パシフィックニュース
Keeogo ケーススタディ 脳卒中後の運動パターンのロボティクスによる運動促進
リハビリテーション
補助器具
パシフィックサプライ株式会社
理学療法士 松﨑 裕
2024-12-02
はじめに
Keeogoは、カナダで「Keep On Going(歩き続けよう)」という理念のもと開発された歩行補助機器で、現在は台湾のWistron Medical Technology社によって製造されています。このデバイスは下半身に装着し、A.I.(人工知能)が装着者の動作をリアルタイムで認識し、膝のモーターを通じて動作に合わせたアシストを提供する仕組みです。
従来のリハビリテーションロボットは、主に歩行アシストに重点を置いていますが、Keeogoは歩行に留まらず、起立や着座、スクワット、ランジ、階段昇降など多様な動作をサポートできます。重さは約7㎏と比較的軽量で、屋外での使用も可能なため、リハビリやトレーニングを屋内外で幅広い場面において行えるのも特徴です。
今回は、「Keeogoの装着が脳卒中後片麻痺患者の起立・着座動作にどのような影響を与えるか」について検証した症例報告を紹介します。
症例報告紹介
マクラウド(Mcleod, J.C.)、ワード(Ward, S.J.)、ヒックス(Hicks, A.L.)3名の発表論文(2017)に基づくKeeogoケースレビュー
症例
発症後3年が経過した、片側性の脳卒中の20歳の女性根拠と目的
装着者が、装着者自身の動作によってデバイスを作動させる動作支援ロボットは、「動作の計画」と「動作の開始」のサポートが必要である。また、脳卒中後のトレーニングにおいては、「モーターシステムが動作全体を通して機能しているかどうか」を確認することが重要である。上記の点からはじめに、「Keeogoによるアシストが、患者の動作の非対称性を改善することができるのかどうか」について検証した。
次に、「椅子での座位から立ち上がる時と立ち上がり完了時に、Keeogoが装着者の筋肉レベルで動作に効果的に関与しているのかどうか」について検証した。
私たちの目的は、片麻痺のケースにおいて、Keeogoが装着者に「よりよい質の運動を提供できるかどうか」「神経可塑性や感覚運動系の回復に必須のフィードフォワードおよびフィードバックのメカニズムを提供できるかどうか」を示すことである。
介入
被験者は、Keeogoを装着した状態と、装着していない状態とで、座位からの立ち上がり「Sit to Stand(SitTS)」を行い、その際のKeeogoのアシストレベルは、動作を促進し、左右非対称性を解消するようなアシストレベルに調整された。Keeogoの膝関節モーターからのアシストは、被験者が患側下肢に荷重をかけられるように調整された。計測には筋電計を使用し、大腿四頭筋を構成する筋肉の一つである外側広筋の筋電図を計測し、同時に、運動力学に関連して床反力を計測した。そして、活動/力のパターンを性別や年齢が一致した健常者である対照者と比較した。この補正の程度は、床反力による運動力学(Keeogo装着あり・装着なし)と、運動の左右対称性を観察することで検証した(図1A)。
図1A 計測の設定
結果
Keeogoの膝関節モーターのアシストにより、被験者は、座位からの立ち上がりまでの間、患側下肢に荷重をかけることができた。このことは、床反力から得られた圧力中心(CoP)測定値のプロファイルに反映されている(図1B)。図1B 座位からの立ち上がり(SitTS)、30秒間試行繰り返し中の被験者の内外側の圧力中心(CoP)
Keeogoを装着した状態とKeeogoの装着なしの状態を、性別や年齢が一致した健常者である対照者と比較。
非麻痺側方向の値が、マイナスとして示されている。
Keeogoを装着した麻痺側のCoPプロファイルは、性別や年齢が一致した健常者である対照者と、ほぼ一致し、Keeogoを装着していない場合は、座位からの立ち上がりまでの動作を通して平坦な波形を示した。これはKeeogoの有無によるもので、ベースラインに対し明確に大幅な振幅を示した(図2A)。
図2A 座位からの立ち上がり課題中のKeeogoの装着の有無による麻痺側外側広筋の筋電図
その一方で、非麻痺側の座位からの立ち上がりまでのCoPプロファイルに、Keeogo装着時のような明確な振幅がなかった(図2B)。
図2B 座位からの立ち上がり課題中のKeeogoの装着の有無による非麻痺側外側広筋の筋電図
これらの最小値と最大値が確認されたCoPプロファイルから、Keeogoを装着していない状態での座位からの立ち上がりまでは、麻痺側も非麻痺側も平坦であり、これに対して、Keeogoを装着した状態のCoPプロファイルは、性別や年齢が一致した健常者である対照者と、ほぼ一致していることがわかった(図2Cと図2D)。
図2C 座位からの立ち上がり課題中のKeeogoの装着の有無による麻痺側外側広筋の筋電図の最大強度と最小強度の経時的変化を、性別や年齢が一致した健常者である対照者と比較
図2D 座位からの立ち上がり課題中のKeeogoの装着の有無による非麻痺側外側広筋の筋電図の最大強度と最小強度の経時的変化を、性別や年齢が一致した健常者である対照者と比較
考察
Keeogoを使用することで、被験者は患側下肢に荷重をかけ、健常者と同じような動作ができるようになった。座位からの立ち上がりは、日常生活の中でも頻繁に行われる動作であり、生活の質の向上に必須のものである。Keeogoのアシストにより、座位からの立ち上がりを正しい方法で行うことが容易となり、日常生活でもKeeogoを使用するようになれば、生活の質を向上させ、転倒のリスクを軽減できる可能性がある。ユーザーの動作に反応するデバイスを使用したトレーニングは、求心性のフィードバックを上回るレベルの関与を保証するものであり、「動作の計画」や「動作の開始」をも含むものである。私たちはこのことを、脳卒中患者による、Keeogoを装着した状態での座位からの立ち上がり課題中の筋電図の計測により確認した。これらの記録は、動作パターンが、性別や年齢が一致した健常者である対照者と同様であることを明らかにした。また、このことは、被験者のモーターシステムが、課題の全体を通して、健常者と同様のパターンで動作を実行していることを示している。
Keeogoは、このパターンでユーザーが動作を繰り返す能力を促進する。私たちはこのことから、適切な動作に関与する運動回路を使用したトレーニングを促進することで、回復を促進する可能性があると提言する。また、運動制限があるにもかかわらず、患肢に荷重をかけることができる能力は、他の症状にも拡張できる可能性があると考えることもできる。
さいごに
今回の症例報告により、Keeogoが片麻痺患者の座位からの立ち上がり動作において、動作の対称性や患肢への荷重をサポートし、健常者に近い動作パターンを促進することが示唆されました。また、起立着座動作でも効果的に活用することで、患者さまの生活の質の向上に十分寄与できると考えます。
今回の報告では起立着差動作の実施時および完了時の変化を検証しており、経時的な変化は検証されておりませんが、正しい動作の再学習にも効果がある可能性があり、今後の検証すべき課題と感じております。
近年、リハビリテーションに様々なロボットが導入されつつあり、その中でもKeeogoは、対象となる症例の幅広さと高い自由度から、今回の症例報告の様な歩行以外の多様な場面でも使用可能である点で、セラピストが理想とするリハビリテーションの実現に貢献できる可能性があると考えています。
セラピストの皆さまのより良いリハビリテーションを行うための一助になること、また本当にKeeogoを使用したリハビリを必要としている方が利用できるような環境になることを願っております。
現在、Keeogoは医療機関向けにご紹介や勉強会の開催、機器評価のための無償のお貸出しも行っております。 ご興味をお持ちいただけましたら、是非弊社までお問い合わせいただき、実際にKeeogoを体験してみてください。
関連情報
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