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パシフィックニュース

VOCA事例報告

AAC(コミュニケーション)

VOCA事例報告

大阪府八尾市立医療型児童発達支援センター いちょう 保育士 田村 真澄

2012-07-01

大阪府八尾市立医療型児童発達支援センター 「いちょう」 は障がい児だけでなく、発達の遅れや発達が気になる子どもに対して専門的な療育(リハビリテーション・保育)を行い、発達を支援しています。今回は通園部 いちょう学園の療育において、VOCAを使用したコミュニケーションの中で、ビッグマックからスーパートーカーへの移行と遊びへの発展事例を報告いたします。

いちょう学園に通う子どもたちの中には、伝えたい気持ちを持っているにもかかわらずタイミングよく声が出ない、発声自体が難しいなどの理由により、伝えることの楽しさ、伝わることの喜びにまで発展できないでいる子どもたちがいます。
ビッグマックは、数年前から、子どもの生活への主体性を持たせる目的で使用しています。意図的に手を伸ばして押そうとしたり、押したい気持ちを表現出来るようになってきたものの、まだまだ設定された状況の中で職員が設置して押すという受動的なコミュニケーションの段階でした。

平成23年度にパシフィックサプライ社からスーパートーカーのレンタル提案があり、新たなVOCAにいろいろな可能性を感じました。子どもの成長段階に応じた取り組みができた1年間だったと思います。

隼輝君の事例

隼輝君は4歳児でPVLによる混合型の四肢麻痺で四肢の筋緊張が高く移動はほとんど不可能です。両上肢とも正中線を越えることは難しく、把握動作はみられません。視覚的には、斜視があり正中で物が見えにくい状態です。情緒・言語面ではYESは笑顔と発声で、NOは首を横に振る他、要求がある時に思い通りにならないと泣いて訴えていました。

まず、自分の要求や手助けして欲しい時の発信を目的として、彼が遊んでいる玩具の反対側の手の届く場所に「先生こっちにきて」と伝えるビッグマックを置きました。反対側にしたのは「押す」という動作を自分の意志で行なうため、反対方向に姿勢を変えることで、より主体的に使用できると思ったからです。何回か経験すると、「押す」ことで先生が来てくれることや、ビッグマックがいつも自分の側にあるということが分かり、安心して遊べ、楽しんで職員を呼べるようになってきました。

例えば積木倒しをして遊んでいる時、もう1回積んでほしい時などの要求時にもビッグマックを押して人を呼べるまで使えるようになってきました。次第にその頃から、J君に声を出して呼ぶように働きかけると、ビッグマックの音声後に自分から声を出して呼んでくれるように変化してきました。

私たち職員もVOCAのようなコミュニケーションツールを使うと、それを頼って言葉や声を使わなくなるという不安が解消し、むしろ自発的な発声・発語の手助けになると感じ始めた頃でした。

その後、スーパートーカーの使用を開始しました。隼輝くんは、伝えることの楽しさをビッグマックで経験しているのでスムーズに受け入れてくれました。その取り組みを順を追ってご紹介します。

1.物の選択

  • 最初は4分割のシートで、おもちゃの写真を貼り、自分の遊びたいおもちゃを選べるように作成。また「それ以外」の項目シート(?)を用意し、おもちゃPART2の用紙も作成。
     
  • 2分割でお茶・牛乳のシートを作成。飲みたい飲み物を選択。
    ※押す場所によって内容の違う言葉が再生されることがわかったようでした。また視覚的にも手操作的にも、その時点では4分割は難しいことを職員が感じることができました。

2.状況に応じた選択(2分割)

 「いってきます」「ただいま」・「訓練お願いします」「ありがとうございました」など状況に応じた場面を選択し、押し分けるように設定。(写真1)
※その状況にあったシートを押せるようになってきました。

写真1

3.会話(2分割)

  • 「給食の先生」「牛乳ください」当番で牛乳を取りに行った時に調理室の前で先生を呼び、先生が出てきたら用件を言うという会話形式に設定。(写真2)
    ※分割されたシートがわかり押し分けることができました。またこの頃から伝えること、伝わることが楽しくて自分の声でも伝えようとする気持ちがどんどん大きくなってきていました。

写真2

4.状況+会話によって自分で使い分ける

  • 「PTの先生の写真」「OTの先生の写真」「訓練お願いします」「ありがとうございました」訓練の時間によって押し分けるように設定。(写真3)
    ※2分割が使いこなせ4分割に移行しても押し分けることができるようになってきました。
     
  • 「給食の先生」「牛乳ください」「ありがとうございました」「牛乳取ってきましょうか」他クラスの牛乳も取りに行く時には他クラスの部屋の前で「牛乳取ってきましょうか」のボタンを押す等状況に応じた押し分けを設定。(写真4・5)
    ※会話形式で3回のやりとりができるようになりました。手の緊張で同じところを押し続けたり、慣れてきてふざけてしまうこともありますが両手を使い分けて押せるようになってきました。


隼輝君は今とてもよく声が出るようになってきて、それらしい発声で話をしたり、歌の一部分を歌ったり、信頼のおける職員には怒るという気持ちを素直に表現できるようになっています。1年間でとても大きな成長だったと思っています。今後の課題としては、集団の中にいる時にはみんなの楽しさに同調してしまい聞いているだけなので「ぼくのお話きいて」「先生こっちへきて」の2分割のシートをセットして常に傍らにおいておき、集団の場で自分から発信出来るようになってくれたらと思っています。

写真3

写真4

スーパートーカーを使う隼輝君

だるまさんがころんだ

いろいろな使い方をしているうちに子どもたちの遊びの場面でも使用できないかと考え、取り組んだのが集団遊びの「だるまさんがころんだ」の遊びでした。鬼が「だるまさんがころんだ」と「ストップ」の絵を2分割にして、押し分けるようにしました。(写真6)

また子は鬼の背中の代わりにビッグマックを押して「タッチ」と鳴らすようにしました。鬼は子が「タッチ」を押した時点で「ストップ」を押さければならないのですが、毎月の取り組みを通して子どもたちは理解しながら押し分けられるようになっていきました。また、子になった子どもは我先に「タッチ」しようとビッグマックめがけて寝返ったり、這い這いしたり手を伸ばしたりそれぞれの動きを使って押そうとします。ほとんどの子どもが身体の動きにくい、言葉の出ない子どもたちの集団ですが、VOCAを使うことでこんなに楽しく集団遊びが出来たことはとてもうれしく楽しい経験でした。(写真7)

最後にVOCAを使うことで伝えたい気持ちを高め、伝わる喜びを知ることで、自分から発信しようとする力が大きくなってくることの大切さを実感しています。また伝わったときの子どもたちのとても自信に満ちた表情はかけがえのないものだと感じました。これからも子どもたちの気持ちを受け止め寄り添いながら、様々な創意と工夫でコミュニケーションや遊びへと広げていけたらと思っています。

※保護者のご希望により実名を表記しています。

写真7

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