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パシフィックニュース

目的別分類に基づいたスプリント作製について(第1回)

スプリント

リハビリテーション

目的別分類に基づいたスプリント作製について(第1回)

北海道文教大学医療保健科学部リハビリテーション学科作業療法学専攻
作業療法士 白戸 力弥

2024-03-15

 スプリントの分類には、アメリカハンドセラピスト協会が推奨しているModified Orthosis Classification System (MOCS)、日本義肢装具学会用語集の階層式に基づく分類、静的スプリント、漸次静的スプリント、静的改変スプリント、動的スプリントからなる機能別分類、対馬1)による目的別分類がある2)。臨床では目の前の対象者に対して、「どのような目的でスプリントを作製するか」の観点から、目的別分類を理解し、スプリントの適用目的を明確にした上で、スプリントを作製することが重要と考える。このスプリントの目的別分類については、2021年7月15日号のパシフィックニュース3)で概説した。本号を含め3回に分けて、このスプリントの目的別分類の1.固定・支持、2.保護・予防、3.矯正、4.訓練、5.代償、6.模擬についてさらに詳細に説明したい。尚、アメリカハンドセラピスト協会では、診療報酬を請求する際に使用するコードの関係上、「スプリント」の名称を使用せず、装具 (Orthosis〔Orthoses〕)の用語を統一して使用する決まりになっているが、ここでは日本で馴染み深い「スプリント」の用語を使用させていただく。
 本号では、スプリントの目的別分類の1.固定・支持、2.保護・予防について説明する。

1.固定・支持

 主な目的は炎症のある組織に対し、患部を固定し、安静にすることで炎症の鎮静化を図ることである。また、損傷組織の力学的強度が一定に回復するまでの間、固定・支持するために用いられる。さらに、外傷などが原因で正常では動かないはずの部分に異常な可動性が生じた場合に、これらの改善を図るために用いられることがある。これら「固定・支持」には、可動部分を持たない静的スプリントが適用される。
 安静目的のスプリントの具体例には、ド・ケルバン腱鞘炎や三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷後の安静固定用スプリントが挙げられる。ド・ケルバン腱鞘炎では手関節から母指CM関節とMP関節を、TFCC損傷後は手関節と前腕回旋運動を制限するためにスプリントで固定する。また、初期の手根管症候群においても手関節を安静固定するためにカックアップスプリントが用いられる。手根管症候群に対するカックアップスプリントは、手関節軽度伸展位を保持する通常のカックアップスプリントと異なり、正中神経に牽引が加わらないよう手関節中間位で作製するのがポイントである(図1)。
 骨折における保存療法では、一般的に仮骨が生じた後にギプスカット(キャストオフ)し、関節可動域訓練を開始する。これと同時にスプリントを作製し、関節可動域訓練時以外の日中と夜間時にスプリントを装着することが多い。この場合、スプリントは骨癒合が完成し骨の強度が回復するまでの期間、固定・支持する役割を持つが、加えて容易に着脱が可能な特徴を持つ。同様に、手指終止伸筋腱の損傷であるマレットフィンガーでは一定期間、アルフェンスシーネで固定後に間歇的な運動と並行して固定・支持を維持する目的でスプリントを作製する。マレットフィンガー用スプリントは、スタック型が広く用いられているが、てこの作用でDIP関節を伸展位に保持するためDIP関節背側部に圧力が集中し、皮膚トラブルが生じやすいため、この圧力を分散できるシェル型スプリントの作製、装着を推奨する(図2)。



図1 手根管症候群に対する背側型カックアップスプリント
オルフィキャスト 厚さ2.6mmを使用。




図2 マレットフィンガー用スプリント

  • 左図:スタック型
  • 中央・右図:シェル型(オルフィキャスト 厚さ1.3mmを使用)

2.保護・予防

 関節拘縮・変形を予防するため、また突発的外力から患部を保護するために用いられるスプリントである。これらのスプリントのほとんどに、可動部分を持たない静的スプリントが適用される。
関節拘縮・変形の予防のためのスプリントは、手の安全・良肢位を保つために作製される。近年は、骨折部を力学的強固に固定できる内固定材が誕生し、術後の固定・支持目的のスプリントが不要になってきているのが現状である。一方、手指の骨折では術後の腫脹や痛みなどにより不良肢位になることが多い。この不良肢位で関節拘縮が一旦生じると、これらをその後の訓練やスプリント療法で改善するのは至難の業となる。従って、術後の腫脹が顕著な場合は、不良肢位での関節拘縮を予防するために、安全肢位を保持するためのスプリント(図3)を作製することが必要である。また、関節リウマチの関節炎後の変形予防スプリントに、手指尺側偏位防止用スプリント(図4)などがある。さらに脳卒中片麻痺などの中枢神経系疾患による手指屈筋群の痙縮が強い痙性麻痺手には、スプリントを作製・装着することで屈曲拘縮の悪化を予防することができる。これらの症例では、前腕から指先にかけてのパーツを作製した後に、母指のパーツを作製するように工程を2つに分けると作製が容易である(図5)。
 患部を保護するスプリントは、異常感覚のある部位を保護する目的で作製することがある。異常感覚に対するアプローチでは、この部位に一定の刺激を加える脱感作療法が一般的である。しかし、これらのアプローチに抵抗し、異常感覚のある部位の使用が日常生活へ大きな支障をきたす場合は、あえてこの部位をスプリントで保護することがある。これらの対処はサルベージ的要素が強い。また、筆者は学童期の症例に対し、骨延長等で使用する創外固定器を保護するためのスプリントを作製したことがあり、これもまた学校生活における突発的外力から患部を保護することに役立つと考える。
 以上、スプリントの目的別分類の1.固定・支持、2.保護・予防について、代表的なスプリントをあげて説明した。次回のパシフィックニュースでは、3.矯正、4.訓練について述べる。


図3 安全肢位保持用スプリント(右第4・5中手骨頚部骨折術後)

  • 左図:受傷時3D-CT像
  • 中央図:術後X線正面像(ヘッドレスコンプレッションスクリュー固定)
  • 右図:安全肢位保持用スプリント(オルフィットソフトNS 厚さ3.2mmを使用)



図4 関節リウマチの手指尺側偏位防止用スプリント
オルフィキャスト 厚さ2.6mmを使用。



図5 痙性麻痺手に対するスプリント
アクアフィットNS 厚さ3.2mmを使用。

文献

  1. 対馬祥子:スプリント療法の適応.日本ハンドセラピィ学会編:手のスプリント療法,メディカルプレス,pp13-31,1996.
  2. 奥村修也:上肢装具.白戸力弥編:義肢装具学,中山書店,pp82-94.2024.
  3. P-News 2021.7.15号:スプリント療法の基本的な考え方と実践例

執筆者プロフィール



白戸 力弥(しらと りきや)
作業療法士
お問合せ:rshirato@do-bunkyodai.ac.jp
北海道文教大学HP:https://www.do-bunkyodai.ac.jp/

 <所属>
北海道文教大学医療保健科学部リハビリテーション学科作業療法学専攻 教授

同大学大学院リハビリテーション科学研究科リハビリテーション科学専攻 教授
北海道済生会小樽病院手・肘センター 非常勤作業療法士

<略歴>
2000年 昭和大学医療短期大学作業療法学科卒業
     横浜新都市脳神経外科病院
2001年 聖隷浜松病院
2007年 札幌医科大学附属病院
2015年 北海道文教大学人間科学部作業療法学科 准教授
2016年 札幌医科大学大学院 医学研究科 分子・器官制御医学専攻器官機能治療学領域 整形外科学修了(医学博士)
2020年 北海道文教大学人間科学部作業療法学科 教授
 
<主な所属学会等>
一般社団法人 日本作業療法士協会(認定作業療法士)
一般社団法人 日本ハンドセラピィ学会
一般社団法人 日本手外科学会
一般社団法人 日本肘関節学会
公益社団法人 北海道作業療法士会

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