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黒石塾: ソケット技術の原点を学ぼう

義肢

黒石塾: ソケット技術の原点を学ぼう

大腿義足四辺形ソケットの採寸~採型まで

川村義肢株式会社 セントラル・来社事業部
義肢装具士 黒石 義明

2023-08-16

黒石塾のはじまり

私は、昭和52年に川村義肢に入社いたしました。それから義手、義足の製作に携わり45年になります。その間、様々なソケット理論が学会等で報告され、日本の義肢が発展してきました。しかしながら、新しく開発されたものがすべての使用者にとって最適とは限りません。昔ながらのソケットを愛用している方もいらっしゃいます。私は、義肢の使用者にとって最適なものを提供することが義肢装具士の大切な任務であると思っています。そしてそのためには、ソケットの歴史を踏まえて製作に臨む必要があると思い、黒石塾の中でお伝えすることにしました。

大腿義足ソケットの歴史

大腿義足ソケットの歴史をみてみましょう。
昭和30年以前は、差し込み式ソケット(通称バケツ型)が主流で、肩吊りバンド、腰バンド、股吊りバンドを取り付けていました。
その後、故飯田卯之吉先生によって欧米式のノウハウが解析され、1975年頃から吸着式、四辺形ソケットが作られるようになりました。吸着バルブを用いて、自己懸垂型にし、体重支持は坐骨支持です。
1980年頃からは、坐骨支持一点集中の考え方から、断端末を含む断端全体で体重支持を行う方向に変わってきました。

1975年以来、複数の研究者によってAP寸法が長く、逆にML寸法を短くしたデザインが発表され、坐骨はソケット内部に収まってゆるく支持し、荷重痛が減少し、立脚相における前額面の安定性が増加するソケットが徐々に広く製作されるようになりました。
複数の方が理論を発表されて名称が煩雑になったため、1990年頃、坐骨収納型ソケット(ischial-ramal containment socket)IRCという名称に統一されました。
1984年にシリコーンライナーが日本に導入され、懸垂性、衝撃吸収性や圧力の分散性に優れるため、下腿義足に用いられるようになりました。その後、大腿義足用のライナーも開発され、四辺形ソケット、坐骨収納型ソケットにシリコーンライナーを使用したソケットが作られるようになってきました。
その後1999年にMarlo Ortiz氏が発表した、股関節、大腿部の可動域が大変大きくなり、深く座ったり脚を広げることが容易にできるMASソケットも徐々に作られるようになってきました。
最近では、坐骨を覆わないソケット(NU-FlexSIVソケット)も製作されています。
 
我々義肢装具士が資格者として義足使用者に満足した製品を提供するには、様々な熟練が必要になります。
型取りの設備が整っているところであれば、採型のセミナーで学んだことを実践するには良いのですが、設備が整っていない病院、施設、ましてや自宅での対応もしなければならないのが現状です。
 
坐骨収納型、ライナー式においては、日本義肢装具士協会でセミナーが行われています。今回、皆さまには、まだまだ現場でのニーズがある四辺形吸着式ソケットの採寸、採型、設計までをお伝えしたいと思います。少しでも、現場で活躍されている義肢装具士の方のお役に立てれば幸いです。

 

黒石塾 講義内容


1.切断端の状態を把握する

まず、採型時に必要なランドマーク<坐骨大転子長内転筋大腿骨骨端>の部分を触診し確認します。
 
 
  • スカルパ三角はランドマークしませんが、採型後押さえを形作りますので位置を把握しておくことが大切です。(ギプス包帯を巻いた後は、位置がわからなくなるため)
  • 大腿骨と断端の可動域を調べます。屈曲、伸展、外転、内転と動かしながら正常かどうかを確認します。特に屈曲拘縮しているケースが多くあります。この可動域の情報は、採型時の肢位、そして義足の組み立て時に必要な情報となります。
 

四辺形ソケットにする際の筋肉の位置関係を把握することが大切です。
 

**この位置が理解できていない場合、ソケットを作って歩行いただいても、問題点の原因を明確にできません。
 

吸着式を製作する場合、断端の硬さによってコンプレッション値を変えなければ適合不良が起きます。
  • 切断端の皮下組織の状態は、手段1手段2で確認し、柔らかい or 普通 or 硬い、のどの断端なのかを見極めます。 



 
MAS ソケット コンプレッション値


コンプレッション値は当初、故飯田卯之吉先生が解析された数値で設計していましたが、10年前より、MASソケットの開発者が公表しているコンプレッション値で行っています。

 
 

2.採寸

採寸では、坐骨直下の周径をしっかり計測することが重要です。


断端の長軸に直角にメジャーを沿わせ最大周径を計測します。そこから設定されたコンプレッション値を絞った値を読み取ります。
義足装着においては、きつめのソケットまたはゆるめのソケットを好む方がいらっしゃいます。メジャーでコンプレッション値を絞めた状態で、もう少しコンプレッション値を増すか、減らすかは、切断者とコミュニケーションをとりながら決めていきます。この作業は、製作を進める中で経験を重ねて養っていきましょう。

 
**特に坐骨直下の寸法では、メジャーをあてる位置に気をつけましょう。
メジャーをあてる位置がずれたりすると、採型したモデルとの寸法値が4cmぐらい違うケースもあり、設計時に困りますのでより慎重に採寸する必要があります。筋肉質、肥満の方については坐骨が触れにくい場合がありますが、大転子の直下が坐骨と同じ高さにあると仮定し、その位置で坐骨を探すと探しやすくなります。
 



坐骨から長内転筋のAP寸法を計測します。また座面から長内転筋の高さと大腿直筋の高さの差を求めることで、坐骨直下の水平面の形状がより明確になります。
 



**ワンポイントアドバイス
リピーターの方で現在使用中のソケットが良好である場合、現在のソケットの断端長、坐骨直下の水平面の各々の寸法を計測し、自分が考えている設計寸法とのギャップ等があればお客さまと意見交換することがさらに設計寸法のゴールの精度を高め、より良い義足ソケットの製作をするために重要です。


 

3.採型

採型では、シーネを作り、会陰部の周りと外側に沿わせ、薄くてしっかりした陰性モデルを作ります。
 


汚れ防止断端に軽くテンションをかけるため、ストッキングを装着します。余分なストッキングは紐で縛りカットします。ランドマークと採寸位置にコピー鉛筆で印を入れます。
弾性包帯2巻程度で全体を巻き上げ、非弾性包帯を表面に巻き、運搬時に変形しない程度の厚みの陰性モデルを作ります。厚すぎると坐骨の下方に指をあてがいにくくなります。
 

**ワンポイントアドバイス

会陰部のシーネは二つ折りにし中央から4㎝のところに、長さ2.5㎝ぐらいの切れ目を入れておくと、長内転筋、ハムストリングが、圧迫を受けずに採型できますのでおススメです。
 



巻き終われば全体に手のひらで巻き上げた時に巻き込んだ空気を押し出すように撫で、しっかりとした包帯の層を作ります。
 

**包帯の巻き方にも技術が必要です。

断端面に平行に包帯を巻き、断端末は切断端の形状をそのまま崩さないように採型します。ぜひ模擬断端等で包帯を巻く技術を習得してください。
 



包帯の硬化が50%の時に第2指の末節骨あたりで坐骨を乗せるように位置を決めます。母指は大転子の後方の位置を軽く押さえます。もう片方の手は第2指から第5指は進行方向に平行に内股内側を整えます。母指はスカルパ三角の位置を軽く形作ります。内股の形状を作っている手を放し、外側の骨端より2cm近位のところから手のひらで内転位に押さえ、外側の形状を整えます。
50%の硬化では押さえても押さえが戻ってきますので、位置確認をしっかりしておくことだけで良いです。80%固まってきたらそれぞれの押さえを再度作り、体重を乗せる準備をします。その際、骨盤を水平に保ち、腰椎が後弯しないか確認し、ほぼ90%硬化したら採型したモデルに軽く荷重していただきます。坐骨で荷重ができているか確認します。
採型者は坐骨を乗せている第2指の末節骨と反対の手で断端末を内転位に保持し体重を支えます。
ほぼ硬化した(形状を作っている部分の戻りが無い状態)と判断したら荷重を止めていただき、骨盤水平、腰椎の過度の前弯、後弯しない姿勢で立位を保った状態で、矢状面、前額面より断端の中心から重錘線を描きます。(採型肢位の確認と進行方向の決定のため)
 

**ワンポイントアドバイス

押さえが完了し、手を外した状態から再度前額面、矢状面を確認し、骨盤の水平、進行方向に関し、断端が内外旋していないか、腰椎が屈曲していないかを確認し、良ければ再度体重をかけ、変形しない状況を確認し、前額面、矢状面で断端中心から重錘線を引いてから切断端からモデルを取りはずします。 熟練していけば、重錘線を引く前に近位のソケットのトリミングラインを描くことも良いでしょう。
 



取り外した後は、押さえの位置が正しく採型できているか確認します。
 

以上が切断端状況の把握~採寸~採型までの一連の講義内容です。
いかがでしたでしょうか。
 
最近はシリコーンライナーを用いた義足が主流になる中で、まだまだ現場ではライナーの義足に移行できないお客様も多数いらっしゃいます。そのような方々の義足を適切に採型し製作することは熟練を要し、長い経験が必要になります。そのためにこの仕事をあきらめる方もあると聞いています。専門学校及び教本で学ぶ知識を理解するまでには、沢山の症例経験が必要です。ぜひこの黒石塾で実践し、経験を積んでいただけますと幸いです。

 

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次回は設計についてお届けいたします。

執筆者プロフィール

黒石 義明 

 
経歴
昭和52年4月 川村義肢株式会社入社
昭和53年~昭和63年・・・・義手製作担当
昭和60年 オットーボックへ技術研修の受講
平成元年~平成8年・・・・・下腿義足担当
平成9年~平成21年・・・・股義足、大腿義足担当
平成22年~令和4年・・・・・義肢全般のメンテナンスサービス担当

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