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パシフィックニュース

モーリフト利用事業所からの発信 2

リフト・移乗用具

リハビリテーション

モーリフト利用事業所からの発信 2

社会福祉法人直心会 理学療法士 大畑 里美

2012-04-01

大分県北部八面山の麓中津市三光にある『つくし園』は、障がいを持つ子ども達の療育を志し昭和58年に開園しました。入所者の障がいの重度化・高年齢化から『つくし園』の定員40名の一部を用途変更し、平成21年5月に重症心身障がい児施設『すぎな園』を開園しました。入所部門の他、外来診療・外来訓練・未就学児の母子通園・在宅重症児者のデイサービス・短期入所を行っています。また在宅生活を支援するための在宅支援センターも併設しています。大分県県北地域だけでなく、県境に位置するため隣接する福岡県の市町村からの利用もあります。

今回、入所部門の介護作業の問題整理と理学療法士としての役割をふまえ、モーリフトを導入した経緯と導入後の結果・現状の2年間を、前号より引き続きご紹介します。

外観写真

リフト購入後 平成22年9月

導入直前の調査とミニ指導
リフト購入後、即介護現場導入は、

  1. 職員のリフトに関する知識・技術と「なぜ今リフトを導入するのか」の理解が充分浸透していないこと。
  2. リフトが使える環境(居室のベッド周囲等)の整備不足があることにより混乱を招く可能性があります。


今までの習慣・考えを変えてもらうことは、配慮を欠くと押し付けになりかねません。介護や機械の知識・技術だけでなく、自分自身の身体を知り身体を上手く使えることが、介護する側、介護される側、両方にとって安心・安全な介護を目指す上で重要なことであることの理解も大切だと思います。

腰痛の有無や腰痛を引き起こす動作をどのように思っているのかをアンケート調査し、自分自身の身体状態を知ってもらう目的の筋力検査・柔軟性検査を行うことで、介護現場の現状・問題を環境と身体の2点から共通理解することにしました。教育と環境整備のタイミングを同時に行うことは時間的に困難であったので、まずは全職員に対してアンケート調査・筋力検査・柔軟性検査と検査結果から腰痛予防ストレッチ指導を実施。環境については、現場で介護職員と理学療法士が使用しながら、問題点・改善提案を行いその上で現場導入へと繋げていきました。現場導入に先駆けてパシフィックサプライ社・モーリフト専任 武田インストラクターによるリフト使用に関する講義・伝達を実施したのは言うまでもありません。

【アンケート結果】

  1. 腰痛の有無について(図1)
    看護師、支援員の腰痛が多い
  2. 腰痛ありの腰痛を引き起こす動作について(図2)
  3. 筋力検査の結果 (図3)
    腰痛がある人は背筋が弱い傾向が見られた
    腹筋は腰痛ありなしに明らかな相関は見られなかった
  4. 柔軟性検査(前屈テスト)の結果 (図4)
    腰痛ありの人は腰痛なしの人に比べて硬い傾向にあった
    腰痛ありの人はハムストリングスが硬いという相関が見られた

図1、2

図3、4

リフト導入後 平成22年10月中旬

リフト使用する対象者・時間を決めて
介護現場にリフトを導入する際、現場職員に入所者の生活の中で必要性・有効性を実感してもらうことが、リフトを定着させていく最良の方法と考えました。移乗介助の負担が大きい入所者5名(体重30㎏以上 全介助)に対して必ず移乗の際はリフトを使用することを入所部門の責任者に提案、実施の方向になりました。日中は職員数があり二人介助が可能ですが、夕方の居室ベッド移動時は時間が足りない状況でした。まずはこの時間帯をリフト利用の機会とし、5名の入所者に対し介護職員と理学療法士と共にリフトを使用していきました。一日わずかな時間のため、全職員が使用・経験するには時間を要しました。それでも使用・経験できない職員には勤務中の時間調整をしてもらいお互いに使用し操作することで理解を深めてもらいました。

実際、使用した職員から「リフトを使うと楽」「身体の負担が少ない」「思ったより使いやすい」「リフト使用することで人員配置にゆとりができるかも」等好意的・前向きな意見が聞かれましたが、「時間がかかる」「操作が難しい」などの声があったのも事実です。

技術習得に関しては繰り返すことで習熟度を上げ、必要性については、リフト使用の都度、9月に行った腰痛予防目的の筋力・柔軟性検査結果を交え、介護者の負担軽減が利用者の安全・安心につながることを地道に説明していきました。

当面入所部門の利用は夕方の時間帯となり、日中は訓練室での使用が主となったので、訓練スタッフは個別訓練時間に合わせて使用・操作を理学療法士と一緒に行い習熟してもらいました。小児施設ということもあり訓練士の8割は女性です。訓練時の移乗には、二人介助が必要なこともありますが、リフトを使用することでスムーズな移乗が可能になりました。

このような流れでリフト導入は進んでいきました。

モーリフト

モーリフト

リフト導入後のアンケートと報告 平成23年1月

全職員と共通理解へ
リフト導入後約3カ月が経過した中で、職員にリフト使用に関するアンケートと腰痛に関するアンケートを実施、導入後の意識変化を調査しました。(図5)

リフトに関しては身体的負担軽減を実感し使用したいとの意見がほとんどでした。腰痛に関するアンケートの中で腰痛や身体的負担の軽減対策についての質問では、介助法の伝達、業務内容の改善、機器の使用以外にボディメカニクスを利用した介助・姿勢が必要との意見がありました。介護作業業務を行う上で自分自身の身体を機能的に使うことは腰痛予防において重要です。しかし許容値を超える重さを抱える時、人的介護で移乗の上げ下ろしを一定の力で不快感のないように行うには力が必要となります。

リフト導入時に行ったアンケート結果と身体状態(筋力・柔軟性)から、介護作業中の動作分析を行い、当園の入所者や生活活動の特色を含めて日常的に姿勢で注意する点・人的介助の限界・福祉機器の活用について園内学術研修会にて報告しました。昨年度からの継続内容のため、安全な介護に向けての意見が具体的に出されました。

同時に「介護労働者設備等整備モデル奨励金」申請のため導入効果をまとめてみました。その中で、当園で腰痛による休職はないものの腰痛を感じている職員数は27名いましたが導入後、腰部負担が緩和した職員は17名(改善率62%)でした。腰痛自体の消滅はありませんが、「作業時腰痛の意識が少なくなった」、「終業後の腰疲労が少なくなった」等の意見が聞かれました。1名の介護職員が「導入後腰痛症状の悪化があった」と答えていましたが、リフト操作時の姿勢が問題であったと判明、指導により改善に至りました。身体的負担が大きいと感じている職員数は33名いましたが、「導入後の身体的負担が減少した」と答えた職員は25名(改善率76%)でした。

調査期間が短いため、リフト導入効果として判断するには多少抵抗もありますが、リフトの存在(実際使用できること)と職員の介護作業業務での意識向上が効果に繋がったと日々の業務の中で確信しています。

今回のリフト導入の計画実行については訓練部門からの始まりですが、当園全体で取り組むことで職員全体が介護業務を共通の問題として捉え、改善方向に向かって個々が考える機会になりました。リフト導入で全てを解決できたわけではありませんが、一人ひとりが考えることで入所者への介護も相手を思いやったやさしい・安心・安全な質の高い介護となっていくと思っています。

図5:アンケート

そして現在 平成23年4月

現在リフトは1台ですが、スリングシートとバッテリーを新たに購入しました。入所部門の日常生活での活用は昨年度と同様であり使用頻度が向上したとは言えません。人的介助が早い・準備に手間がかかる・スペースが狭い等の理由です。

使用頻度を上げる手立てを考えていたところ、リフトの保守点検にパシフィックサプライ社・モーリフト専任 武田インストラクターの来園があり、駆動時間と駆動回数を見てもらいました。その結果思っていた以上の使用があったことが判明し、地道な取り組みを行っていく励みになりました。

職員数が少なくデータも不十分ですが、今回の取り組みを皆さんに紹介する機会を与えて頂いたパシフィックサプライ社に感謝いたします。またアンケートや研修に参加したくさんの意見を下さった当園職員の皆さん、実際にリフトに乗り意見を下さった入所者の方、そしてリフトのきっかけを下さったYさん(前号にて紹介した利用者さま)に感謝します。これを通過点とし今後もよりよい環境を目指していきたいと思います。

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