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ターボメドを使用した脳卒中片麻痺患者の歩行について

補助器具

脳血管障害

ターボメドを使用した脳卒中片麻痺患者の歩行について

明治国際医療大学 保健医療学部柔道整復学科
講師 奥田正作

2024-09-17

はじめに

明治国際医療大学 保健医療学部柔道整復学科で講師を務めております、奥田正作と申します。
この度、臨床結果から考えたターボメドの課題と可能性についてパシフィックサプライ様より執筆のご依頼をいただきました。
 
私は「装具はチームで考えるもの」と考えております。義肢装具士の皆様にもお伝えできる情報があればと思い、このご依頼を受けることにしました。
 
今回、ターボメドを使用してマラソン大会に参加した経験がある運動機能の高い脳卒中片麻痺患者の方の歩行を評価する機会がありましたので、ご報告させていただきます。

症例紹介

20代、女性。
16年前に左脳出血を発症。
右下肢の表在感覚、深部感覚ともに重度感覚麻痺。右下肢の分離運動は可能であるが、立位での背屈は困難、çraw toeが生じる。マラソン大会出場後、母趾の爪が剥がれたことがある。
右上肢は肩関節屈曲、外転の随意運動は可能であるが、手、指の随意運動は困難。
普段、装具は使われず、独歩。独歩の際、足趾が引っかかるため、骨盤の引き上げがみられる。マラソンの際はターボメドを使用。
今後の夢はトライアスロンに参加すること。水泳、自転車、マラソンを練習している。

運動機能評価

1.動作分析装置(VICON)
1)装具なしの独歩(図1)
IC:外側から接地
LR:
膝関節屈曲が生じるが、反張膝となり、床反力は膝関節軸の前側を通る。
PSW:膝関節屈曲が不足し、骨盤を引き上げながら下肢を持ち上げる。



図1.装具なしの独歩の歩行周期


2)ターボメドを使用した独歩(図2)
IC:踵から接地
LR:床反力は膝関節軸の後側を通る。
PSW:装具なし独歩に比べ、膝関節屈曲が不足し、骨盤を引き上げながら下肢を持ち上げる。


図2. ターボメドを使用した独歩の歩行周期


 
2.表面筋電図
1)装具なしの独歩(図3)
①大腿直筋:LRとPSWで筋活動を認めた。
②大腿二頭筋:遊脚後期に筋活動を認めた。
③前脛骨筋:PSWから次のLRまで筋活動を認めた。
④腓腹筋内側頭:遊脚後期からMSTまで筋活動を認めた。LRでは前脛骨筋と同時収縮が認められる。


図3.装具なしの独歩の表面筋電図


2)ターボメドを使用した独歩(図4)
①大腿直筋:装具なしの独歩と比べ、LRとPSWで筋活動が増加した。
②大腿二頭筋:著明な変化は認められない。
③前脛骨筋:装具なしの独歩と比べ、全体的に筋活動が低下した。
④腓腹筋内側頭:著明な変化は認められない。


図4.ターボメドを使用した独歩の表面筋電図

考察

ターボメドを用いることで、LRが改善し、PSWでは歩容が乱れる傾向でした。1歩行周期に2回の両脚支持期があり、1回目は単脚支持期の準備、2回目は遊脚期の準備と考えられています。今回PSWが乱れることで遊脚期に影響がみられました。
ターボメドを用いることで、踵からの接地が可能となり、床反力は膝関節軸の後ろを通り、大腿直筋の筋活動は増加しました。MSTでは重心が上がり、TSTで股関節伸展が増加、スピードが速くなりました。しかし、PSWではさらに膝関節の屈曲が不十分となり、骨盤の代償による下肢の挙上で、遊脚期の足部の引っ掛かりを防止していました。
本来、TSTで股関節が伸展することにより、股関節屈筋遠心性収縮が生じ、PSWで力が解放され、大腿が大きく前に押されます。下腿は慣性力で残り、大腿と下腿に速度の差が生じ、膝関節を屈曲することができます(図5)。今回は股関節伸展が可能でしたが、膝関節屈曲が不十分な状態でした。PSWの特徴は速い動きとリラックスといわれます。今回、重度の感覚麻痺があり、下肢を固める傾向がありました。立位の際、çraw toeが生じ、TSTでの中足趾節関節の伸展が困難で左右への重心移動がスムーズにできない状態でした。このため、PSWでは力を抜いた状態で、素早く反対の下肢に重心を移動させることが難しかったと考えられました。



図5. 遊脚振子

今回は、普段の生活では装具を使用していない方でした。このため、日常的に骨盤の引き上げが生じています。歩けるから、走れるからよいのではなく、トライアスロンに参加するためには、まず、歩行を改善させて、それを走行の改善につなげていくことが必要です。そのためにも装具への理解とターボメドを生かすためのPSW練習などサポートをしていくことが重要であると考えています。

執筆者プロフィール

奥田 正作 

明治国際医療大学 保健医療学部柔道整復学科 講師

【専門領域】
認定理学療法士(脳卒中)
認定理学療法士(補装具)

【資格】
理学療法士
柔道整復師

【所属学会】
日本神経理学療法学会
日本支援工学理学療法学会

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