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「その人が何を大事にしているのか、何をゴールにしているのかー 義足リハを通して、その人自身の生活を取り戻してほしい」  “自分らしく”を支える膝継手 ―トータルニー2000

義肢

「その人が何を大事にしているのか、何をゴールにしているのかー 義足リハを通して、その人自身の生活を取り戻してほしい」  “自分らしく”を支える膝継手 ―トータルニー2000

パシフィックサプライ株式会社 事業開発本部 事業推進部 オズール事業推進課

2022-07-01

はじめに

トータルニーは、1986年にスウェーデンの発明家、フィン・グラムナスが6歳の娘のために研究、試作を繰り返しながら生み出した膝継手です。その当時、重く扱いにくかった膝継手を軽量化し、ユーザーが自然に快適に歩くことができるよう、職を辞してガレージにこもって試作品を何度も微調整しながら完成させました。

そのトータルニーを「安心できる膝継手」として、義足リハビリテーションにご使用いただいている、公益財団法人 鉄道弘済会 義肢装具サポートセンターの理学療法士、岩下 航大さまにお話を伺いました。





公益財団法人 鉄道弘済会 義肢装具サポートセンター
理学療法士 岩下 航大さま
 
【学歴】
2007年 東京衛生学園 リハビリテーション学科 修了
2012年 国際医療福祉大学大学院 保健医療学専攻 福祉支援工学分野 修士課程修了

【職歴】
2007年 公益財団法人鉄道弘済会義肢装具サポートセンター 入職
 
【資格】
日本理学療法士協会 認定理学療法士(切断)
 
【主な所属/協会/学会】
日本理学療法士協会 分化学会・部門:日本支援工学理学療法学会 
日本義肢装具学会 用語委員会 委員 
日本リハビリテーション工学協会 
Habilis JAPAN(ハビリスジャパン)
 
【著書】
・義肢・装具学~異常とその対応がわかる動画付き (PT・OTビジュアルテキスト) , 第1版,羊土社,2016
・リハビリテーション義肢装具学, 第1版, メジカルビュー社,2017
・Q&A フローチャートによる 下肢切断の理学療法 第4 版,医歯薬出版,2018
・イラストでわかる義肢療法,医歯薬出版,2021
・理学療法士のための足病変知識Q&A第1版,医歯薬出版,2022
 
公益財団法人 鉄道弘済会 義肢装具サポートセンターホームページ

https://www.kousaikai.or.jp/support/

岩下さまのお話

義足リハとの関わりについて
義足リハに携わるようになり16年目です。現在、年間約70名の新規切断者(切断直後)の入院・リハに関わっています。外来を含めると約100名の方々に関わります。
そのうち大腿切断者はこの4年間で約50名、年齢は10代から80代と幅広いです。他に股関節離断・半裁の方が18名、両側下肢切断(両側大腿・下腿)の方は11名です。
 
リハで大切なのは切断者一人ひとりの生活イメージを捉えること
その人が何を大事にしているのか、何を社会復帰のゴールにしているのか、生活像を捉えることがとても重要です。ICF(全体像を捉える概念)でいう「活動」のBADL:基本的日常生活動作とIADL:手段的日常生活動作を、「参加」の社会的な接点や個々の役割へつなげていく必要があります。また「環境因子」(物的環境や制度的環境)に加えて、どういった仕事をするのか、どういう生活を望むのかの「個人因子」(価値観、ライフスタイルなど)が大事だと思っています。
物的環境では、玄関、段差、階段などの自宅の状況をご家族に写真を撮ってもらって確認し、車の乗り降りや近所のコンビニまでどう行くかなども具体的に確かめていきます。
 
目標やゴールの設定では、「思考を止めない」ようにします。初めに仮説を設定しても、そこから人の気持ちや活動度は変わっていきます。在宅へ復帰するまでの限られた時間のなかで、一人ひとりの生活期のイメージを持ってリハを進めています。
 

義足で歩行ができるようになることが単にゴールではありません。
例えば、高齢の虚弱な方の場合、義足を装着して、自宅から歩行器や杖を使って、地域の交流の場や友人宅に出向き、自分の居場所を持ち、生きがいを感じることが大切であるからこそ、義足の歩行機能の自立が本人にとって意味を持つものになります。
働き盛りの方であればまた違った「活動」や「参加」がありますし、その人自身の人生、生活における、「環境因子」と「個人因子」を十分に捉えることがとても重要です。

膝継手「トータルニー2000」をリハで選ぶ理由
トータルニー2000を選ぶのは「膝折れしない」からですね。屋外では平面だけでなく、さまざまな路面を歩かなくてはいけません。安心して荷重をかけられて、安定して歩くことができ、かつ固定膝ではなくて膝もしっかり曲がる、そして個人に合わせて細かく調整ができる、そういったところがいいですね。
私が所属する義肢装具サポートセンターの特徴の一つとして、股義足( 腫瘍による股関節離断・骨盤半裁)の利用者が多いのですが、大腿部で随意的に膝継手に力を伝え制御することができないため、 膝継手の機能に依存することが多くなるんですね。
大前提として、切断者それぞれの生活像を捉えながら、公平な立場で膝継手の処方を行っていますが、股義足や反対側の下肢が弱い場合は安定を重視して固定膝か、またはトータルニー2000になることが多いです。
この4年間の大腿義足(約50名)で多軸・油圧制御膝継手を使用した方は32名でしたが、そのうち8割近い25名の方がトータルニー2000を使用しています。
 
生活面を見据えての練習
リハはワンパターンにならないことに気をつけています。室内レベルでの歩行ができてきたら、ステップアップしてどんどん外に出て、駅や人の多いところへ行ったり、そこでエスカレーターに乗ったり、さまざまな課題のある場所へ行くようにしています。
現在入院中の股関節離断の方は、買い物には基本的にリュックの使用が安全且つバランスを崩しにくいとの判断から、3キロくらいの荷物をリュックに入れ背負って歩き、体重移動もスムーズにできるかの練習を行っています。
 

東京都内ですと、電車通勤が必須となるケースも多いため、先日も電車への乗車と乗り換えの練習を行いました。多くの人の流れの中で、さまざまな課題をクリアしていかなくてはならないため難易度は非常に高くなります。
ソケットの適合もそのなかでチェックします。その方が生活ですることやしたいことができるようにしていきます。

細かく調整できるところがトータルニーのメリット
トータルニーは細かな調整ができるんですよね。荷重量、アライメント、可動域を考えながら、リハビリの過程のなかで膝継手を調整し、その方に歩み寄っていきます。
調整が幅広くできて、かつ膝折れがしにくい、ということがトータルニーを選んでいる理由ですね。
 
● シム
アライメントも見ながらですが、荷重が十分かけられず、膝継手を曲げにくい方は、シムを追加したり、枚数を変えるなどして膝を曲がりやすくしています。
 
● 伸展補助バネ
安全性を考えて、必ず伸展補助バネ、ほとんどの場合で一番強いバネを使います。義足が接地する時にしっかりと伸展していないと膝折れを起こしてしまうので、伸展補助バネの使用は必須です。
 
● バンパー
体重毎に硬さの異なるバンパーが推奨されていますが、体重がボーダーラインの方もいますし、また歩行を確認しながら、バンパーを変更することもあります。柔らかすぎるバンパーは沈み込みが大きくなり、反対側が前へ出るタイミングがずれたり、膝折れする懸念が発生したりしますので、バンパーを変更しながら歩行を見て、最終決定しています。

「固定に近い遊動」だから安心できる
筋力や基礎体力が落ちている方や可動域が狭い方の場合は、まず固定膝で歩行の土台を作ってから、その後トータルニーなどの遊動の膝継手へ移行するケースがあります。
ですが、トータルニーは非常に安定性を持たせた設定にできますので、「固定に近い遊動」の膝継手としてリハの初めから使用することもあります。
 
義足の調整は義肢装具士と連携しますし、リハの経過はケア会議やメール、口頭などで常に関連する専門職チーム(医師、看護師、ケースワーカー、義肢装具士など)と情報共有しています。
 
価格面でトータルニーを選択しないケースも
油圧制御のトータルニーの場合、義足の価格は50万円以上になりますので、初めの立て替え払いが難しい人にはトータルニーを選ばないこともあります。地域によっては判定機関が価格面や生活背景などを理由にトータルニーの許可が下りないケースもあります。
1本目の治療用義足では許可が下りたとしても、更生用義足ではトータルニーの許可が下りない場合があります。その可能性がある場合は、患者さんへも情報提供し、患者さんが安心できるよう、トータルニーと共に今後使用するかもしれない別の膝継手も試着してもらうようにしています。

義足が自分のものになるまで寄り添う
リハのなかでは、動作を身体で覚えていくことが大切ですが、自分自身が模擬義足を履いて動作を見せることもします。また患者さんの歩行を映像で撮ってそれを見ながら身体の使い方の練習をすることもありますね。スポーツ選手にコーチが伝えたい動作を映像を通して、フィードバックする過程に近いイメージですね。言葉ではなく、身体で覚えられるように、こちらも身体で表現して、感覚が伝わるようにしています。
「その人がどういう生活を取り戻したいのか」、をいつも考えていますね。患者さんとじっくりと話をして具体的にゴールをイメージし、実現できるように、と思っています。

若い理学療法士へメッセージ
義足リハに関わる理学療法士は絶対数が少ないのが現状です。おそらく全体の数%ではないでしょうか。切断者数は増えていますが、義足の処方は減っています。
義足が必要な方々が、義足処方されないまま退院し、当センターへ相談(義足での再リハ・義足作成)へくることも多くあります。
理学療法士は力学的な考えをベースにすることが多いのですが、動作分析 、 アライメント  (位置関係)、筋活動、病態を捉えた側面など から 取り組めば、義足リハは結果を出しやすいと考えています。
そして何よりも、 理学療法士だけではなく、医師や義肢装具士などの他職種との連携をするなかで、より良い結果を生むことができます。その連携が重要だという意識を持つことも理学療法士として大切なことだと思います。


「その人が何を大事にしているか、どういう生活を望んでいるか」
インタビューのなかで、岩下さまは何度もリハで大事にされていることを話されていました。
 
トータルニー2000の調整箇所の多さは、時に「わずらわしい」「面倒」と思われてしまうことがありますが、今回岩下さまにお話を伺い、一人ひとりに合わせて細やかに調整できるトータルニー2000の良さを改めて見直す機会となりました。
 
切断を乗り越え、それぞれの自分らしい人生に戻ることができるよう、リハビリテーションに寄り添う岩下さまからは終始、切断者の方への真摯な思いが伝わってきました。

30年以上にもわたって多くの切断者の方々の生活を支えているトータルニー2000。
義足に関わる専門職の方々にぜひ一度手に取っていただきたいです。
 
義肢装具士の方向けに、無料の試着機をご用意しておりますので、以下までお気軽にお問合せください。
 
電話: 072-875-8011(パシフィックサプライ株式会社)
メールによるお問合せ: https://www.p-supply.co.jp/ossur/catalog/contact_form/
 
トータルニー2000の製品情報の詳細WEBページ
https://www.p-supply.co.jp/ossur/catalog/knee/hans/2000.html


(事業開発本部 松井由起子)

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