パシフィックニュース
SCI(脊髄損傷)患者は、Keeogo™によって、よりよい移乗・歩行機能を達成する
リハビリテーション
補助器具
パシフィックサプライ株式会社
理学療法士 松﨑 裕
2025-01-06
はじめに
Keeogo(キオゴー)はカナダで「Keep On Going(歩き続けよう)」という理念のもと開発された歩行補助機器で、現在は台湾のWistron Medical Technology Japan株式会社が製造しています。このデバイスは下半身に装着し、A.I(人工知能)が装着者の動作をリアルタイムで認識し、膝のモーターを通じて動作に合わせたアシストを提供する仕組みです。現在、リハビリテーションの臨床において、様々なリハビリテーションロボットが歩行改善を目的に使用されています。
Keeogoもその1つで、歩行だけでなく、起立・着座や階段昇降など多様な動作をサポートできることが特徴です。
臨床の現場では、これらのリハビリテーションロボットが脳卒中片麻痺の患者に多く使用されていますが、Keeogoは脳卒中に限らず、幅広い症例に使用できることも大きな特徴です。実際に海外では、脳卒中に加え、多発性硬化症やパーキンソン病、脊髄損傷、変形性関節症などの患者に使用されています。
今回は、Keeogoが脊髄損傷患者の歩行機能と移乗動作に与える影響について検証した症例報告を紹介します。
要旨
SCI(脊髄損傷)の患者が、3ヵ月以上にわたる22回のリハビリテーションにおいて、従来の理学療法と組み合わせてAI搭載の装着型の外骨格デバイス:Keeogo™を使用した。その結果、機能的な運動性や下肢筋力の向上を示した。
この症例報告は、慢性的なSCI患者に対する、ロボットによるアシストと、従来の理学療法の組み合わせによる、座位からの起立(STS)と歩行の再訓練に対する効果を検証することを目的としている。
背景
K氏は、2015年8月に自転車での転倒により、C1~C4の脊髄損傷(ASIA B)を負った。脊髄固定術後、市民病院で、24週間にわたる入院リハビリテーションを受けた。
退院時のK氏は、車いす生活の状態であり、日常生活動作(ADL)は介助を受けていた。2016年の10月、彼はNTUCリハビリセンターと理学療法センター(Serangoon Central)で、リハビリテーションを継続していた。
課題
K氏は、2016年から2019年まで、3年間にわたってリハビリテーションを実施。
改善することはほとんどなかった。(表 1)。彼は、自身のリハビリテーションの予後を受け入れたが、それでも適用可能な歩行の治療に望みをつないでいた。
表1
既存のリハビリテーションの促進
Keeogo™は、装着可能な、AIを搭載した外骨格デバイスである。このデバイスは、筋力が低下した患者の座位からの起立や、歩行、階段の昇段などをアシストすることができる。
このようなロボット技術は、リハビリテーションにおいては新しいものではなく、近年では、脊髄損傷を含む神経学的症状をもつ患者のリハビリテーションにおいて、より多く使用されるようになってきた。
私たちは、Keeogo™が、以下のようなことを提供できるという仮説を立てた:
- K氏に対して、座位からの起立や歩行のような機能的動作中に、直接触覚的なフィードバックを与えることによりK氏の筋力や運動能力を向上させることができること
- セラピストの身体的負担を軽減しながら、安全で効果的に患者をサポートできること
リハビリテーション計画の促進
K氏は、週に2回、45~60分のリハビリテーションを実施。
従来のリハビリのセッションでは、体幹と下肢の筋力強化を行い、受動的立位、機能的電気刺激(FES)を使用したエアロバイクで構成した。
Keeogo™は、K氏のリハビリテーションに、2019年11月から2020年1月まで組み込まれた。
彼は、7回のKeeogo™トレーニングと、15回の既存のリハビリテーションを受けた。Keeogo™は、座位からの起立(写真3)と、ハーフスクワット、調整されたデッドリフト、歩行トレーニングに使用された。
左から順に写真1、写真2、写真3
写真1:2019年10月 歩行
写真2:2020年1月 歩行
写真3:Keeogo™での起立
結果
22回のリハビリテーション後、K氏は運動能力が改善し、ベッドから車いすへの移乗や座位からの起立、歩行器を使用した歩行などを行う際に、介助の必要が少なくなった(表1、写真1および写真2参照)。
K氏はまた、歩行速度や、機能的歩行カテゴリ(表2)においても、改善を示した。
加えて、リハビリテーションプログラムにKeeogo™を含めた後には、全般的な下肢の筋力も13%改善した(表3)。
表2
0 – 機能的歩行不可
1 – 歩行器・身体的介助を必要とする歩行 – レベルⅠ
2 – 歩行器・身体的介助を必要とする歩行 – レベルⅡ
3 – 歩行器、監視を必要とする歩行
表3
分析と考察
Keeogo™は、装着可能な、外骨格によるアシストが可能な歩行用(EAW)デバイスであり、地上での歩行トレーニングをサポートする。このデバイスは、距離や速度、機能において、歩行のパフォーマンスを向上させることが示されている(Zhang et,al.2022)。Keeogo™は、コンパクトで軽く、持ち運び可能なデバイスであり、下肢の運動開始や膝関節のよりよいコントロールに役立ち、代償動作を最小化する。
K氏は、2015年の秋以来、脊髄損傷に苦しんでおり、後に、2020年までKeeogo™を使用した。このような外傷としては、通常の回復過程(18ヶ月)をたどったにも関わらず、改善しなかったK氏は、Keeogo™を使用することで、自身の運動パターンや下肢の筋力を改善することに成功した(表3)。このデバイスは、フィードバックを提供し、K氏は起立や歩行の運動パターンを再学習することができた。このようなフィードバックは、既存の理学療法中には、容易に与えられるものではないであろう。
将来の方向性
K氏のようなASIA B外傷の患者は、T6までのチクチクとした疼痛を常時感じるが、それでもK氏は、歩行機能を獲得することができた(Vazquez et,al 2008)。
私たちは、装着可能なEAWデバイスの使用と既存の理学療法を組み合わせることの利点を研究するために、より適切な患者に、構造的なプログラムを使用してKeeogo™を適用し続けるであろう。
まとめ
FESのような既存のリハビリテーションと運動療法をベースとした治療を組み合わせた場合、Keeogo™の使用は、患者に触知できるフィードバックや、起立と歩行のトレーニングの運動コントロールを提供できる。このことにより、患者の筋力や運動の質はさらに向上する。またこのデバイスは、運動療法時の、セラピストの身体的負担を減らし、初期においては最大の介助を必要とする患者の安全性を保障するものである。
参考文献
Zhang L, Lin F, Sun L and Chen C (2022) Comparison of Efficacy of Lokomat and Wearable
Exoskeleton-Assisted Gait Training in People With Spinal Cord Injury: A Systematic Review
and Network Meta-Analysis. Front. Neurol. 13:772660.
Vazquez XM, Rodriguez MS, Peñaranda JM, Concheiro L, Barus JI (2008) Determining
prognosis after spinal cord injury. J Forensic Leg Med. Jan;15(1):20-3.
さいごに
今回の症例報告では、Keeogoを用いた脊髄損傷患者へのリハビリテーションの可能性と効果について紹介しました。Keeogoは、A.Iによるリアルタイムなフィードバックと膝のモーターアシストを通じて、脊髄損傷患者をはじめとする多くの症例において、歩行や日常動作のサポートを提供します。
K氏のケースからも明らかなように、Keeogoは既存のリハビリテーションと組み合わせることで、従来のリハビリテーションでは得られにくかった筋力の向上や運動パターンの改善を実現することが可能だと考えられます。
今後も、Keeogoのような装着型デバイスと従来のリハビリテーションを組み合わせたアプローチが普及することにより、より多くの患者が自立した生活を取り戻せることが期待されます。セラピストの皆様のリハビリテーションに役立つこと、また本当にKeeogoを必要とする方々が利用できる環境が整うことを願っております。
現在、Keeogoは医療機関向けにご紹介や勉強会の開催、機器評価のための無償のお貸出しも行っています。ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひ弊社までお問い合わせいただき、実際にKeeogoを体験してみてください。
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