パシフィックニュース
「VOCA×ITで広がる可能性」
AAC(コミュニケーション)
環境整備
社会福祉法人 上伊那福祉協会
障害者支援施設 大萱の里
理学療法士 小山内 良太
2022-02-15
はじめに
大萱の里のIT環境
当施設では、不自由さはあってもパソコンやタブレットを使い、オセロゲームや動画視聴などで余暇を楽しんだり、お仕事をしたりして生活されている方が複数名おられます。私は、障害分野で働くようになって2年目です。それまでは急性期・回復期・訪問リハなど10年以上リハビリに携わってきましたが、IT機器について特別な知識があった訳ではなく、恥ずかしながらトラックボールマウスはここで働いて初めて知りました。入居者のAさんはIT関係の知識に長けており、Aさんを中心に1人1人の身体状況に応じてパソコンやタブレットを使えるようにするまで色々と苦労されたそうです。入職当時、“こんな操作の仕方があるのか”と驚いたことを覚えています。
事例1 “スマートスピーカーの導入”
Aさんは脳性麻痺のため電動車椅子で生活していますが、困りごととして「ベッドに寝ている時はコールボタンを押せるが、電動車椅子に乗ってしまうとベッド上にあるコールボタンが押せず、職員を探しに行かなければならない」という課題がありました。
解決に向けて模索している中で、スイッチボットという物理スイッチを操作することができるIT機器を知り、スマートスピーカーと組み合わせれば声でボタン操作が可能になるということが分かり試してみることになりました。
その結果、声でコールボタンを押すことができるようになり、困りごとを解決することができました。他にも機器を追加していくことで、室内灯・エアコン・TVなどの赤外線リモコン機器の制御、カーテン開閉などの環境制御がどんどんできるようになりました。最新のIT機器を上手く使うことで生活がより便利に豊かになるということを実感できた経験でした。
スマートスピーカー×スイッチボット 声でナースコール
スマートスピーカー×スイッチボット 声でカーテン開閉
言語障害のある人はどうすれば・・・
スマートスピーカーによって生活が豊かになる可能性があると分かった一方で、当施設の入居者さんにはスマートスピーカーを声で操作できるほど明瞭に喋れる人が少なく、言語障害や構音障害により操作が困難な人が多いため、便利さを共有することができず壁にぶつかってしまいました・・・。
事例2 “1人でラジオを聞けるようになりたい”
そんなBさんですが、徐々にチューニングが難しくなってきたり、ラジオをテーブルから落として壊してしまったりと不自由さが増えてきていました。また、施設自体の電波状況が悪いため雑音が入りやすいことも課題となっていました。
ある時、職員からインターネットラジオのradikoなら音もクリアに聞けてよいのではないかと提案があり、タブレットでradikoを聞くようになりました。雑音なくラジオを聞くことができ課題が解決したように思えましたが、次の問題が起きました。
①タブレットの充電が1人で行えないため、電池切れがないよう定期的に職員の支援が必要となった。
②視覚障害により操作が難しく、アプリの立ち上げ・ラジオの選局に職員の支援が必要となった。
情報番組、国会中継など様々な番組を聞いていたBさんでしたので、自分で選局できる機能はどうしても必要でした。
スマートスピーカーであればradikoを聞くこともでき、コンセントプラグ式のため充電の必要もないので、①については解決できそうでした。しかし、構音障害により声での操作が難しいため②と同様に自身での操作・選局がネックとなり解決には至りませんでした。
声以外でスマートスピーカーを操作する方法
色々と調べていく中で、一部の重度障害者用意思伝達装置「伝の心(日立ケーイーシステムズ)」や、iOS用コミュニケーションアプリ「指伝話(オフィス結アジア)」など、合成音声でもスマートスピーカーの操作が可能だということを知ることができました。しかし、パソコンやタブレットを使うことに不慣れなBさんにとっては導入が難しそうでした。ボイスレコーダーや音声録音アプリなど録音・再生機器も検討しましたが、細かいボタンの操作が必要で、こちらも難しそうであったため別の機器を探すことにしました。
音声の録音・再生×簡単な操作=VOCA
福祉用具カタログをあれこれと見ているときに目に留まったのがパシフィックサプライさんで取り扱いのあるエーブルネット社の“VOCA”でした。これまでは特別支援学校で子どもたちが使っている道具の一つというイメージでしたが、パシフィックサプライさんへ連絡を取り、デモをしてみることにしました。
複数の音声を録音・再生する必要があったため、アイトーク4、アイトークウィズレベル、クイックトーカーを試しました。私の声で「OK Google 〇〇(ラジオ局名)をつけて」などいくつかの音声をVOCAに録音して、スピーカーの近くで再生したところ、3機種のVOCA全てでスマートスピーカーが反応し、ラジオの選局、音量調整、停止など複数のコマンドを使うことができました。大きなスイッチを押すという簡単な操作で音声の録音・再生ができるVOCAの機能によって、言語障害・視覚障害のある人でもスマートスピーカーを使えることが判明し、とても大きなブレイクスルーを果たすことができたと感じ、嬉しくなりました。
デモをした3機種のVOCA
以前使っていたラジオ、現在使用中のスマートスピーカーとVOCA
アイトーク4 ボタン・レベル毎に音声を録音 自分で選択できる
VOCA×スマートスピーカー ラジオ選局
VOCA×ITの可能性
IT機器の進化によりアクセシビリティが向上しており、スイッチを押すだけでパソコンやタブレットの操作ができるようになってきました。視線入力など新たな機器も徐々に利用が進んできておりQOLが拡大するという事例は増えてきたと思います。しかし、そういったIT機器の操作には利用者本人の努力のみならず支援者のスキルも必要となっており、導入までのハードルが高いという課題もあると思います。
今回の事例から、IT機器の操作が難しい方、複合的な障害をお持ちの方もVOCAという簡単に操作ができる機器の利用によってスマートスピーカーを経由し、様々なコンテンツと繋がることが可能だと分かりました。外部入力スイッチにも対応しているため、1人1人に合ったスイッチを利用できることも利用者の幅を広げることに繋がると思います。これは障害者だけでなく、IT機器の操作に不慣れであったり、声での操作が上手くいかなかったりする高齢者にも使える方法ではないかとも考えています。
スマートスピーカーの機能として、環境制御機器との連携とラジオ機能について紹介しましたが、その他にも①今日は何の日?など分からないことを質問する、②天気予報を確認する、③ニュースの確認をする、④音楽を再生する、⑤カレンダーアプリと連携し今日の予定を確認する、⑥本の読み上げサービスを利用する、などが可能です。画面付きのスマートスピーカー(スマートディスプレイ)を使えば、⑦動画を見る、⑧テレビ電話をする、などその人の希望に応じて様々な使い方ができます(一部有料サービスあり)。
Amazonアレクサであれば“定型アクション”、Googleアシスタントであれば“ルーティン”という機能を使うと、例えば「おはよう」という一言を伝えるだけで、今日は何の日?→今日の天気→ニュース→音楽をかけるなど複数のサービスを順番に聞くことができます。VOCAを使う場合、録音できる音声に限りがあるため、定型アクションやルーティンを使うことでより便利にスマートスピーカーを利用できると思います。
導入時の注意点
必要なもの:
①インターネット環境(無線LAN環境orモバイルWi-Fi機器)
②スマホorタブレット端末(スマートスピーカーアプリ設定用)
③スマートスピーカー(Amazonアレクサ、Googleアシスタント、Apple SiriなどのAI搭載機器)
④環境制御機器(スイッチボットなど様々な製品があり、スマートスピーカーなしでも使用可)
⑤VOCA(声での機器操作が難しい方)
事例1のAさんはIT機器に詳しく、元々自室にWi-Fi環境があり、スマホも持っていたため、③④を購入するのみで、アプリでの設定もご自身でされました。現在は毎朝決まった時間になると、部屋の電気が付き、カーテンが開き、パソコンの電源が入り、コーヒーメーカーのスイッチが入るなどの設定をされています。
事例2のBさんはアプリ設定用に②タブレットと、③⑤を購入されました。使用するまでにはGoogleアカウントの開設、タブレット・アプリでの設定、スマートスピーカーのWi-Fi接続・設定、VOCAへの録音などの準備が必要でしたが、そこは職員がお手伝いしました。支援側のスキルもある程度は必要ですが、スマートスピーカーの設定作業自体は簡単です。それよりも、1人1人のニーズや困りごとを把握し、どのような機能を組み合わせるかという点と、それを使いやすくアプリで設定する作業には慣れや工夫が必要だと思います。
さいごに
スマートスピーカーやスマートホーム(IoT技術)など生活を便利にする機器は2017年頃から普及しています。私自身も機器の存在については知っていましたが、当施設で働く前までは「家電の操作や電気をつけるくらい面倒くさがらず自分でやればいい」というように考えてなんとなく毛嫌いしているような節がありました。いま思えば、障害や病気で困っている人たちの生活を変える可能性のある機器でもあったのに、リハビリ職でありながらそういった視点を持てずにいたことを悔しく思っています。そしてVOCAを使うことにより、ボタンやスイッチを押すだけで生活が一変する可能性があることを再認識しました。
今回の経験を通して大切だと感じたことは、“まず自分が使ってみる”ということです。私の自宅にもスマートスピーカー・スマートディスプレイを設置しましたが、実際に使ってみると便利さが分かりますし、スマホを使えている方であればあまり抵抗なく使いこなすことができると思います。使っていると、「あの人にはこんな使い方ができるかも」とアイデアも浮かんできます。この記事を読んでくださっている方の中にも、私のようになんとなく使うことに抵抗があったり苦手意識があったりする方もいると思いますが、新品でも5千円程度から購入することができますし、フリマアプリなどで安価に用意することもできます。支援されている方の中にはIT機器をお持ちでない方、Wi-Fi環境が整っていない方もおられると思います。機器の購入・設定などで困りごとがありましたら、連絡をいただければ相談に乗りますので、皆さんにもまず使ってみていただきたいです。その小さなチャレンジが、私たちが支援している方々の生活や可能性を広げる第一歩になるのではないかと思います。
連絡先 障害者支援施設 大萱の里
〒399-4501 長野県伊那市西箕輪8038-4
TEL:0265-76-7151 FAX:0265-76-7152
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