パシフィックニュース
2023年3月11日開催 第2回支援機器×ICTで広がる可能性
AAC(コミュニケーション)
就労支援
障害学生のキャリアやサポートの現状と就職活動に役立つ情報を紹介!
パシフィックサプライ株式会社 事業開発本部
作業療法士 藤島 隆二
2023-06-15
3月11日(土)パシフィックニュース連動企画、第2回「支援機器×ICTで広がる可能性~就労への取り組み~」をオンライン開催しました。
本フォーラムは、就労を目指す障害がある方や支援者の皆さまへ、支援機器×ICTを活用して行える活動をお伝えすることを目的に開催しています。
前回は様々な立場の方から活用例について発表していただきましたが、今回は障害のある学生の就職活動に焦点を当てたフォーラム開催となり、奥山俊博氏(東京大学先端科学技術研究センター・学術専門職員)、窪 貴志 氏((株)エンカレッジ・代表取締役)にご登壇いただきました。
初めに(障害者雇用の現状と課題)
窪:障害者雇用の数はこれまで右肩上がりになっており、今後も拡大していくことが予想されます。障害のある方が高等教育機関(大学・短大・高専)に進学する割合も年々増えており、就労移行支援在籍者や特別支援学校高等部在籍者と同等になりつつあります。このように社会に出ていく人の規模が拡大しているのが現状です。一方、企業の障害者法定雇用率は現在2.3%ですが、2024年には2.5%、2026年には2.7%に上がることが昨年決定しました。
これからは従来の働き方だけではなく、いろいろな方々が多様な働き方を模索し、企業もその受入れの準備をしていくことが求められてきています。そこで支援機器やICTがどのような役割を果たすのかが一つのテーマとなってきます。今回は、障害学生のキャリアやサポートの実態は現状どのようになっているのかを奥山先生にお話を伺いながら、進路の選択肢・企業へのコンタクト方法・入社後の働き方・会場の皆さまとの質疑応答・オンラインで仕事の疑似体験紹介という流れで進行していきたいと思います。
1. 障害学生のキャリアやサポートの現状
窪:障害学生のキャリアやサポートの現状についてですが、下記の図は学生支援をされている方であれば多くの方が目にしたグラフだと思います。障害学生数は日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、平成18年度の4,937人から右肩上がりに推移し、令和3年度では40,744人となっています。これはあくまでも数字だけの話なので、実際に活動されている奥山先生から、今の学生の実態やどのような課題を抱えておられるかをお聞きしたいと思います。
奥山:平成18年度当時の障害学生数は、5000人に満たなく、通学や大学内での介助も得られにくい状態でした。また、学生が大学を選ぶ際の選択肢として「家から通学できる」ことが第一選択肢になっていることが多く、親に介助してもらわないといけない現状から、実家から通うことが当たり前でした。本来であれば、何のために大学に行くのか、大学で何を学ぶのかを考えることが基本になければならないのに大学を選ぶ目的がずれているかなと思いました。
現在は、大学の中に障害者学習支援室があり通学や学習に対する環境が整備されてきましたが、一般の学生が当たり前に行っているサークル活動やアルバイト、就職活動に対する環境は整備の進度が遅く、4万人の障害学生の中でアルバイトの経験ができない学生が多いのが現状です。
例えばアルバイトに応募する際、自分の困難さが業務にどのように関係するのか自分で判断するのが難しいため、どのような仕事に応募すれば良いのか、また、応募や面接でどのように伝えれば良いのかが分からないという悩みを抱えています。
アルバイト経験がないということは、例えば発達障害系の学生が応募をした時に、相手にどこまで自分の障害の困難さについて伝えて良いのか分からないですよね。
私も事務局のメンバーとして関わっているDO-IT Japan※1では、自分の困難さをどのように伝えたら良いかやカミングアウトについてなどを、プログラムを通して学べる機会を提供しています。
窪:そうですよね。そういう意味では社会の接点の部分で社会移行が進んでいかない面は、今のお話に象徴されていますね。
※1 DO-IT Japan https://doit-japan.org/
2007年に東京大学中邑研究室で立ち上がった活動で、毎年10名ほどの中高生の参加者を募り、スカラープログラムへの参加を通して、進学や就労に対して自分に必要なものを考える機会を提供されています。
2. 進路の選択肢
窪:障害学生が進路を決めていく際、多くの学生は自分以外が健常者という環境で過ごしてきたために、一般就労が当たり前だと思っている方が多くいます。障害者だからといってすべてが障害者雇用ありきで就活をする訳ではないと思います。奥山先生がご存知の範囲で結構なのですが、皆さまどのような選択肢をとられていくのか、進路を決めていくのか、また進路を決めていく中で大切なことやお気づきの点があれば教えてください。
奥山:障害者手帳を持っているのであれば、障害者雇用という選択肢を就職活動の一つとして入れることや、重度身体・精神障害者であれば障害基礎年金があるので、給料は減りますが週3日だけ働くなど就労時間を短くするという選択肢も考えられます。
一方、障害者手帳を持っていない学生の場合は(発達障害等)手帳を取得するかどうかを悩む方や、自分の障害を就職の面談時にどの程度伝えれば良いか、どこまで受け入れてもらえるのかを悩む学生が多くいます。この場合、先輩の経験(一般雇用、障害者雇用、また自分の働き方を就職先と一緒に考えていくケース)を見聞きする機会や、話し合う機会があれば、自分にとっての就職をリアルに考えることができるようになります。
窪:今仰っていただいたような選択肢もそうですし一人ひとり葛藤もおありだと思いますが、ご本人が進路を決めていく中で、ここは大切にしたほうが良いなと思われるポイントやメッセージがあれば教えてください。
奥山:そうですね。無理をしすぎないで進んでいただけたら良いなと思います。一般雇用にしても障害者雇用にしても、障害がある方が働くというのは高等教育機関で学ぶ環境よりも身体的にも精神的にもストレスがかかります。それにより体調を崩し数年で退職せざるを得ない状況になることがあるため、そうならないように自分にとって無理のかからない方法を考えることが重要となります。学生生活においても4年で卒業することをゴールとするのではなく、初めから5年計画にすることや体調を崩す前に半年休学するなど、自分に合った学びを考えて実践している学生もいます。
窪:今、地方で生活している重度身体障害の学生を就労支援しているのですが、在宅就労を希望されており地方で受け入れてくれるところがなく苦戦しています。このコロナ時代になって今回の支援機器とかICTも絡んでくるのですが、実はまだまだ在宅就労であれば働ける方も多くいらっしゃるのではないかと思います。何か皆さまの希望となるような事例があれば教えてください。
奥山:就労形態を考える際、選択肢の一つとして在宅就労が考えられます。ヘルパーを利用して通勤が可能であっても、在宅就労の方が良いのではないかと考える方がいます。しかし大学で学ぶことは、単に知識を学ぶだけではなく、相手の顔を見ながら皆と議論したり、その議論を深めたり、同じ場所を共有する大切さがあります。大学で皆と話すことに意味があるのと同様に仕事の面でも、働きやすさだけを考えるのではなく、同僚と一緒に食事に行く場面であるとか、月に1回の出勤でも良いので職場で皆と会ってできる環境を取り入れることが望ましいと思います。在宅就労が重度身体障害者にとって楽だというのは分かるのですが、完全な在宅でのコミュニケーションの希薄さよりは、通勤できる日もあって、在宅でも働けるやり方が良いのかなと、私は、学生さんたちと話して思っていて、働く楽しさにつながるように思います。
窪:そうですね。重度だから短絡的に在宅就労を勧めるのではなく、働きやすさだけではなくて、働く中で何かを得たり、いろんな人たちからの学びがあります。単純に働きやすさの視点だけではないということですね。
3.企業へのコンタクト方法
就職活動の方法として3通り考えられます。
1.企業ホームページ情報やメディア、ハローワーク、人材紹介などを通して一人で進める
2.就労移行支援や就業・生活支援センターなどの公的機関を使い伴走者と一緒に進める
3.周りの人とのご縁を広げて就職先を見つける
奥山:高等教育機関の障害学生は就職担当の先生に相談しますが、個々の困難さが違うために就職担当者でも、どんな企業を紹介すれば良いのかが分からない場合も多くあります。また就職が内定しても実際にどれだけ働けるのかが学生も企業側も分からないという心配が出てきます。その場合、無理なく働ける環境の企業や特例子会社を選択肢に入れてみてください。先にその環境で働き、自分に合った仕事環境を見つけ、自信をつけ、生活が安定してから希望する企業に転職するという方法もあります。
窪:企業の立場からのお話も聞いてみたいと思います。パシフィックサプライさんでは、これまで就労移行事業所や特別支援学校から就職された方や、人とのつながりやご縁によって就職された方も沢山いらっしゃると思います。いかがでしょうか。
パシフィックサプライ藤田: 就労移行事業所からきた実習生で採用になった方は多いです。自閉症の社員で20年のキャリアがある人もいます。また人とのつながりやご縁によって就職が決まった方の例ですが、福祉展示会や学会など発表する場での出会いから入社された方がいます。初めは英語が得意、パソコンが得意といった話から、弊社が海外製品を多く取り扱っているので「弊社で英語のスキルを活かして翻訳の仕事をしてみないか」と、話が進んでアルバイトの後に本採用に至りました。
奥山:就職説明会でも前向きに話を聞いてくれないことがありますが、自分が就職する時に使える制度を知っておくことで、自分から企業側に使える制度を提案することができます。JEED(高齢・障害・求職者雇用支援機構)※2のホームページでは企業側と雇用される側の両方の立場の情報がありますので、そういった情報を活用してみると良いでしょう。
※2 JEED:高齢・障害・求職者雇用支援機構 https://www.jeed.go.jp/
4.入社後の働き方・支援機器×ICTの活用で広がる可能性
窪:JEEDのホームページには支援機器に関する情報が沢山掲載されています。トップページ右上のサイト内検索で「支援機器 視覚障害」などと検索すると事例がでてきます※3。
また、貸し出しや販売の情報も記載されていますので、選択肢が増えると思います。
この他にもAT2EDにおいても支援機器の情報が1,000製品以上掲載されています。
支援機器を購入する場合、自分に合った製品なのかの見極めができないと、特に高価なものを買うのを躊躇すると思います。支援機器は沢山あるので、初めはイメージがつきやすく設定が簡単なものから購入してみることや、貸し出しで試してみることをお勧めします。また、ジョブコーチやリハビリの先生などと一緒に考えることも有効です。パシフィックサプライさんでは、レンタルできるサービス(パッとレンタル※4)もあります。
パシフィックサプライ岡田:パシフィックサプライでは、コロナ禍で在宅勤務者が増えていった際、肢体不自由者の在宅勤務環境を整えたことがありました。それまでも、手指がうまく動かないためパソコン入力に様々な支援機器を活用していましたが、在宅勤務環境を整える上では一般に市販されているスマートスピーカーが役に立ちました。
その事例から、スマートスピーカーがVOCA※5で操作できることや、それが他の障害のある方にも活用できるということが分かりました。その事例は、昨年のフォーラムでも発表させていただきました。今後は支援機器のみではなく、一般製品の活用方法や、組み合わせた使い方をするように発展していくと思います。
窪:パシフィックサプライさんでは支援機器を使う人はどのような方が多いですか?
(岡田):やはりユーザーさまやご家族の方が多いです。支援機器のお試しができる貸し出しは他の業者、メーカーも1週間か10日間位は無料でやっています。ただ、ユーザーさまの中には購入前にじっくりと試してみたいとの声も多いことから、パシフィックサプライでは、有料で月単位でレンタルできる「パッとレンタル」の制度を行っていて好評をいただいています。
※3 就労支援機器の展示・説明・貸出制度について(JEED)
https://www.jeed.go.jp/disability/employer/copy_of_kiki_setsumeikai.html
※4 パッとレンタル https://www.p-supply.co.jp/service/rental.html
※5 VOCA:音声を出力するコミュニケーション機器
パシフィックサプライ取り扱い製品(AbleNet)
https://www.p-supply.co.jp/products/?act=list&cid=14
5.会場の皆さまとのやり取り
質問1
私は重度肢体不自由とパニックがあり、現在通信大学1年ですが、今後どのような就職活動を行えば良いのか分からないです。就活支援機関などを教えていただきたいです。回答
奥山:家族と生活しているのであれば、週末にヘルパーを利用して外出してみることや、福祉サービスの利用を含めてどのような生活ができるのかを学生のうちに試してみると自由度が広がると思います。窪:大学の1・2年生で障害のある方に対して就職活動を支援してくれるところは学外ではほとんどないので、学校にキャリアセンターや障害学生支援室のようなところがあれば、そこに聞いてみるのも良いでしょう。
質問2
私は障害のある方の就労支援に携わっています。重度障害者向けのリモートワークでの職業体験が拡がると良いなと思っています。すでに実践されている事例や企業などがあればご教示お願いします。回答
奥山:DO-IT Japanでは特定の社員の1日の働き方に密着して観察・交流するジョブシャドウイングという形での職場体験をリモートで提供しています。また、障害のある学生向けのインターンシップを提供してくれている企業(IBM、マイクロソフトなど)があります。東京都であれば補助事業として東京コロニー※6というところでIT技術者在宅養成講座を長年行っており、就労に向けて自分にとって何ができるようになったら良いのかを教えてくれるコースがあります。
窪:Googleが提供している就業型人材育成プログラムというのがあります。これはデジタル分野の人材育成をオンラインで行い、会社から給料が発生するシステムです。
このように正社員雇用ではないが、給料をもらいながらオンラインで就労訓練する形が今後増えてくると思います。
※6 東京コロニー(IT技術者在宅養成講座)
https://www.tocolo.or.jp/syokunou/kyoiku/index.html
6.やりたいことを見つけるためにオンラインで仕事の疑似体験
窪:就職にしてもアルバイトにしても未経験なことに対してイメージが持てない学生が多くいます。仕事に触れて社会を知る機会としてICTを活用して疑似体験できるオンラインしごと体験※7という企画を用意しています。
企業に行かなくても会社でどんな仕事が行われているのか、30種類以上の企業で実際に行われている仕事を自宅のパソコンで30分から模擬的に体験できます。いつでもどこでも企業で働くことをバーチャルで体験できます。沢山の企業から協力をいただきました。このようなこともICTがもたらす可能性かなと思います。是非活用してください。
※7 オンラインしごと体験 https://shigoto-taiken.com/
窪氏が運営する株式会社エンカレッジとNPO法人JAEが運営しています
パシフィックニュース(国際福祉機器展2022 オンラインしごと体験)
https://www.p-supply.co.jp/topics/index.php?act=detail&id=786
おわりに
奥山:大学までは合理的配慮が得られ、入試も受けやすくなり学ぶ機会が増えてきましたが、その先にある就労や生活の過ごし方が人生をさらに豊かにしてくれるのだと思います。自分がどのように楽しく生きていきたいのか、何をしたいのかを考えながら取り組んでいただければと思います。
登壇者プロフィール
奥山 俊博 氏(東京大学先端科学技術研究センター・学術専門職員)
大学院修了後、製造企業に就職。その後「ダスキン障害者リーダー育成海外研修」で渡米し、子どもたちへのICT技術を活用したコミュニケーション支援に関わる。帰国後、退社して自らAT(アシスティブテクノロジー)エンジニアの活動を始め、2002年より現職。障害者が使えるICT等のリソースを掲載した『福祉情報技術(e-AT)製品ガイド』の編集、障害のある学生の進学を通じたリーダー養成プロジェクトDO-IT Japanに関わる。
窪 貴志 氏((株)エンカレッジ・代表取締役)
企業への障害者雇用コンサルティング等に関わりながら、2013年株式会社エンカレッジを創業。働きづらさを抱える若者の就職・キャリア支援や、障害者雇用を行う企業への採用・定着サポートなどを展開。その革新的な取り組みは多方面から注目を集めている。
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