がなくなってくると、当然のように骨が出っ張り、床ずれができやすくなります。ですから、栄養をつけて身体の皮膚や皮下組織の弾力性を保つこと、身体機能を高めておくこと、免疫力を高めておくことなどの大切さが強調されるのも、まさにその通りです。ただし、そうした、いわばインフラをしっかり整えていくことはとても大切で、本筋ではありますが、そうとばかりいっておられない場合も少なくありません。
取り掛かりやすく、また効果が見えやすいのは、マットレスやクッション、あるいは、移動のためのリフト、あるいは、床や支持面に接する身体表面における圧力と摩擦を軽減することと考えています。


 
必要とするご本人、ご家族、介護者の方々の状況を考えた上で予防と治療を考える

―P:様々な用具や方法を上手に組合わせて、どの場面でどのような用具を使って、どのような関り方をするのか、を考える必要がありますね。

―中村:そうです、その具体的な方法は、必要とされる状況で、本人が、あるいは周りの人が、あるいは介護や医療に携わる人が、その都度、覚悟を持って考えていかざるを得ないと考えています。
 
―P:床ずれは一人で治療・予防するものではなく、関わる全ての人が共通の知識や技術を持って、その方を支援していく必要があるということですね。ただ、キズを見るだけの治療ではなく、その方の生活や様々な環境などへの視点も持って、私たちも支援に携われると幸いです。中村先生、この度はありがとうございました。


~注釈~
₁₀ 関連情報は、日本褥瘡学会誌に発表しました(中村義徳、吉田道子、光田益士:在宅での褥瘡に対する持続的局所摩擦ずれ緩和シートを用いた3症例の治療経験、褥瘡会誌.22(4):401-406、2020)。詳細は「在宅床ずれ研究所」zaitoko2019@gmail.comにお問い合わせ下さい。
₁₁ 床ずれ危険部位については、インターネットの日本褥瘡学会のホームページなどでご確認下さい。アルメディアという、WEBサイトも、とても参考になります。
 




3部連載にてお送りしました「24時間の生活の中での床ずれ予防」いかがでしたでしょうか。
読んでいて答え合わせのようにご納得いただけた方、
そういうこと!? じゃぁこうしてみよう!と新たな案を思いつかれた方、
未だ先の話と思いながらもご家族に例えて考えられた方、
さまざま"考えるキッカケ"になったのではないでしょうか。
皆さまと皆さまの大切なひとのこれからの、「少しでも」になれば幸いです。

ー24時間の関り方について詳しく学びたいという方は、『医療・福祉・生活をつなぐ 24時間姿勢ケア』のセミナーに、ぜひご参加ください。


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24時間の生活の中での床ずれ予防

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執筆者プロフィール



中村 義徳 
なかむら よしのり
天理よろづ相談所病院白川分院 在宅世話どりセンター
特定嘱託部長/医師

専門: 
元消化器一般外科、消化器内視鏡、内視鏡外科、在宅医療、褥瘡・創傷管理​

資格:

  • 日本外科学会 認定医
  • 日本消化器外科学会 認定医
  • 日本内視鏡学会 認定医

学会活動:
日本在宅医療連合学会
日本褥瘡学会 功労会員、褥瘡認定師・医師
日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会 特別会員
日本褥瘡学会・在宅ケア推進協会 理事
近畿外科学会 特別会員
日本褥瘡学会近畿地方会 世話人
奈良県糖尿病性足病変の会 世話人
日本臨床外科学会

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