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感覚統合Update 第8回:感覚統合の評価 - 症例を通して -

感覚統合

感覚統合Update 第8回:感覚統合の評価 - 症例を通して -

関西医科大学リハビリテーション学部 作業療法学科 加藤 寿宏

2022-12-01

第7回は感覚統合の評価プロセスと標準化された感覚統合検査について話をしました。第8回は症例を通して感覚統合の評価について話をします。今回は、評価から解釈までのプロセスを解説していくため、この回を最初に読む方は、かなり難しいかもしれません。前回までの内容を見返しながら読んでいただければ幸いです。

感覚統合の評価プロセス

前回、感覚統合の評価プロセスは、1.情報収集、2.遊びの観察、3.検査の実施、4.評価結果の統合と解釈、5.治療目標・治療プログラムの立案 に分けることを説明しました。今回は、このプロセスに従い、かずや(仮名)くん 7歳の感覚統合の評価を解説していくことにします。なお、情報収集、評価結果などは、実際とは内容を変えています。かずやくんを担当する作業療法士は、りえこ(仮名)さんです。
 

1.情報収集
かずやくんは、地域の小学校(通常の学級)1年生の男の子です。4歳の時に自閉スぺクトラム症の診断をうけていますが、これまで療育や感覚統合療法をうけたことはありません。
成育歴は妊娠・出産時に問題はありませんでしたが、運動発達は全体にゆっくりで、首がすわる6か月、四つ這い1歳、歩行1歳4か月でした。乳児期はおとなしく手がかからないお子さんで、幼稚園でも一人で遊び他児と遊ぶことは少なかったそうです。
記憶力がよく2歳で絵本は3回聞いたら、すべて覚え、4歳でひらがなはすべて読め、すべて書けたそうです。その一方で、運動は苦手で外で遊ぶことはほとんどなく、文字が読めるようになってからは本をずっと読んでいました。手先も不器用で幼稚園の制作や絵を描くことは苦手でした。小学校では、算数や国語などの教科は得意ですが、図工と体育は苦手、休み時間は友だちとは遊ばず、図書館で本を読んでいることがほとんどだそうです。
ご両親の気になっていることは、1.運動が不器用  2.準備が遅い  3.食べ方がきたない でした。気になっていることをご両親に詳しく伺うと、「運動は、走る、鉄棒、ボールなど、体育で行うすべての活動が苦手で、特に新しいことはやりたがらない。外に遊びに行ってもすぐに疲れて家に帰りたがる」「手先も不器用で、工作はもちろん、箸を使う、ボタン、ジッパーをとめるなども苦手で、親に頼むこともある」「食べこぼしは、箸の操作もあるが、食べている時もおしゃべりが止まらないため、口からの食べこぼしも多い」「朝起きて学校に行くまでの準備は、不器用なこともあるが途中で遊んだり、話をしはじめて遅くなる」と話してくれました。
かずやくんは、「学校は勉強するところなのに、図工と体育があるのはおかしい。なくなった方が良い。」「図書館の本を全部読みたい」と話してくれました。最初は困っていることやできるようになりたいことは、「特にはない」と言いましたが、詳しく聞いていくと「体育はすぐ疲れるし、うまくできない」「はさみや紙を折るのが苦手、色を塗ると手が疲れる」ことを話し始めました。
りえこさんは、ご両親に「運動が不器用」に関して感覚統合評価を行い、感覚統合療法の適応を判断することを伝えました。
 
2.遊びの観察
かずやくんは、はじめての場所や初対面のりえこさんに特に緊張することもなく、部屋にある遊具を「これは何かな?」「これはおもしろそうだな」「これは、乗れるのかなあ」と言いながら、部屋をウロウロしていました。
「どれでも遊んでいいよ」と伝えると、縄梯子に登りはじめますが3段ぐらい上がったところで「怖いなあ」と言い、降りました(図1)。オーシャンスイングは、立って乗り動かそうとしますが、上手く操作できませんでした(図2)が、りえこさんが「立つ以外にどんな格好で乗れるかな」と言うと、自分から様々な姿勢で乗り、その乗り方にりえこさんが「ヒップジョイントアブダクション乗り」などの複雑な名前をつけることを楽しみました(図3)。揺れが大きくなり、姿勢が不安定になることは怖がりますが、前庭感覚そのものへの過剰な反応はありませんでした。また、りえこさんがかずやくんに触れることに関しても嫌がること、くすぐったがることはありませんでした。

図1 縄梯子を降りる

図2 オーシャンスイングを漕ぐ


 

図3 様々なオーシャンスイングの乗り方


3.検査の実施/結果
りえこさんは情報収集や遊びの観察から、かずやくんの運動の不器用の背景に行為機能障害(本シリーズの第4回~第6回を参考にしてください)の可能性があると考えました。行為機能は観念化(ideation)、行動計画の過程(planning a course of action)、遂行(executing the action)の3つのプロセスに分けることができますが、りえこさんは、オーシャンスイングの遊びの場面から、行動計画の過程(中でも身体運動レベルの順序だて;body level sequencing)に難しさがあると考えJPAN感覚処理・行為機能検査(JPAN)を用いて評価を実施することにしました。
また、感覚調整障害は感覚に対する過剰反応よりも低反応や感覚の識別障害の可能性があると考え、日本版感覚プロファイルの記載をご両親にお願いしました。
さらに、認知機能検査として日本版WISC-Ⅳ知能検査を実施することにしました。
 
1)認知機能検査 日本版WISC-Ⅳ知能検査
かずやくんの、全検査IQは132(平均は100)と非常に高い結果となりました。特に言語理解は131、ワーキングメモリは141と非常に高いスコアであり、2歳で絵本は3回聞いたら、すべて覚えたという言語の記憶力の高さを裏付ける結果でした。逆に処理速度は102と平均でしたが、かずやくんの中では最も低い値でした。
 
2)日本版感覚プロファイル(第7回:感覚統合の評価 - 評価のプロセス - 参照)
日本版感覚プロファイルの4象限は、低登録「非常に高い」でしたが、感覚探求、感覚過敏、感覚回避は「平均的」でした。遊びにおいても、感覚に対する過剰反応や感覚刺激を自分から求める行動は、観察できませんでしたので、感覚プロファイルの結果は妥当なものであることがわかりました。
一方、登録は感覚刺激に対する問題そのものよりも、「耐久性・筋緊張に関する感覚処理」に関する質問項目のスコアが高い状態(日本版感覚プロファイルの結果はスコアが高い方が問題が大きいことを意味します)でした。このため、かずやくんの臨床像は、感覚刺激に対する低反応よりも筋緊張や姿勢・運動の耐久性が関連している可能性が考えられました。
 
3)JPAN感覚処理・行為機能検査(以下JPAN)
JPANは3回に分けて実施しました。言語理解は問題ありませんでしたが、検査道具を見ると「いいこと思いついた」「これは、こうして遊ぶやつ」など、検査道具を取って遊びはじめることが多くありました。
検査結果は、姿勢・平衡機能-1.6、体性感覚-1.5、行為機能-3.0、視知覚・目と手の協調-1.6という結果でした。JPANは、平均が0でマイナスは同年齢の子どものスコアの平均よりも低いスコアを表し、-1.0以下のスコアの場合、障害の可能性を示唆します。かずやくんは4領域すべてで、-1.0以下でした。
姿勢・平衡機能の検査は、重力に逆らった(抗重力)姿勢保持と片足立ちなどの姿勢バランスの検査が含まれます(図4)。かずやくんは、これらの検査が困難でした。体性感覚の検査は触覚と固有感覚が含まれますが、硬さや大きさを識別する固有感覚の検査がより困難でした(図5)。
JPANの中でも行為機能領域の検査は、他の領域に比較し、スコアが低い結果でした。JPANに含まれる行為機能の検査は13と多く、両側運動協調、シークエンス、身体図式など、行為機能と関連する多くの要因を評価できます。かずやくんは、この中でも特に、身体図式に関する検査と、両側運動協調とシークエンスに関する複数の検査のスコアが低い結果となりました。また、舌や口唇の模倣も困難でした。図6にスコアが低かったいくつかの検査を示します。
JPANの視知覚・目と手の協調の検査には、視知覚と目と手の協調の2種類の能力を評価する検査が含まれています。かずやくんは、視知覚の検査は問題がなく、目と手の協調の検査である「ぶたさんの顔」が低いスコアでした(図7)。



JPAN感覚処理・行為機能検査マニュアル より
図4 かずやくんが困難であったJPAN姿勢平衡機能領域の検査
左:抗重力姿勢保持検査「ひこうきになろう」、右:姿勢バランス「フラミンゴになろう」


JPAN感覚処理・行為機能検査マニュアル より
図5 かずやくんが困難であったJPAN体性感覚領域の検査
左:硬さの識別検査「にぎりくらべ」(利き手のスポンジと同じ硬さのスポンジを、硬さの異なる6種類のスポンジから非利き手で選択する
右:大きさの識別検査「同じコインはどれ」(利き手の円柱と同じ大きさの円柱を、大きさの異なる6種類の円柱から非利き手で選択する



JPAN感覚処理・行為機能検査マニュアル より
図6 かずやくんが困難であったJPAN行為機能領域の検査
左:身体図式「かっこよくまねしよう」(できるだけ早く正確に、写真のモデルの児と同じ姿勢となる)
中:両側運動協調とシークエンス「けがして大変」(非利き手の手首につけたロープを利き手で巻きつける時間を計測する)
右:「顔まねゲーム」(写真のモデルの児と同じ舌、口唇の運動を行う)



JPAN感覚処理・行為機能検査マニュアル より
図7 かずやくんが困難であったJPAN視知覚・目と手の協調領域の検査
目と手の協調「ぶたさんの顔」(はみ出さないよう正確に、線を引いていく)


 


4.評価結果の統合と解釈
かずやくんの運動の不器用さは評価結果から、重力に抗した姿勢保持や姿勢バランスの難しさや、行為機能の問題に原因があると考えました。
重力に抗した姿勢の保持や姿勢バランスは運動の土台となるため、運動の持続力や走る、跳ぶなどの運動の基礎能力に影響を及ぼします。さらに、鉄棒や球技は姿勢平衡機能に加え、運動の時間・空間協調(タイミング)が重要となります(鉄棒であれば蹴り上げると腕を引きつけるタイミングなど、球技であればボールをリリースするタイミングなど)。これは、「第6回:行為機能障害とは? - 行動計画の過程 -」で解説した行為機能の行動計画の過程(planning a course of action)に含まれる身体運動レベルの順序立てに相当します。かずやくんのJPANの行為機能領域の結果はどうだったでしょうか。身体運動レベルの順序立てに関連する両側運動とシークエンスのスコアが低い結果となっています。
さらに、行為機能の基盤となる身体図式(第5回:行為機能障害とは? - 身体図式(body schema)- を参考)も曖昧であるため、ご両親が「特に新しい運動はやりたがらない」とお話しされているように、不慣れな新しい運動は、苦手であると思われます。
オーシャンスイングに、様々な姿勢で乗る場面や検査道具を見て、様々な遊びをはじめる場面は、観念化が豊かであり、その基盤となる身体図式も問題がないというように考える人もいるかと思います。
しかし、オーシャンスイングで乗る姿勢として、足を開いて乗る姿勢やうつ伏せでひもに足をからめる姿勢は、オリジナリティーが高く面白いのですが、遊び(自分で遊具を主体的に操作していく)として発展していくための姿勢としては適切であるとは言えません。また、その多くは、スィングのロープに手足を絡めるパターンを変えることで行っており、多様性があるとは言えません。検査道具も「にぎりくらべ」のスポンジを枕にして頭をあてる、「けがして大変」のロープをぬいぐるみの首にまいて、散歩させるなど、日常生活で行っていることに見立て、遊んでいました。
かずやくんは知的に非常に高いお子さんですので、生活の中で経験したことを記憶し思い出すことは可能です。そのため、物の特性に焦点をあてた発想(観念化)は浮かぶのですが、自分の身体図式と照合することが難しいため、自身の身体を操作しなければ遊べない遊具が多い部屋では、最初の場面で見られたウロウロする行動や遊びとして発展していかない(自分で遊具を主体的に操作していく)などの行動になると考えられます。
かずやくんには、手先の不器用さもありました。手先の器用さには目と手の協調の他、左右の手の協調も必要となります。工作やボタン、ジッパーなどは片手ではなく両手を協調して使用しなければなりません。また、手の力加減の調整も手の器用さには必要で、その調整には固有感覚が重要な役割を果たしています。かずやくんのJPANの検査結果は、手の器用さと関連する、目と手の協調、両側運動協調、固有感覚いずれもスコアが低い結果となっていました。
 
5.治療プログラムの立案と実施
かずやくんのご両親の主訴である「運動の不器用さ」は、感覚統合の評価により姿勢平衡機能、行為機能(特に身体運動レベルの順序立て)、身体図式、固有感覚の問題に起因しており、感覚統合理論に基づき臨床像を解釈できると考えられます。ここから、どのような治療プログラムを立案し感覚統合療法を実施していくのかは、第10回の最終回で解説したいと思います。次回の第9回は、いよいよ感覚統合療法についてお話しします。

執筆者プロフィール

加藤 寿宏
関西医科大学 リハビリテーション学部
作業療法学科 教授
関西医科大学 リハビリテーション学部
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【専門】
 発達障害の作業療法
 感覚統合療法
 
【資格】
 専門作業療法士(特別支援教育)
 公認心理師
 日本感覚統合学会認定セラピスト
 特別支援教育士 SV

 
【学会】
 日本感覚統合学会副会長、講師
 日本発達系作業療法学会会長

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