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装具難民を救え

装具

装具難民を救え

装具難民を救え

?社会制度と人口動態からみる現状、我々が今なすべき事とは?

西宮協立リハビリテーション病院 リハビリテーション科専門医 勝谷将史

2015/4/15

2014年9月6日脳血管障害への下肢装具カンファレンスin仙台(パシフィックサプライ?主催)にて基調講演をいただいた西宮協立病院リハビリテーション科専門医 勝谷将史先生に今回の執筆をお願いいたしました。人口動態から見えてくる現状と課題。“装具難民を救え”と題して問いかける私たちのなすべきこと。装具の意義が大きく変わりそうです。

日本の人口動態と高齢化社会

私たちが従事するリハビリテーション医療は社会制度や社会構造の変化に大きく左右されます。特に年少人口、生産年齢人口、老年人口などの人口構成の変化は重要な視点です。世界の人口統計予想では人類は増加の一途を続け現在の70億人から2085年には100億人を突破すると予想されています。特徴的な変化としては、2000年以降世界的な高齢化がすすんでおり2040年には高齢化社会から高齢社会に突入する点です。

では日本の人口動態を考えてみましょう。日本の総人口は、2013年6月1日現在、1億2732万人であり、65歳以上の高齢者人口は、過去最高の3156万人となっています。総人口に占める高齢者の割合(高齢化率)も24.8%と世界1位となり、ほぼ4人に1人は高齢者となっているわけです(図1)。戦後間もない1950年の高齢化率が4.93%、57位であったことを考えると、約60年間で諸外国をしのぐ高齢化が起きたといえます。

現在、日本の人口は2008年をピークに人口は減少局面に突入していますが65歳から75歳の人口の割合は2042年までは増加を続けその後は減少局面に入ると見込まれています。これに対して75歳以上の人口割合は右方上がりに増加を続ける事が予想されています(図2)。

2060年には高齢化率は39.9%となり2.5人に1人は65歳以上、4人に1人が後期高齢者となるわけです。2010年から2025年までの75歳以上の人口増加率を都道府県別にみると1位は埼玉県、2位は千葉県、3位は神奈川県となり、45位には島根県と鹿児島県が、47位は山形県となっています。急速な高齢化は都市部を中心に進みます。後期高齢者が増えることは65歳以上の家族類型別の世帯にも影響します。高齢者の単独世帯、夫婦世帯が増加し世帯数の大きな割合を占めることになるのです。

以上のことからまとめると日本社会の人口動態は

・ 75歳以上の高齢者が増加する
・ 高齢者の単独世帯、夫婦世帯数が増加し大きな割合を占める
・ 急速な高齢化は都市部を中心に進む

これらを踏まえた社会基盤の整備が必要となるのです。

図1 2013年における日本の高齢化率

図2 日本の人口推移

介護保険の推移と生活期の現状

次に介護保険について述べていきます。2000年から始まった介護保険における要介護者の推移ですが開始時218万人であった要介護者は2014年の時点で591万人となっています。また平成25年度国民生活基礎調査によると、介護が必要となった主な原因を調べて診ると脳血管障害が最も多く18%、続いて認知症が16%、高齢による衰弱が13%と続きます(図3)。ちなみに死因別にみた死亡率の年次推移ではこれまでトップ3に入っていた脳卒中は平成24年から第4位となっており、脳卒中の救命率もあがっている事が推測されます。要介護者591万人のうち脳血管障害の割合18%と考えると生活期脳卒中患者は107万人と推定され、これだけの人数が脳卒中による後遺症により要介護状態となっているわけです(図4)。

では生活期脳卒中患者の現状は実際どのようなものなのでしょうか。

・ 介護が優先され、介護保険の枠組みの中でリハビリテーションに十分な時間が割かれていない。
・ 評価が不十分で、機能的あるいは能力的に改善の余地があるにもかかわらず『6ヶ月の壁』を宣告される。
・ 装具に関して病院で十分な説明、教育がされず、また生活期では義肢装具士が直接的に患者に関わることが難しい システムになっているため装具のフォローアップが不十分。
・ かかりつけ医の多くは疾患管理が中心となり、障害の評価、診断にまで手が回らない。
・ CI療法、rTMS、反復促通療法、HANDS療法、ボツリヌス治療など最新の治療について知る機会がほとんど無い。

このような現実が生活期では散見され居住する地域、関わる福祉・医療スタッフなど患者をとりまく環境による個人差が非常に大きいのが現実です。この現状では充分なリハビリテーションが提供されず、処方された装具は耐用年数を越え、下肢の機能変化や形態変化により不適合に、下肢装具の不適合や破損などにより活動レベルの低下を招き廃用に至り、結果的に痙縮も増悪してしまいます。このような背景がまさに装具難民を生み出すことにつながっているのです。

装具難民を定義するとすれば以下のような状態を『装具難民』と定義できるのではないでしょうか。

・ 何らかの機能障害により本来装具が必要な状態だが装具処方の無い状態
・ 処方された装具が耐用年数を越え放置されている状態
・ 装具は処方されているが機能変化により装具が不適合な状態
・ 装具が破損しても放置されている状態
・ 装具に異常がある場合どこに問い合わせていいのか知らない状態
・ 関わる医療・介護・福祉スタッフが装具に関する知識が薄い状態

つまり装具難民を生み出す原因は、治療・情報・システム・教育の問題とも考えられます(図5)。

図3 介護が必要となった主な原因

図4 生活期脳卒中患者数

図5 装具難民を生み出す原因

地域に求められる連携と意識改革

装具処方の流れを考えながら問題点を整理してみます。装具処方には一般に2つの制度があります。1つは医療保険による治療用装具、もう1つは障害手帳による更生用装具です。医療保険による処方は医師の診察に基づき処方されます。これには患者さんが受診をする必要が生じます。また障害手帳による更生用装具は福祉事務所が窓口となり、一般的には更生相談所での判定により処方作製されます。この場合も患者さんによる申請がまず必要になります。急性期・回復期では医療保険で、生活期では手帳でも医療保険でも処方可能です(図6)。つまり制度的には十分に整備されているわけです。しかしながら医療保険,障害手帳での処方ともに患者自身がアクションを起こさなければ使える制度も使用できません。

患者自身がアクションを起こす為には自分で気づくか他者から指摘されるしか方法はありません。自分で気づく為には「処方された装具の効果や目的」・「装具の耐用年数」・「装具のトラブルシューティング」などの知識を身につける必要があります。その為には装具処方時、医師や療法士、義肢装具士から患者本人と家族に対して装具に関する十分な説明が必要なのです(図7)。2010年に慢性期脳卒中患者における下肢装具の現状を調査しリハビリテーション医学会学術大会で報告しましたが、装具の耐用年数に関して知っている方の割合は調査対象の15%のみ、85%の方はその知識を知りませんでした。

また他者から指摘されるには患者に関わる医療・介護スタッフが装具の異常や必要性に気づき、患者がアクションを起こせるように誘導する必要があります。その為には義肢装具士によるアフターメンテナンス、デイサービス・デイケアスタッフの意識改革、訪問リハ時の装具チェック、ケアマネジャーの知識レベルの向上などが必要となり、地域に装具チェック機構としてのシステムが求められます(図8)。

図6 脳卒中リハビリテーションにおける装具処方

図7 患者が知るべき装具の知識

図8 地域に必要な装具チェック機構

地域における新たな試み

現在このような生活期脳卒中患者を支える地域システム構築に向けた新たな試みもあります。その一つが関西を中心にいくつかの義肢装具会社、病院が参加する装具ノートの活用、もう一つは神戸でおこなわれている神戸装具療法地域連携ミーティングです。装具ノートは処方の目的や耐用年数、処方病院や作製会社などが記載されアフターメンテナンスや介護領域への連携などに役立っています。


神戸装具療法地域連携ミーティングは急性期から一貫した装具療法が継続され急性期から回復期までのリハビリテーションの質が担保できるように病院スタッフ(療法士、義肢装具士)間で協議を重ねています。このような新たな試みが広がれば、急性期から回復期で適切な装具療法が行われ、生活期では適切な装具のアフターメンテナンスが受けられるようになるでしょう。また地域での医療・介護スタッフの意識改革がなされ、装具の破損や不適合は早期に発見され、必要であれば新たに装具の処方がうけられるようになることが期待できます。

医療と介護の垣根を越えたパラダイムシフト

医療と介護の垣根を越えて当たり前の連携が職種間で行われるようになる為には医療系有資格者として義肢装具士の意識改革も必要になります。雇用体系が会社であるがために営業や製作者としてのイメージが強いのですが義肢装具というツールのスペシャリストであり医師や療法士と共に専門的立場から意見が述べられる臨床家としての自覚をもたなければなりません。また療法士の世界でもまだまだ装具療法に対する認識には個人差が大きく養成校や臨床現場での教育に改善が必要だと感じます。さらに医療系のみならず介護スタッフやケアマネジャーの装具に関する知識レベルの向上も必要です。

保険制度や職種の壁を越え、多職種での連携がすすみ地域の中での意識改革と教育・システムの確立が進めば、その連携は地域包括ケアシステムの一旦を担うかもしれません(図9)。

図9 地域包括ケアシステム

装具難民を救うために我々がなすべき事

急性期・回復期での治療から生活期へ、この変化は病院から家へ、すなわち生活の場への復帰を意味します。患者さんや家族にとってはここからがスタートであり、装具は生活期の中で本来の役割を最も発揮すべきツールであるはずです(図10)。生活期における装具難民の存在は我々リハビリテーションに関わる専門職種が責任を持って対応すべき問題です。

治療・情報・システム・教育、装具に関係するこれらの諸問題を解決する為、我々がなすべき事は以下のように考えます(図11)。

・ エビデンスに基づいた治療としての装具療法の確立
・ 処方装具に関する情報共有ツールと患者教育
・ 医療と介護の垣根を越えた多職種連携と個々の専門職種の意識改革
・ 介護職やケアマネジャーの装具に関する基礎知識向上
・ 生活期におけるフォローアップシステムの構築

誰かがやってくれる事を期待して待っていては変わるものも変わりません。変化を恐れず自らが行動してこそ装具難民を救うことができるのです。

図10 生活期の装具療法

図11 治療・情報・システム・教育の改善

著者紹介

勝谷将史(Masashi  Katsutani)
 
勤務先
医療法人社団 甲友会 西宮協立リハビリテーション病院
学歴
2003年(平成15年)3月 私立 兵庫医科大学 医学部 卒業
専門領域
リハビリテーション 科専門医

職歴
2003年(平成15年)4月 兵庫医科大学病院 研修医
2007年(平成18年)4月 医療法人 篤友会 関西リハビリテーション病院
リハビリテーション科 医師
2009年(平成21年)4月 医療法人社団 甲友会 西宮協立リハビリテーション病院
リハビリテーション科 常勤医師
現在 リハビリテーション科 医長
 
所属組織・学会
日本リハビリテーション医学会 学会員、代議員
日本義肢装具学会 学会員
日本ボツリヌス治療学会 学会員
  
組織運営
2009年(平成21年)8月 西宮脳卒中地域連携パス 世話人
2010年(平成22年)4月 NPO法人 リハビリテーション医療推進機構CRASEED 理事
2010年(平成22年)4月 阪神南圏域リハビリテーション支援センター 構成員
         (現在阪神南圏域の支援センター業務マネージメントを行っている)
2011年11月 市中在住脳卒中者に対する装具ボツリヌス併用運動療法研究会(CORABOSS: Conference Of Rehabilitation Approach with BoNT and Orthosis for community dwelling Stroke Survivor)を創設・世話人

勝谷将史氏

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