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パシフィックニュース

関節の拘縮・変形の予防を目的としたスプリント療法のポイント

スプリント

リハビリテーション

関節の拘縮・変形の予防を目的としたスプリント療法のポイント

医療法人 同信会 福岡整形外科病院
栗木康介

2023-03-15

はじめに~拘縮とは~

『拘縮』とは「関節、筋、あるいは軟部組織に起因して関節可動域が制限されること」と述べられており、病理的には皮膚、皮下組織、筋膜、靭帯、関節包等が瘢痕化、または癒着したものと定義されている。
ハンドセラピィ領域での拘縮は①皮膚性拘縮、②骨性拘縮、③関節構成軟部組織性拘縮、④腱性拘縮、⑤筋性拘縮、⑥神経性拘縮の6つに分類され、各拘縮によって原因組織が異なる。この原因は各拘縮に1つのみ当てはまるものではなく、2つ以上の原因が混在していることが多い。そのため、発生してしまった拘縮に対してスプリントを作製する場合、各拘縮の原因を的確に評価することが重要である。
拘縮が生じることで痛みや可動域制限から日常生活内での患手の使用が制限され、我々の目標としている『Useful hand(生活する手)』を獲得することが困難になる。そのため、いかに拘縮の発生を予測し、予防するかがセラピィやスプリントを作製する上で重要になる。

スプリント療法の目的

セラピストが行うスプリント療法には①固定・支持・安静、②伸張・矯正、③予防、④代償、⑤訓練、⑥模擬の6つの目的がある1)。この6つの目的を踏まえて、対象者の病態や障害を的確に判別してスプリントを作製することが重要である。その中でも②伸張・矯正用スプリントは主に拘縮した関節に対して用いるが、拘縮の改善には多大な時間を費やす。そのため、拘縮の発生を予測した上で③予防用スプリントを用いることが重要となる。
今回、我々セラピストの最大の問題点である『拘縮』を発生させないために作製する“拘縮予防用スプリント療法”のポイントについて述べる。

拘縮に対するスプリント療法

近年、手外科専門医による外科的手技の進歩により、強固な内固定や縫合法が確立され、術後の安静・固定期間は短縮されている。それに伴い、セラピストも術後早期から可動域運動を開始し、拘縮が起こらないように予防する治療計画が立案されるようになった。スプリントも拘縮を『改善』させるスプリントよりも、拘縮を『予防』して、早期運動療法を行うスプリントの作製数が増えている。
野中ら2)によると、10年前と比較すると拘縮矯正用スプリントの作製数は減少し、修復保護、早期運動療法用スプリント作製数の割合は2倍以上に増加したと報告している。大山ら3)も拘縮矯正に代わり、拘縮予防用スプリントが台頭してきたと報告している。我々の報告4)でも、拘縮矯正用スプリントの割合は近年減少傾向にある。このような背景からも、早期運動療法を確立するためのスプリントや、拘縮を予防するためのスプリントは需要が増加していると考えられる。

関節拘縮の予防を目的としたスプリントの作製ポイント2)

①術後や受傷後による拘縮の予測
術後の外固定は、修復組織の治癒に影響を与えない部位により段階的に除去し、可及的に早期運動を行うことで拘縮を予防する。スプリントを作製する前には病態の把握が必要である。まず受傷時の外力を受けた部位、強さ、時間などを考慮して、将来発生しやすい拘縮や、その程度を予測する。さらに、修復された主要組織だけでなく、周囲組織も損傷して拘縮に陥る可能性があることを考慮する必要がある。
 
②固定関節を限定する
拘縮予防用スプリントを作製する場合、製作者は手の機能解剖学的根拠に基づき、固定すべき関節を限定して作製する必要がある。不要な関節まで固定することにより、不必要な拘縮を生じさせてしまうことがあるため注意が必要である。

③患者教育
術後早期の修復組織が治癒する前から装着するため、患者教育が非常に大切である。取り外しが可能であることから、禁忌事項を遵守できずに独自の判断で着脱することもある。そのため、損傷部位や修復過程などを詳細に説明し、取り扱いや装着意義を理解した上で装着してもらうことが重要である。
 
④スプリントの修正を定期的に行う
術後経過により腫脹が軽減し、指にスプリントがフィットしなくなることがある。フィット感がないと装着を拒否されるため、熱可塑性スプリント材の利点を活かして、定期的な修正を行う必要がある。

実際のスプリント例

図1

〈中手骨骨折に対するナックルキャスト〉
(アクアフィット 厚さ2.4mm穴なしを使用)


 
・中手骨骨折に対するナックルキャスト
<診断名>
第5中手骨骨折
<予測できる拘縮>
小指MP関節伸展拘縮
<スプリントの目的>
MP関節を屈曲位に固定し、骨折部への応力を減じながらPIP、DIP関節の自動運動を安全に行うことができる。
MP関節を伸展位固定にすると、関節構成軟部組織性拘縮と筋性拘縮が同時に生じる可能性がある。そのため、MP関節を屈曲位で固定することが重要である。さらにMP関節を屈曲位固定にすることで、掌側を通過する骨間筋は弛緩し、骨折部に対する応力は減じ、整復位を維持することができるため5)、安全にPIP・DIP関節の自動屈曲も行える。さらに4指を同時に屈曲することで、Overlapping fingerも予防することができる6)。(図1)

 
図2

〈スワンネック変形に対するring splint〉
 
・スワンネック変形に対するring splint
<診断名>
ジストニアによるスワンネック変形
<予測できる拘縮>
示指PIP関節伸展拘縮、DIP関節屈曲拘縮
<スプリントの目的>
示指PIP関節を軽度屈曲位にして、指背腱膜のアンバランスを矯正する。骨間筋、虫様筋の過緊張により、伸展力がPIP関節に対して強く生じており、DIP関節への伸展力は乏しくなっている。スプリントにてPIP関節を軽度屈曲位にすることで、PIP関節に生じていた伸展力をDIP関節に促すことができる。(図2)同時に骨間筋、虫様筋のストレッチを行い、筋張力の改善を促す。

参考文献

1)矢崎潔:スプリントの目的.手のスプリントのすべて.第2版、53-60、三輪書店、2002
2)野中信宏ほか:手外科の進歩とスプリント療法.日本義肢装具学会誌 vol.31 2015
3)大山峰生ほか:スプリントの発展の経緯と今後の課題.日本義肢装具学会誌 vol.30 2014
4)栗木康介ほか:手外科クリニックでの装具療法の実績-近年の傾向と手外科クリニックの特徴-第10回九州ハンドセラピィ研究会学術集会
5)中島英親:手の骨折に対する保存療法のコツ.Orthopaedics 19:53-62、2006
6)石黒隆ほか:指基節骨および中手骨骨折に対する保存治療-MP関節屈曲位での早期運動療法.日手会誌11:156-159、1994

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